オーストラリア、メルボルン出身のトロンボーン奏者で作曲家のジェームズ・マコーレイ。彼が率いる10人組のジャズポップバンドJames Macaulay and The Ancient Highballsが、1stアルバム『Happy Sad』をリリースした。石若駿(ドラムス)、井上銘(ギター)、栗林すみれ(ピアノ/バッキングボーカル)、Taikimen(パーカッション)、中島朱葉(アルトサックス)、西口明宏(テナーサックス/ソプラノサックス)ら手練れたちが奏でるのは、ジャズやクラシックをベースにした、時に前衛的とも言える複雑に絡まり合ったバンドアンサンブル。そこにたおやかなメロディと豊かなハーモニー、ユーモラスな歌詞が重なりあった、実に独創的なアルバムだ。
それに続いて、同じオーストラリア出身の盟友ベーシスト/作曲家で、The Ancient Highballsメンバーでもあるマーティ・ホロベックも、石若、渡辺翔太(ピアノ)との新作『Trio IV: The Mountains, They Listen』を完成させた。マーティのライフワークと言ってもいい『Trio』シリーズの5作目(『Trio II』には続編『Trio II: 2』がある)では、コントラバスでもエレクトリックベースでもないアコースティックベースギターという楽器を用いて、新たな音楽世界を展開している。
そこで、今回はジェームズ&マーティ、さらにジェームズのバンドメンバーでもある音楽家ermhoiを交えた鼎談を実施。ジェームズはどんな音楽家なのか? マーティの新作の背景にあるものとは? 個性的な音楽家3人に話を聞いた。

ジェームズ・マコーレイの音楽観
――ジェームズさんは初インタビューですので、基本的なところからお伺いします。どういう経緯でトロンボーン奏者になったのでしょうか?
ジェームズ・マコーレイ「短く話せるかな……」
マーティ・ホロベック「長くてもいいよ」
ermhoi「聞いてる聞いてる」
ジェームズ「じゃあ、適当に。親戚のおじさんがトロンボーンを選んでくれたんです。たくさんトランペット奏者がいるのでトロンボーンのほうが楽になるはずって。正しかったと思う。12歳でした。その前は5歳からピアノを弾いていました。16歳の時にバンドに入って、毎週いろんなバーやパブで演奏しはじめて、いろいろな音楽を勉強しました。学校ではクラシックやジャズの練習をしていました。僕はミュージシャンとしてジャズのバックラウンドから来ているかもしれないけど、ジャズから逃げようとしています」
――どうしてジャズから逃げようとするんですか?
ジェームズ「いまのシーンや時代はかなり広くなっていますので、芸術的にもっと人々とコミュニケーションができるといいなと思っています。いろんな表現をしたいです」
――ジェームズさんは奏法が独特だと思いますが、好きだった方、インスパイアされた人はいますか?
ジェームズ「1920年代のJ. C. ヒギンボサム。ルイ・アームストロングと似ていると思います。ベン・ガレスピー。彼はメルボルンの人です。レイ・アンダーソン。彼はシカゴ出身の人かな。
たくさんいましたが、でもトロンボーン奏者より作曲家とかロックバンドとか伝統的なミュージシャンのほうが影響を受けていると思います。別の楽器……トランペット奏者とかピアノ奏者、歌手とか」
――アルバムを聴いていて実際に感じられますが、ジェームズさんはフランク・ザッパから影響を受けているんですよね。
ジェームズ「フランク・ザッパはもちろん、トロンボニストより僕にとって大事な影響源。彼のバンドのトロンボニスト、ブルース・ファウラーもすごく好きです。影響を受けています」
マーティ「ブルース・ファウラー、最高!」
ジェームズ「彼は信じられないほどうまいです」
――フランク・ザッパ以外では?
ジェームズ「武満徹。最近、ディアフーフを聴いてる。あとジミ・ヘンドリックス、レッド・ツェッペリンかな」
――ロックが多いですね。
ジェームズ「エリオット・カーター、メシアン……。何を言うべきかわからないので、選べないです」
――ジャンルは関係ない?
ジェームズ「あんまり関係ないです。ジャンルの真ん中でやっている音楽はぜんぜん興味ないです」

