初回限定盤 ©創通・サンライズ

「君は刻の涙を見る」。40年の沈黙を破って甦った、幻の交響組曲

 1985年に放送されたアニメーション「機動戦士Zガンダム」は、「機動戦士ガンダム」の正統な続編だ。前作の7年後、地球連邦軍の抗争に巻き込まれた少年カミーユ・ビダンが、シャア・アズナブル(クワトロ・バジーナ)も参加する反連邦組織と共闘し、悲劇の中で成長していく。戦場の理想と現実に葛藤する大人の群像劇を印象づけたのは、なんといっても作曲家・三枝成彰の音楽──後期ロマン派の香り漂う重厚な管弦楽だろう。善悪二元論を回避し人間を描こうとした富野由悠季に共鳴し、作品と真摯に向き合った三枝の音楽は人気を博し、2025年放送のシリーズ最新作にも引用される〈クラシック〉となった。

 しかし40年前、アニメーションの劇伴が芸術として評価されることはなかった。三枝がオーケストラ用に再構成した“交響組曲Zガンダム”も、収録後に直筆譜が行方不明となり、長く〈幻の作品〉となっていたのである。2024年、倉庫から直筆譜が発見されるとプロジェクトは動き出した。バンダイナムコは、〈エンターテインメント定期〉を共同する仙台フィルと連携し各楽器のパート譜を作成。無類のガンダムファンである若手指揮者・太田弦にタクトを託し、2024年夏、三枝成彰立ち合いの元、仙台市で再演を果たす。

三枝成彰, 太田弦, 仙台フィルハーモニック管弦楽団 『交響組曲『Zガンダム』(仙台フィルハーモニー管弦楽団 エンターテインメント定期第2回 LIVE)』 SUNRISE Music Label(2026)

 「機動戦士Zガンダム」40周年の最後を飾るこの1枚は、そんな歴史的瞬間のライヴ録音である。第1楽章“Ζガンダムのテーマ”が流れ出した瞬間、脳裏にはカタパルトデッキから出撃するモビルスーツの勇姿が浮かぶ。第2楽章“戦争と平和”ではZガンダム登場の興奮を、第3楽章“宇宙巡洋艦のテーマ”ではハマーンの妖しい策略を感じるかもしれない。カミーユとフォウの悲恋が胸に迫る“愛の協奏曲”まで、全7楽章。劇中何度も耳にした音楽の断片が、私たちを宇宙世紀へと誘う。

 見出された楽譜が埋め尽くすジャケットも粋。初回盤には直筆譜を基にしたミニスコアが封入される。幻を甦らせた大人たちの本気に、カミーユも満足げに笑っているようだ。