(左から)マーティ・ホロベック、石若 駿

オーストラリア出身のベーシスト、マーティ・ホロベックがライフワークとして展開する『Trio』シリーズ。その最新作となる第4弾は、前作『Trio IV: The Mountains, They Listen』と対をなす『Trio IV: The CIty, It Whispers』と名付けられた。石若駿(ドラムス)、渡辺翔太(ピアノ)という日本の音楽シーンを牽引する稀代のプレイヤーたちと共に、彼らはどのようにしてこの〈山〉と〈都市〉のサウンドスケープを描き出したのか。マーティと石若の2人に、出会いのエピソードから録音の裏側、そして現在の日本の音楽シーンに対する熱い思いまでを語ってもらった。

MARTY HOLOUBEK 『Trio IV: The City, It Whispers』 APOLLO SOUNDS(2026)

 

名古屋のナイスガイ、渡辺翔太との出会い

――まずこの3人(マーティ、石若、渡辺)のトリオがどのように始まったのか教えてもらえますか?

マーティ・ホロベック「駿とはもうめちゃくちゃ付き合いが長くて、出会ったのは2015年とか。それから僕が日本に引っ越してきたのが2018年の8月なんだけど、その頃に青山の月見ル君想フにジェイク・シャーマンとアレックス・トスのライブを見に行ったんだよね。その時に、駿と翔太くんも来てて」

石若駿「そう。僕と翔太がジェイク・シャーマン好きだったから」

マーティ「そこで駿が〈これは渡辺翔太。最高のピアニストだよ〉って紹介してくれた。駿はすごいナイスガイだから、普段から誰にでも〈めっちゃいいピアニスト!〉って言うタイプだと思ってたんだけど(笑)」

石若「いや、僕は本当に最高のピアニストだと思って言ってるから(笑)!」

マーティ「その頃翔太は名古屋に住んでたから、〈名古屋に来るタイミングがあったら一緒にやろう〉って言ってくれて。実際に名古屋のスターアイズっていうライブハウスでブッキングしてもらったんだ。僕の曲は結構難しい曲が多いから〈大丈夫かな〉って思ってたんだけど、翔太は初見でバッチリ弾いてて。ついでに家にも泊めてくれて、ナイスガイだなって思ったんだ」

石若「翔太は読譜力も高いし、初見での演奏もすごいからね。その時はトリオ?」

マーティ「その時はデュオだね。だからいつか駿と翔太とやりたいなと思っていて。翔太トリオも駿が叩いていたし、僕のトリオにも駿が入っていたから。その後、『Trio I』のリリースライブで本来来るはずだったピアニストがコロナで来られなくなって、翔太にお願いしたのが、この3人で演奏した最初ですね」

――石若さんと渡辺さんはいつ頃からのお付き合いなんですか?

石若「僕が高校生(16歳)で翔太くんが20歳くらいの頃だったと思う。それも名古屋のスターアイズでした。マスターの岩城(正邦)さんが、名古屋のミュージシャンと若手を掛け合わせてブッキングしてくれていて、そこで一緒にやったのが最初。寺久保エレナと渡辺翔太と、徳田智史さん、向井滋春さんっていうバンドだった。翔太くんは優しくて、車でドライブに連れて行ってくれて」

マーティ「楽しそう!」

石若「渡辺翔太トリオが始まったのもそのお店の企画がきっかけなんです。渡辺翔太トリオは去年10周年のライブをやりました」

 

インディーロックやヒップホップを意識した都会的な音

――今回の作品は『City』ですが、前作の『Mountains』とはどのようなコンセプトの違いがあるのでしょうか?

マーティ「すごくシンプルに言うと、『Mountains』は山梨の八ヶ岳の森の中で録ったアルバム。チルして、休憩の間に外でコーヒーを飲んで山を見るような雰囲気。

対して今回の『City』は、東京で夜の24時から朝の4時まで録音したアルバムなんです。みんな仕事が終わってからスタジオに入って、〈じゃあ録音しよう!〉って朝までやって、次の日はまた別の仕事に行くっていうタフなスケジュールで。すごくシティボーイなバイブスだなと思って」

――録音の日付を見ると、今回の『City』のほうが先に録音されているんですね。

マーティ「音作りの面でいろいろ悩んでしまって。その間に〈また録りたい〉ってなって山梨で『Mountains』を録った。そっちがすごくいい出来だったから、〈じゃあもう1回『City』の音源を聴き直してみよう〉ってなって、聴き返したら〈あれ? めっちゃいいじゃん!〉ってなったんだよね」

――悩んだのはどんなポイントだったんですか?

