フィリップ・グラス
©Danny Clinch

 三島由紀夫界隈がどうも騒がしい。生誕100年のせいか昨年後半くらいから三島を取り上げた様々な催しが組まれている。アートだったり演劇だったりと工夫を凝らした切り口で三島由紀夫を表現しているのだが、その中で、作曲家、フィリップ・グラスの作品を軸に企画されたのが〈フィリップ・グラス『MISHIMA』―オーケストラとバレエの饗宴―〉だ。フィリップ・グラスは1985年公開の映画「Mishima: A Life In Four Chapters」(ポール・シュレイダー監督)で音楽を担当しているが、その作品を栁澤寿男指揮の京都フィルが奏で、そこでヴァイオリニストの川井郁子、ピアニストの滑川真希、バレエダンサーの上野水香がそれぞれのパフォーマンスを披露する。さらにそれを取り囲むアートワークを三島と親交のあった横尾忠則が手がけるという多次元のコラボレーションが実現することとなった。

 それでは川井、滑川、上野それぞれと、フィリップ・グラスや横尾忠則との接点はどこにあるのだろう。

川井郁子
Shintaro Shiratori, Sony Music Labels,Inc

 まず川井郁子は今回“アメリカン・フォー・シーズンズ”を演奏する。「彼の作品に挑むのは初めてですが、その前衛的で透明感のある世界観に魅力を感じます」と語るが、一方で横尾忠則とは、2021年に横尾忠則現代美術館における映像作品に参加している。横尾作品については「三島作品にも繋がるような、両極の要素が混在しつつ、深い印象を残す魅力を感じます。強烈な印象と、内省的な深さの両方をいつも感じます」と印象を述べている。

滑川真希

 滑川はフィリップ・グラスとの関わりが深いピアニストだが、今回は前述の映画のために書かれた“ピアノとオーケストラのための協奏曲“Mishima”を演奏する。「1985年に作曲された、フィリップがハリウッド映画音楽のデビュー作品を飾るものでした。この楽曲のピアノソロ版の世界初演に向けたリハーサルで、フィリップは英語訳で読んだ数々の三島由紀夫作品と彼が持つ三島由紀夫像を話してくれ、その的確さに圧倒されました。この曲は、単なる映画に付随する音楽ではなく、三島由紀夫が彼の人生の様々なピリオドで感じたであろう心情の描写〈光と影〉また、日本文化の中に奥深く潜む〈美〉〈静〉そして誰もが人生経験の中で知る、様々な色彩を持つ微妙な感情の移り変わりを見事に表しています。日本の俳句のように制御されたマテリアルから、じわじわと描き出される心の描写と色彩を楽しんでほしいです」とコメントしている。

上野水香
©Keita Haginiwa

 そして上野水香はこの協奏曲で牧阿佐美バレヱ団のプリンシパルダンサー(青山季可・逸見智彦・京當侑一籠)たちとバレエ作品を披露する(振付:堀内充)。上野の場合はフィリップよりむしろ三島由紀夫と深い接点があるのかも知れない。「以前、草刈民代さんのプロジェクト『インフィニティ』でフィリップ・グラスの音楽を踊りました。色々なジャンルのダンサーが揃う群舞の部分など、不思議な世界観があって延々と続いていくようなまさに『インフィニティ』でした。そして私にとって三島由紀夫さんといえば、モーリス・ベジャールの『M』ですね。もう4回関わっているので、最近では彼の作品について掘り下げるようになってきました。しかも先日は横尾忠則さんと対談の機会をいただいて、横尾さんからもいろいろ教えてもらいました」

 三者三様、それぞれのアプローチでフィリップ・グラス、横尾忠則、そして三島由紀夫に迫っている。一体どんな〈三島由紀夫=MISHIMA〉をステージに構築するのか、その目と耳で確かめたい。

 


LIVE INFORMATION
RENAISSANCE CLASSICS 三島由紀夫生誕100周年記念
フィリップ・グラス『MISHIMA』―オーケストラとバレエの饗宴―

2025年11月14日(金)東京オペラシティ コンサートホール
開場/開演:18:00/19:00

■演奏曲
フィリップ・グラス:ヴァイオリン協奏曲第2番“アメリカン・フォー・シーズンズ”/ピアノとオーケストラのための協奏曲“Mishima”

■舞台美術
横尾忠則

■監修
三谷恭三

■振付
堀内充

■出演
バレエ:上野水香/青山季可/逸見智彦/京當侑一籠
川井郁子(ヴァイオリン)/滑川真希(ピアノ)/栁澤寿男(指揮)/京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団

公演サイト:https://classics-festival.com/rc/performance/mishima-2025/