ジェームズとマーティ、ermhoiの出会い
――日本に初めていらっしゃったのは2015年、ザ・ラガフォーンズの来日公演だそうですね。
ジェームズ「そうです。マーティと一緒でした」
――マーティさんとはいつから一緒に演奏されていますか?
ジェームズ「ザ・ラガフォーンズの前にセッションで会いました。メルボルンのジャズクラブのセッションで」
マーティ「2012年の6月かな」
ジェームズ「それからいろんなジャンルのプロジェクトで、いろんな構成のバンドで一緒にたくさん演奏しました」
――ermhoiさんとは?
ermhoi「2020年の春、コロナ禍でオーストラリアがロックダウンする直前にジェームズに会いました。ジェームズがマーティと一緒にやったライブを見にいって」
マーティ「ジェームズ、覚えてる?」
ジェームズ「覚えてる」
ermhoi「ほんとに(笑)?」
ジェームズ「ほんとに覚えてる。ちょっと(酒を)飲んでたけど……」
ermhoi「飲んでたね(笑)。それがロックダウンの直前だったので、ジェームズはすぐオーストラリアに帰っちゃったんです。私がオーストラリアに行って会うまではしばらく会わなかったですね」
マーティ「オーストラリアに行ったのが2022年かな」
ジェームズ「初めて一緒にライブをしたのはアデレード? そのとき初めてermhoiの音楽を聴いてびっくりして、〈こういうのをアレンジしてみたい〉と思って。そして、自分のバカなポップスの曲もやろうと決めて。あの時期の自分は複雑なモダンジャズよりそっちのほうが楽しかったから、あのバンドが生まれました」

〈古代のハイボール〉結成秘話
――では、The Ancient Highballsが結成されたのは2022年?
ermhoi「そのときはまだ原型でしたね」
ジェームズ「そう。オーストラリアのメンバーでした」
ermhoi「アデレードのメンバーに私が参加した感じです。その後、メルボルンでもライブして。そのとき、バンド名ってついてたっけ? The Happy Hoppy Orchestraだったっけ?」
ジェームズ「うん。最近、ぜんぜんホッピー飲んでないな」
マーティ「確かに我々、ホッピーをぜんぜん飲んでない。飲みたいね。ハイボールばっかりだから」
――ハイボールといえば、The Ancient Highballsはなぜこの名前なんでしょう(笑)?
ジェームズ「謎の名前です。特別な意味はないですよ。でも、〈古代のハイボール〉は存在していないもの。それがちょっと魅力的。アルコールが入っている飲み物を想像してほしいです」
――ハイボールは和製英語なんですかね?
ジェームズ「英語でハイボールというグラスの種類はあるけど、ハイボールという飲み物は日本のものですよ」
――ジェームズさんはやっぱりハイボールがお好き?
ジェームズ「うん。バンド名は誰のアイディアだっけ?」
マーティ & ermhoi「ジェームズ!」
ジェームズ「あ~。レコーディングが終わったあとに……」
ermhoi「みんなで飲んでて、バンド名をどうしようか?って話してて」
ジェームズ「全身疲れていて、でもハイボールを飲んだらすごく安心してきて」
マーティ「えっ、〈安心ハイボール〉が〈Ancient Highballs〉になったの(笑)?」
ermhoi「レコーディングが終わって安心してハイボールを飲んだから、安心ハイボール……エンシェンハイボール……(笑)」
ジェームズ「素晴らしい。それでいこう」
ermhoi「いま歴史を改竄しました(笑)」
――(笑)。現在の日本のメンバーになったのはいつですか?

ジェームズ「オーストラリアでやったプロジェクトを本気で日本でやりたかったんです」
ermhoi「ジェームズが日本に引っ越してきた1年前とかかな?」
――引っ越してきたのは?
ジェームズ「去年の7月。レコーディングはちょうど2年前です。好きなミュージシャン、よく知っているミュージシャンと一緒にこのプロジェクトを録音しました」

対位法を駆使し、ジャンルを超越した作曲法
――ジェームズさんが作曲において特に重視しているのはカウンターポイント、日本語で言う対位法だそうですね。
ジェームズ「カウンターポイントは僕にとってとても大事です。素晴らしいです。わかってくれるとは……」
――資料に書いてありました。
マーティ & ermhoi「(笑)」
ジェームズ「(対位法が発展した)ルネサンスの音楽も芸術も勉強しました。現代的なクラシックの音楽もよく勉強しています。だから、ポップとかロックとかジャンルが変わってもそういうハーモニーが好き。どうやってハーモニーを新しい形に作れるか、よく考えています」
――そんなジェームズさんの曲ってすごく独特だと思うのですが、マーティさんとermhoiさんはどう思っていますか?
マーティ「めっちゃ好き!」
ermhoi「シンプル(笑)」
マーティ「13年前からずっと一緒だからね。ジェームズの曲の作り方は毎回違うけど、毎回ジェ-ムズの味が入ってるから安心。怖いけど」
――怖い(笑)? 難しいからでしょうか?
マーティ「難しい。変だね。いい意味で怖い」
ジェームズ「どんなプロジェクトでもマーティの力が必要だから。ザ・ラガフォーンズのシンプルな曲も現代的な曲も、マーティしか弾けないって思って譜面に書く。そういう譜面を書くのが好きです。けど、マーティがいないときは演奏できなくなるから厳しい」
ermhoi「不可欠だよね」
ジェームズ「ミュージシャンのために音楽を書くのがすごく好きです。(デューク・)エリントンも同じことをやっていたけど、そういう考え方は大事です」
ermhoi「ジェームズの曲はめちゃめちゃ器楽的な部分とものすごくロックだったりポップだったりする部分がシームレスになっているから、一瞬たりとも慣れないというか、常にどんどん変わっていくんですね。たとえば、それがJ-POPだったら忙しい音楽になりそうだけど、そういうことではなくて」
――おおらかさがありますよね。
ermhoi「そうですね。そこがすごく不思議なバランスで面白いです」

