作品と人生と美学、音楽・美術・バレエの融合で体現――横尾忠則による三島作品を舞台美術として表現

 2025年は作家・三島由紀夫の生誕100周年である。僕自身三島の小説は「金閣寺」「潮騒」「豊饒の海」などいろいろ読んできたが、三島は僕が生まれる9年前の1970年、陸上自衛隊・市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げた。したがって、三島のことは直接知らないものの、〈伝説〉として人生の先輩方や映像を通じて伝え聞いてきた。ある意味、三島が残した陰と陽の部分を享受してきた世代かもしれない。

 そんな世代だからこそ、三島の〈伝説〉の一部が音楽、美術、バレエの融合によって再現される舞台公演を大変楽しみにしていた。今回の公演は、現代最高峰の作曲家、フィリップ・グラスが音楽を担当した映画「MISHIMA」(ポール・シュレイダー監督、1984年)のピアノ協奏曲“Mishima”が目玉だ。映画で使われた音楽をマイケル・リースマンが再構成し、協奏曲として編曲した。

 同曲を弾いた滑川真希は、グラスの演奏において世界的に知られるピアニスト。グラス自身からも多大な信頼を寄せられているだけに、滑川の演奏は三島由紀夫という大作家の作品と人生、美学を見事に示すものだった。第1楽章の「金閣寺」、第2楽章の「鏡子の家」、第3楽章の「豊饒の海」と作品ごとに割り振られた各楽章を緊張感をもって弾く姿には、三島本人が憑依したかのような迫力と気概が感じられた。

 オーケストラとピアノの前方では上野水香、青山季可、逸見智彦、京當侑一籠の4人が創作バレエを踊り、舞台後方には三島とも交流が深かった現代美術家・横尾忠則の三島に関わる作品33点が映像として映し出された。

 とりわけ強烈な印象を残したのが、横尾の作品群である。やはり三島のことをよく知っているだけに、それぞれの作品に三島の生き様がにじみ出ている。いや、横尾の場合、三島をよく知っているというよりも、三島と一心同体になっているのかもしれない。

 三島といえば、どうしても最期の市ヶ谷駐屯地での出来事が思い浮かぶが、三島作品も含めた世界観を表現したのがバレエだった。三島という人物は絢爛豪華な文体、派手なパフォーマンスの一方、人生全般において暗闇、静寂の部分も大きかった。それぞれのバレエダンサーが〈明と暗〉を緩急つけながら表現したことで、改めて三島由紀夫という大作家の人生が脳裏に浮かび上がってきた。

 映画「MISHIMA」は、今年の東京国際映画祭で初上演されるまで、日本では40年以上未公開が続いていた。それだけに、三島由紀夫生誕100年というタイミングでこの舞台を上演したことは、大きな意味があった。

 「MISHIMA」の舞台上演に先立ち、フィリップ・グラスの代表曲の一つである“ヴァイオリン協奏曲第2番「アメリカン・フォー・シーズンズ」”も演奏された。イタリアの大作曲家ヴィヴァルディ“四季”の〈現代的な対作品〉である4楽章構成の曲。この作品には〈春〉〈夏〉〈秋〉〈冬〉がどこに現れるのかという指示は一切なく、演奏者、聴き手の想像に委ねられる。

 ソリストを務めたヴァイオリンの川井郁子はこの難曲に対し、努めて冷静かつ精緻な姿勢で臨んだ。グラスの真骨頂であるフレーズやリズムの反復を地道に繰り返すことで、最終的にすさまじいパワー、エネルギーが会場全体を覆った。

 忘れてはならないのが、今回の公演で2曲を演奏した柳澤寿男指揮京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団。グラスの音楽は多大な集中力と緊張感を要するが、しっかりと役目を果たすことで稀有な舞台の形成に大きく貢献した。

 


LIVE INFORMATION
RENAISSANCE CLASSICS 三島由紀夫生誕100周年記念
フィリップ・グラス『MISHIMA』―オーケストラとバレエの饗宴―

2025年11月14日(金)東京オペラシティ コンサートホール
開場/開演:18:00/19:00 *この公演は終了しました

■演奏曲
フィリップ・グラス:ヴァイオリン協奏曲第2番“アメリカン・フォー・シーズンズ”/ピアノとオーケストラのための協奏曲“Mishima”

■舞台美術
横尾忠則

■監修
三谷恭三

■振付
堀内充

■出演
バレエ:上野水香/青山季可/逸見智彦/京當侑一籠
川井郁子(ヴァイオリン)/滑川真希(ピアノ)/栁澤寿男(指揮)/京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団