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ミカラ・ペトリ、東儀秀樹、山形由美、一噌幸弘――世界の笛奏者が集結!

 東京と芦屋で一部出演者を入れ替えながら、世界フルートフェスティバル2025が行われた。そのうちの東京公演を2月8日に紀尾井ホールで観た。出演者は、リコーダーのミカラ・ペトリ、雅楽の東儀秀樹、フルートの山形由美、能管の一噌幸弘。どの楽器も長い歴史があり、原点は旧石器時代にまで遡るという。そんな遥か昔かと感慨深い目で見てしまった。というのも一噌幸弘がMCで、ウチは安土桃山時代からなので、奈良時代からの東儀家には到底及ばないといった話をしたからだ。

 コンサートの第一部は、各出演者のソロ演奏だったが、2曲か、3曲という限られた選曲にそれぞれのスタンスやメッセージが感じられた。最初に登場したミカラ・ペトリは、次のプロジェクトのために準備していると聞くバッハ“無伴奏チェロ組曲1番ト長調BWV1007”よりと、“デンマーク民謡“マッズ・ドス”による変奏曲”を演奏。気品あふれる澄んだ音と共に、ヴィルトゥオーゾと言われるだけにまるで撥弦楽器のような音まで奏でた。

 二番手の一噌幸弘は、能楽一噌流笛方の生まれで、袴の腰に能管や篠笛、田楽笛を差して登場し、“獅子~能「石橋」”よりと、作曲家としても活躍する彼の自作曲“変幻花二ノ舞 ヤマカガシ旬跨ぎの手”の2曲を。能管に渾身の力で息を吹き込み、指を踊るようにリズミカルに動かしながら、野性味あふれる音を会場に響かせる。

 つづくフルートの山形由美は、リストの“愛の夢”を優雅に、自身が音楽を提供した映画「霧幻鉄道 只見線を300日撮る男」から“水の翼”を無伴奏で、そして、テノール歌手マリオ・ランツァがヒットさせたヴォーカル曲“ビー・マイ・ラヴ”と多彩な3曲を披露する。

 最後の東儀秀樹がまた彼らしかった。バックトラックが流れてきて驚くなか、笙と篳篥、さらにピアノも弾きながらシャンソンの名曲“枯葉”を。2曲目もピアソラの“リベルタンゴ”と、観客の感性を挑発する選曲とロック調のアレンジ、演奏になっていた。

 その東儀秀樹の和と洋の競演がいいイントロダクションとなり、第2部はジャンルを横断したコラボが展開された。そのなかで最も多く演奏したのがミカラ・ペトリ。フルートの山形由美とのショースタコヴィッチ作曲“2台のヴァイオリンとピアノのための5つの小品よりI. プレリュード IV. ワルツ V. ポルカ”は、完成された音楽の美しさで魅せたが、それ以外は未知なる世界だった。

 一噌幸弘作曲の“Isso’sジーク”はリコーダーと篠笛、“延年 深山之舞”ではリコーダーとフルート、能管、田楽笛という編成で、特に後者は能管が奏でる拍子とリコーダー、フルートが競演する異色の1曲だった。一噌幸弘によると、リハーサルでミカラ・ペトリと笛談義に花開いたそうだが、違いを超えて共鳴しあっているのが伝わってきた。

 東儀秀樹作曲の“三ツ星”では篳篥、笙と。その笙がフルートと“アヴェ・マリア”を演奏した時、ゆらぎのない音がシンセサイザーのように響き、神々しい宇宙が広がった。そして、最後は全員による坂本龍一の“東風~Tong Poo”の演奏となった。

 異ジャンルとのコラボにも果敢に取り組んできた超絶技巧の演奏家が集結したことで、楽器の潜在能力が引き起こす化学反応のおもしろさを体験できた。まさにここだけのパフォーマンスが繰り広げられた。世界にはパンフルートなどまだ笛が多くある。今後も異色の競演に期待したい。

 


LIVE INFORMATION
「世界フルートフェスティバル2025」〜世紀の笛奏者競演~The World Flute Festival

2025年2月8日(土)東京・紀尾井ホール ※終了
2025年2月9日(日)ルネサンスクラシックス芦屋 ルナ・ホール ※終了

■出演
ミカラ・ペトリ(リコーダー)
東儀秀樹(篳篥/笙)
山形由美(フルート)
一噌幸弘(能管/田楽笛/篠笛) *2月8日出演
藤原道山(尺八) *2月9日出演
福原彰美(ピアノ)

https://classics-festival.com/rc/performance/world-flute-festival-2024/