英国の名門、B&Wのヘッドホンで聴く極上サウンド
イギリスを代表するスピーカーブランドのBowers & Wilkinsが2026年に創業から60周年を迎える。B&W(ビーアンドダブリュー)という略称の方が広く知られているだろうか。
スピーカーコーンの素材に軽さと剛性の高さを兼ね備えたアラミド繊維の一種であるケブラーを採用したM801を起点に、B&Wは数々の名機と呼ばれるハイファイスピーカーを作ってきた。アップルのポータブルオーディオプレーヤーであるiPodが全盛期を迎えていた2000年代には、iPodを充電しながら音楽再生が楽しめる高音質Dockスピーカー〈Zeppelin〉を展開したことで、B&Wのブランドと製品への関心が若年層の音楽ファンにも広がった。
そして、B&Wがヘッドホンを発売して今年で15周年を迎える。上質なデザインと優れた音質を兼ね備えた同シリーズは、2017年にはアクティブノイズキャンセリング機能を備えた〈Pxシリーズ〉に進化して、その人気を確かなものにした。
今回は最新のフラグシップモデル〈Px8 S2〉を紹介する。昨今はアップルのAirPods Maxをはじめ、高級ワイヤレスヘッドホンが人気を集めている。Px8 S2もオープン価格だが、想定売価が12万円前後という、昨今のワイヤレスヘッドホンの中でも抜きん出てプレミアムな価格の商品だ。
本機のサウンド、アクティブノイズキャンセリング機能の消音効果、モノとしての質感やデザインもまた別格と言えるほどに完成度が高い。専用設計による40ミリ口径のドライバーを、24ビット対応のDSP、Bluetooth通信用のシステムチップとは別に搭載するDACとアンプによりパワフルに駆動する。惜しむことなく、B&Wが持てる高音質技術を投じたことで、Px8 S2はサウンドのリアリティが圧倒的だ。ボーカルの息づかい、楽器のきめ細かな余韻など、本機が描き出すサウンドの情景は驚くほどに情報量が豊かだ。まるでオーディオルームに設置した高級スピーカーとアンプで聴いているような、雄大な音場をヘッドホンが再現する。コンサートホールの情景が浮かび上がってくるようだ。
筆者は幸いにも本機を試している期間、飛行機に乗って移動しながら試す機会を得た。過酷なノイズ環境の中でアクティブノイズキャンセリング機能の消音効果を試したところ、高音・低音の航空機ノイズをPx8 S2がとてもスムーズに消音してくれた。筆者が消音感を〈強い〉と表現しない理由は、その効果がとても自然で心地よいからだ。機能をオンにすると柔らかく、静けさに包まれる。音楽や映画などコンテンツのサウンドに深く入り込める。
本体の厚みがとてもスリムなヘッドホンなので、装着した時に頭が大きく見えない。ヘッドバンドの締めつけもキツく感じられなかった。イヤーカップ内部の空間がゆったりとしているので、心地よい装着感が持続する。ヘッドホンの側圧が苦手な方にもPx8 S2はおすすめできる。
ただし、ワイヤレスヘッドホンは一種のウェアラブルデバイスだ。腕時計や衣服のように、自分の身体の形状に合わない場合もある。そういう意味では筆者の装着感に関する評価を完全には信用しないでほしい。ショップ等に足を運んでみて、サウンドが好みに合うか、本体の装着感が自分にフィットするか等々、時間をかけながら吟味したい。なにせ10万円を超えるワイヤレスヘッドホンなのだから。
筆者が本機について気に入っているポイントについて、あと1つ付け加えるとすれば操作がとてもシンプルにできることだ。タッチセンサーリモコンを使わず、物理ボタンを押し込んで確かなフィードバックが得られる。B&Wのエンジニアが、上質なサウンドを楽しむためのワイヤレスヘッドホンをつくるため、ひたむきに情熱を注いだ意気込みが伝わってくる。
INFORMATION
最新のフラグシップモデル〈Px8 S2〉
https://www.bowerswilkins.com/ja-jp/product/over-ear-headphones/px8-s2/
FP45365P.html

山本敦(やまもと・あつし)
オーディオ・ビジュアル専門誌の編集・記者職を経て2013年からフリーランスとして活動。ハイレゾやワイヤレスなど最新技術に対応するモバイル端末やコンシューマーオーディオの音質レビュー、使いこなしに関連する記事を中心に執筆。得意の外国語で海外有名ブランドの開発者インタヴューも数多くこなす。