マーティ「『Trio II』、『Trio III』、『Trio II: 2』は全部自分でエンジニアリングもやっていて、『City』は違うエンジニアにお願いしていたんです。で、『City』は自分のエンジニアリングで作る音とか考えていることと、ちょっと違った音に思えて。録ってすぐは『Trio I』と同じものが出来てしまった感触があったんです。でも僕は、アルバムは毎回違う音にしたい。同じだったら出す意味が無いと思っているから。でも、時間をおいて改めて聴いてみたら全然違うものにちゃんとなってるなと思うことが出来たんですよね」

――じゃあ『City』『Mountains』っていうコンセプトはむしろ後からついてきたものなんですね。

マーティ「そう。毎回『Trio〜』だとわかりにくいから、今回はタイトルをつけようと思いました。でも環境による気持ちの部分はやっぱり大きい気がしますね。

楽器も『Mountains』はアコースティックベースギターと生ドラム、アップライトピアノでほぼ生楽器。『City』の方はシンセサイザーが入ったり、エレキベースにもめちゃくちゃエフェクトをかけたりしてます」

石若「具体的な録り方で言うと、『Mountains』の方は一つの部屋に全員がいて、セパレーション(隔離)なしで録ったんだよね」

マーティ「そうそう。引っ越したばかりの僕の家のスタジオで、奥さんの実家から持ってきたピアノを調律してそのまま録って。大変だったよね」

――『City』の音色面はどんなコンセプトでしたか?

石若「僕の楽器でいうと、『City』の時はジャズっぽいセットじゃなくて、もっとインディーロック寄りのセッティングでピアノトリオをやるイメージでした。バスドラムも22インチでジャズトリオにはデカめにして。クラップスタック(ハンドクラップの音を再現するシンバル)を使ったりとか」

マーティ「そう、インディーロックやヒップホップ系の音を意識しましたね。翔太もプロフェット(シンセサイザー)を持ってきたりして。僕もIbanezのめちゃくちゃ安くハードオフで買ったベースを使いました。あのベースはなにか魔法がかかってると思うんです。価格やグレードでいったらいい楽器じゃないんだけど、不思議な魅力があって。それもインディーロック感に寄与していると思いますね」

 

この3人で普段出会わない音楽をやったらどんな響きになる?

――最近はマーティさん自身が録音などのエンジニリングやミックスを手がけることも増えましたね。

マーティ「そうですね。最初に自分で録音したのは『Trio III』かな、『Trio II』よりも前に録っているから。2作ともミックスはやってなくて、録音だけなんですが」

――それはなにかきっかけがあるんですか?

マーティ「もともと家でベースを録ったりはしていたんです。それがコロナ禍で時間が出来た時に、山梨の八ヶ岳星と虹レコーディングスタジオで、僕の師匠というかメンターであるジム・オルークさんや石橋英子さんからマイキングやミックスの技術をたくさん教えてもらったんです。ジムさんが〈ここでレコーディングしたかったら僕の機材も使っていいよ〉というので、やるしかないと思って。それで作ったのが『Trio III』です。あの時はコロナ禍だったからみんなすごく暇だったしね。その後『Trio II』を作って。最近ではエンジニアの仕事も増えてきましたね」

――自分でレコーディングをするようになると、ベースプレイにも影響はありますか?

マーティ「そうですね。プレイの面でも〈こういう弾き方をしたらミックスでどうなるか〉とか〈この音色だったらライドシンバルと相性が良さそう〉みたいなことを考えるようになって、視野がすごく広がったと思います」

――今回ミックスを担当されたジョー・タリアさんへのオーダーはどのようにされましたか?

マーティ「ジョーさんは僕がオーストラリアにいた頃からのマブダチですね。日本にも住んでいたことがあって、その時は新中野で隣のマンションに住んでいた。『Trio I』も彼がミックスしたんだ。今回はリモートでやり取りしたんだけど、ジョーさんは僕の好きな音を完全に理解してくれてる。だから〈もう少しインディーっぽく〉みたいなコンセプトを伝えるくらいかな。特に彼はリバーブの使い方がめちゃくちゃうまくて、僕は彼を〈リバーブのオビ=ワン・ケノービ〉だと思ってる(笑)。

