音楽ブログの発展と歩調を合わせ、全世界に広がったチルウェイヴ・シーン。Nobuyuki Sakuma(プロダクション)とNah(ヴォーカル)から成るJesse Ruinsは、潮目の変化が目まぐるしい新しい音楽の潮流のなかで、2011年に音楽ブログ〈Gorilla VS. Bear〉に取り上げられ、USはブルックリンの人気レーベル、キャプチャード・トラックスよりEP『Dream Analysis』をリリースするなど、海外でかなりの反響を巻き起こした。その後、一時的にバンド形態となった彼らは、2013年4月に初アルバム『A Film』をリリース(US盤はレフスから登場)。シンセサイザーのサイケデリックなレイヤーにシネマティックなイメージを投影した夢幻的なシンセ・ポップを展開していたが、そこから1年半の歳月を経て完成したセカンド・アルバム『Heartless』は、一転して、現行のロウハウスやインダストリアル・テクノとも共鳴する、〈インダストリアル・ポップ〉の現在進行形を追求。その目覚ましい進化が衝撃的な作品だ。
「『A Film』のリリース先をどうしようか考えている時には僕のソロ・プロジェクト、Cold Nameの曲作りをしていて。その後、アルバムがリリースされた時には、今年4月に出したCold Nameの『Eat Your Hand』に入ってる曲は出来上がっていたんです。だから、ただ好きな音楽を作っているだけの自分としては、Jesse Ruinsの『A Film』が1枚目だとすると、Cold Nameの『Eat Your Hand』が2枚目、そして、Cold Nameを踏まえて、そのさらに先の音楽を追究した今回が3枚目の作品になるんです」(Sakuma)。
『A Film』のシンセ・サウンドにも溶かし込まれていた要素を発展させるかのように、Cold Nameではインダストリアルやエレクトリック・ボディ・ミュージック、ブラック・メタルやウィッチハウス的なヴォイス・サンプルのスクリューを独自な作風へと昇華。本作『Heartless』がその発展形であるというのは、とても納得がいく。
「DJもやっているので、新譜は常にチェックしてますし、制作期間に好きな音楽が作品には反映されるので、僕にとって音楽性が変化していくのは必然なんです。最近のロウハウスやインダストリアル・テクノなんかももちろん好きだし、DJでもかけますけど、僕らは(そういったクラブ寄りの音楽に限らず)インディー・ミュージックもずっと聴いていますし、今回のアルバムは部分的にはメルボルンのHTRKの影響が大きいかもしれない。彼らも僕らと同じ男女2人組だし、ライヴ映像を観ても、ほとんど何もしてないのに絵になるんですよね」(Sakuma)。
ライヴを考え、バンド形態になったものの、形態に縛られない自由な音楽制作に立ち返った彼ら。NahはSakumaのイメージの具現化に徹して、2人の関係性は徹底してドライだというが、百聞は一見にしかず。彼女の存在こそが、Jesse Ruinsという特異なグループを象徴している。
「私の声は楽器、素材なんですよね。そして、ライヴにおいては、Jesse Ruinsの実在するイメージを担っているという解釈ですね。私が考えるJesse Ruinsですか? ファースト・アルバムの時は顔も隠して、存在するのかどうか、お化けのような感じでしたけど、その後はダークではありますけど、徐々にもやが晴れて、実体が明確化した気がしますね」(Nah)。
▼関連作品
左から、Jesse Ruinsの2012年のEP『Dream Analysis』(Captured Tracks)、2013年作『A Film』(Tugboat/Pヴァイン)、Cold Nameの2014年作『Eat Your Hand』(Desire)、HTRKの2014年作『Psychic 9-5 Club』(Ghostly International)
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ここでは本文で触れているもの以外のJesse Ruinsの関連作を紹介します。まず、Sakumaが主宰のひとりとして携わるCUZ ME PAINの2012年のコンピ『CUZ ME PAIN Compilation #2』(CUZ ME PAIN)には“Hera”を収録。続く2013年にも同レーベルのコンピ『CUZ ME PAIN Compilation #3』(同)にテクノ色の強い“Yekaterina”を提供しています。その他にも、HOTEL MEXICOとSapphire Slowsとのトリプル・ネームによるカセット作品などがありますが、タワレコでは入手困難なものが多く……。また、 Teen Runningsらを擁するレーベルから2013年に登場した、30秒以内の楽曲ばかりを集めた異色のコンピ『Sauna Cool 1』(Sauna Cool)に、SakumaがCold Name名義で参加。さらにNYの伝説的ポスト・パンク・バンド、アイク・ヤードの音源を題材にした2014年のリミックス集『Remixed』(Desire)では、Jesse RuinsとCold Nameの両方で腕を振るっています! *bounce編集部
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