Page 2 / 6 1ページ目から読む

自分を認めて愛したかった

――今作『The Sky』は、その〈自分が前に出て歌う〉という挑戦の素晴らしい結果だと思いました。このアルバムはどのような経緯で制作されたのでしょうか?

「2024年の12月に『Save me』、2025年の5月に『Hold Me Tight (yourself)』というEPを出したんですが、その2作と『The Sky』は個人的に繋がっていて。『Save me』の制作時から、3部作で自分の弱い部分を段階的に描いていくことを構想していました。自分の核の部分に段々と近づいていって、最後は絶対に解決するような内容にしようと思っていて。『Save me』では自分の中の〈助けてほしい〉という気持ちと〈自分で自分を救いたい〉という気持ちのせめぎ合いを描いて、『Hold Me Tight (yourself)』では〈抱きしめたいけど、どちらかといえば抱きしめられたい〉という気持ちに気づいて……という具合ですね。『The Sky』はその完結編に当たります」

――なぜそうした作品群を作ろうと思ったのでしょうか?

「自分を愛したかったということに尽きますね。今までの僕は、過去の自分を否定することで変化しようとしていたと思うんです。でも『Save me』と『Hold Me Tight (yourself)』は、自分の核心にあるいい部分のことも考えて作っていて。“カーテン”(『Hold Me Tight (yourself)』収録)の歌詞にある〈人の笑顔が/何よりもおれの心を満たすから〉みたいな、人に馬鹿にされそうだけど本当に思っていることをいっぱい書いていったんです。それによって、自分がどうしようもなく内包してしまっている自分を認めることができたというか。意図しない成功や意図しない失敗によって、自分が思い描いた理想像とは異なる自分が形成されていく。そういう意図しない自分を認めていくことが、自分を愛することなんだと気づいたんですよね」

――3部作の個々のテーマ自体はその時々に見つけていったんですか?

「そうですね。それぞれの制作時期では心境に結構変化があったんですが、それを見越してテーマは未来の自分に託すことにしていました。

ただ、やっぱり最初から決めていたこともあって。実は『Save me』は『Hold Me Tight (yourself)』と同じく、当初はタイトルに〈yourself〉が入っていたんです。諸事情で現在のタイトルになってはしまったのですが、3枚目に〈yourself〉をつけないことは決まっていました。1枚目と2枚目では〈あなた自身〉をテーマにして、3枚目ではそれらすべてを内包したありのままの風景を愛することが大事だと言いたかったんですよね」

 

〈すべては無意味〉の先で生きていく

――『The Sky』は仏教における〈空(くう)〉の概念がテーマとのことですが、なぜこのテーマに決めたのでしょうか?

「僕は生きる意味を求めるような歌詞を書き続けてきたんですよね。不登校で幸せのラインが低い時期に曲を作り始めたのもあって、生きていてもいい理由が欲しくてしょうがなくて、ずっとそれを探し続けていたんです。ある程度年を重ねて自分も周りも〈そんなものはないよね〉と漠然と思うようになっても、なぜ生きる意味がないのかわからない以上、(意味を求めることを)諦めきれなくて。それで色々考える中で〈生きていたって死んでいたって、どっちも別に意味はない。ならば生まれてしまったからには、生きていた方が得〉という考えに至ったんです。これは収録曲の“せかいのしくみ”でまさに書いたことですね。

このアルバムは〈すべてのものに等しく意味がない。ならばどうする〉という諦めの境地を描いたものでもあるんですよね。僕は諦めることが凄く苦手で、挑戦することに生きがいを感じてきたんです。でも最近ようやく、諦めることで色々な物事が前に進むんじゃないかと思えるようになってきて。今までは〈諦めちゃいけない〉と思ったことをがむしゃらにやってきたんですが、諦めを挟むことで理性的になれることに気づいたんですよね。例えばどうしても達成できないことに直面した際に、〈じゃあどうやって目標に近づこう〉とか〈じゃあ別の自分なりの道を進もう〉という考え方になる。そういう何かを諦めるときの〈じゃあどうしよう〉という思考が、非常にクリエイティブだなと思ったんですよね。諦めた先で無意味なものに意味を見出していったり、死なない理由を見つけていったり……。

このアルバムの歌詞には〈無意味〉という言葉が結構出てくるんですが、それは無意味をどう捉えるかを描きたかったんです。無意味なものに対する考え方は人それぞれだけど、その違いこそが美しくて、人にとって生きていく理由になるというか。そういうテーマと親和性のある概念が〈空(くう)〉でした」