今回のアルバムのジャケット、どこだかわかる? 駿ならわかると思う」

石若「……中野じゃない?」

マーティ「正解! これがオリジナルフォト。見て見て」

石若「あっ、中野サンプラザ!」

マーティ「そう(笑)。あの頃に住んでいた新中野のアパートから撮った写真なんだよ。隣にあるのが、ジョーさんのアパート」

石若「ジョーさんもドラマーだから、自分が叩いて聴いているそのままのいい音にしてくれるんだよね。ドラマー特有の音の距離感とかタッチをわかってくれてるから、本当に理想の音になります」

――アルバムの先行シングルにもなった“Eternal”は、非常に隙間があってコンセプチュアルな曲ですね。

マーティ「実は、今まで作った曲の中で一番好きかもしれない。シンプルなメロディだけどエモさがあって。駿のローピッチのスネアや、翔太の弾きすぎない伴奏が最高で、録った時にすごく感動したんだ。だからこれをシングルにしようと思った」

――“The Things We Carry”では先ほどお話にあったプロフェットの音色も聴けます。

マーティ「トリオのフォーマットで、シンセがメロディをとるっていうのはあまりやったことがなかったので、これは僕なりのフュージョンですね」

――一方で、石若さんが提供した“Wall Edge Cheers”はかなりぶっ飛んだ曲です。

石若「翔太とマーティのことはよく知ってるけど、〈この3人がそれぞれ普段出会わないような音楽、やったことのないような音楽を試すとどんな響きになるんだろう?〉っていうのを楽しみたくて書いた曲。翔太が両手を高音低音に開いてギャンギャンとクラスターを弾かせるような曲は他のバンドでもあんまり聴いたことがないし、このトリオのためだからこそ出来た曲ですね。これが見えたから、また次のサウンドの広がりも見えるし、感触としては大成功だと思います」

マーティ「しかも、みんなヘトヘトになってる朝の3時半に、あの変な曲を持ってきたんだよ(笑)! 事前に譜面も送られてなくて、初見でパッとやって」

――ラストの“ii imi de”はBPM 390超えの超高速スイング曲です。

マーティ「『Trio』シリーズでファストスイングはやったことがなかったから、ちょっと変な曲を書きたくて。シンプルでキャッチーだけど、小節数が10とか12とかで怪しさがある。すごく〈いい意味で〉頭のおかしい曲になったと思う(笑)。好きな日本語なんですよ、〈いい意味で〉」

 

今の日本のシーンからもっと面白い音楽が生まれる

――最近はマーティさんも石若さんも、藤原さくらさんや椎名林檎さんなど、J-POPの第一線で活躍されています。日本の音楽シーンがすごく面白いことになっていますね。

石若「そうですね。時代の移ろいで、さまざまなシーンでアーティストたちの人間的な距離感が近くなっていて、みんながみんなどこかのタイミングで友達になっているような認識がそうさせているのかもしれません」

マーティ「確かに、今の日本のシーンは本当に面白い。ロンドンに近いかもしれないね。ポップスの音楽の中に、ジャズやクリエイティブなミュージシャンが入っていくことで、これからもっと面白い音楽が生まれるんじゃないかな」

――最後に、マーティさんが『Trio』という形態にこだわり続ける理由を教えてください。

マーティ「トリオはバランスがちょうどいいんです。『Trio』シリーズは〈オーバーダブはほぼしない〉というルールがあるから、音数にも制限があって。駿の4つの手足、翔太の鍵盤、僕のベース。限られた中で生まれるスペース(空間)がすごく大事なんです。人間関係としても、3人って完璧なバランスだと思う。ブラッド・メルドーのトリオも好きだし、ジミヘンのトリオも好きだし、クラシックのピアノトリオ(ピアノ、バイオリン、チェロ)も好きなんですよね。これからもトリオのシリーズは、死ぬまで……まあ10枚目くらいまでは作り続けたいね(笑)」

 


RELEASE INFORMATION

MARTY HOLOUBEK 『Trio IV: The City, It Whispers』 APOLLO SOUNDS(2026)

リリース日:2026年4月1日(水)
品番:APLS-2605
価格:3,300円(税込)

TRACKLIST
1. The Things We Carry
2. Disturbed Utopia
3. Wall Edge Cheers
4. Green Sofa
5. Eternal
6. Europic (for S.W.)
7. ii imi de

All pieces composed by Marty Holoubek except “Wall Edge Cheers” (by Shun Ishiwaka) and “Green Sofa” (by Shota Watanabe).

Recorded on November 2nd, 2023 at Studio Dede, Tokyo, Japan.

■Member
Marty Holoubek - Bass Guitar, Double Bass
Shota Watanabe - Piano, Rhodes & Synthesisers
Shun Ishiwaka - Drums & Cymbals

■Credits
Produced by Marty Holoubek
Recording Engineer: Akihito Yoshikawa & Ryoto Suzuki
Assistant Engineer: Yo Inoue
Mix & Mastering by Joe Talia at Good Mixture Studios, Australia. 
Direction by Jun Abe from APOLLO SOUNDS
Cover Art & Design by Minchai Lee

 


PROFILE: MARTY HOLOUBEK
南オーストラリアのアデレード出身のマーティ・ホロベックは、現在東京を拠点にするミュージシャンです。幼少期から音楽への情熱を抱き、10代でベースを始め、まもなく優れたミュージシャンとしての評判を得ました。21歳のとき、活気ある都市、メルボルンに移住し、その芸術性が開花し始めました。メルボルン時代にはアラン・ブラウン、ポール・グラボウスキー、スコット・ティンクラー、ジェイムズ・モリソン、ジェイムズ・バウワーズ、クリオ・レナー、セックス・オン・トーストなどのアーティストと共演を重ねました。2018年8月、新たな音楽の探求を深めるために、東京への移住を決断しました。この賑やかな大都市に広がる豊かな文化的背景とダイナミックな音楽シーンは、彼の創造性がさらに発展する理想的な環境となりました。東京に到着して以来、マーティは日本の音楽シーンで急速に注目され、日野皓正、森山直太朗、上原ひろみ、ジム・オルーク、石橋英子、ermhoi、崎山蒼志、HIMI、a子、角銅真実、石若駿、岡田拓郎、Answer to Rememberなどの著名なアーティストと共演しています。多様な影響が組み合わさり、独自かつ魅力的なサウンドを生み出す機会に恵まれました。アデレードで生まれ、メルボルンの音楽シーンで育ち、現在は東京のクリエイティブな土壌にしっかりと根付いたマーティ・ホロベックの音楽は世界中の観客を魅了しています。
オフィシャルサイト:https://www.martinholoubek.com/
X:https://x.com/martyhbass
Instagram:https://www.instagram.com/martyhbass

PROFILE: 石若 駿
打楽器奏者、作曲家。1992年、北海道生まれ。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校打楽器専攻を経て、同大学を卒業。卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。自身のプロジェクトとしてAnswer to Remember、SMTK、Songbook PROJECT、若駿トリオを展開。また作編曲家として、さまざまなアーティストや映像作品のサウンドプロデュース、楽曲提供を行う。これまでに、日野皓正、くるり、椎名林檎、米津玄師、星野源、KID FRESINO、君島大空 合奏形態、CRCK/LCKS、Banksia Trio、Marty Holoubek Trio ll, IV、Yuya Wakai Trio、David Bryant Trismicなど多数のミュージシャンのライブ、レコーディングに参加。 海外アーティストとの共演も多く、ハービー・ハンコック、カート・ローゼンウィンケル、ジェイソン・モラン、フェデリコ・カサグランデ、トニー・アレン、ジェイムズ・フランシーズ、ジョン・スコフィールド、テイラー・マクファーリン、ピーター・エヴァンス、ファビアン・アルマザン、リンダ・オー、リチャード・スペイヴン、コーリー・キングの来日公演に参加。ソリストとして、上野耕平、山中惇史、角野隼斗らと名古屋フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、オーケストラ・アンサンブル金沢と共演。 2022年、人工知能による自分自身との共演を試みた石若駿+YCAM新作パフォーマンス公演〈Echoes for unknown egos―発現しあう響きたち〉を実施。2023年、HTBジルベスターコンサートにて自作の打楽器協奏組曲“playgroundz (for percussion)”を札幌交響楽団と共に世界初演。同年公開された劇場版アニメ「BLUE GIANT」では登場人物・玉田俊二のドラムパート実演奏を手がける。2024年、Answer to Remember『Answer to Remember II』が〈第17回CDショップ大賞2025〉のジャズ賞を受賞。2025年、日米交流団体であるジャパン・ソサエティーの主催による音楽シリーズ〈石若駿:ジャズ・トランセンディング〉を米ニューヨークで開催、好評を博す。最新アルバムとして、石若駿トリオ『Live at ALFIE “Temporal Cubic”』、石若駿、市野元彦&カノア・メンデンホール『TEINE』の2作を2025年12月に同時リリース。他に類を見ないアプローチで音楽シーンに影響を与え、新たな潮流を生み出している。
オフィシャルサイト:https://www.shun-ishiwaka.com/
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