頑張るのが大事
――実際に歌っていてどうですか? 難しいですか?
ermhoi「メロディは私が作った部分もあるので、意外と歌いやすいです。
楽器の演奏はすごく難しいだろうなと思います。でも、バンドメンバーはみんな百戦錬磨の人たちじゃないですか。リハーサルに来るとみんな目を爛々と輝かせながら練習していて、演奏するのが楽しいみたいです。刺激があるから、バンドはいつもいきいきしています」
ジェームズ「日本語も音楽も、頑張るのが大事だと思います」
マーティ「人生もね」
ジェームズ「簡単だったら、やる意味がないだろうなと思います」
――ermhoiさんがおっしゃったように、メロディは歌いやすくて童謡っぽい部分もありますよね。“The World Wasn’t Meant For Me”は特にシンプルな曲で、アメリカの古いフォークソングのよう。アルバムのなかで際立っています。
マーティ「あれはベン(・ハリソン)が書いた曲なんです」
ジェームズ「ベンは昔からの友だちで、同じ高校に行っていました。ベンの曲を僕がアレンジしてみました。ほかの曲でベンの声はコーラスだけなんですが、一曲ちゃんと歌わせるのはいいかなと思って。アルバムに入れたかった曲で、バラードが並ぶのは自然だと思いました。すごく素敵な曲です。彼はこの曲でトランペットと歌詞を担当していますが、それだけでなくバンジョーなどなんでも弾ける音楽のオタクです」

ザッパよりちょっと真面目な親父ギャグの詞世界
――そして、やはりジェームズさんの歌詞がすごく面白いですよね。業務スーパーの激安食品について歌った“Gyoumu”など、生活のなかから生まれている感じがします。どういう風に書いているんですか?
ジェームズ「すごく時間がかかります。日本語で頑張っていますしね。日本の歌手の音楽を聴くのが好き。けど、わかりやすい歌詞しかわかりません。THE BLUE HEARTSとかクレイジーキャッツとか、昔のバンドだけど歌詞をちゃんと覚えるように勉強して。
そういうふうに書こうと思ったけど、やっぱり親父ギャグになってしまう。親父ギャグから綺麗なものを作るのが好きです。綺麗なものをバカな感じにしたり、バカなものを綺麗にしたりすることにすごく興味あります。なんでかわかんないけど(笑)」
――ジェームズさんが好きなフランク・ザッパもリリックがすごくユーモラスですよね。
ジェームズ「そう。抽象的なところも政治的なところもある。でも、フランク・ザッパよりちょっと真面目に書いてるんです(笑)。バカなところだけじゃないと思ってほしいです」
――でも、笑ってしまうんですよね。“Ochanomizu”の歌詞の〈お茶の水につくと/鼻水がでるよ〉とか。
ジェームズ「僕は変な音楽が好きですけど、自分の音楽を広げたいから、どうやってこの変な音楽を聴かせるかを考えています。なので、面白さは一つのやり方だと思っています」
――マーティさんとermhoiさんはどうですか? ジェームズさんの歌詞について。
マーティ「面白い!」
ermhoi「独特の言葉の使い方をするから、逆にすっと入ってくる。聞き慣れた日本語だと聞き流しちゃいますが、ちゃんと留まるのは、ジェームズにとって日本語が第二言語というか母語じゃないからこそ出せる味のおかげだなってすごく感じていて。だから、お客さんも〈なんて言っているんだろう?〉って耳を傾けるんです。それがコミュニケーションとして新しい感覚だと思っていて、すごく好きです。ライブをしているときのお客さんの顔が面白いですね」
ジェームズ「日本語が下手だからね。英語が下手な日本人の友だちの英語がすごく好き。詩的なもの、僕が考えられないことを言うのがすごく綺麗だと思います。僕も日本語をまだ頑張っている途中だけど、そういうふうに表現したい。英語だと毎日ずっと同じだから話したくないんです。話すならもっと変な英語で話したい。正しい英語は別に大事にしていない。詩が大好きなんです。詩の本をよく集めています」
――どんな詩集を読んでいるんですか?
ジェームズ「ほとんど英語の詩人だけど、穂村弘の本をいろいろ持っています。彼は素晴らしい。『ラインマーカーズ』に入っている短歌にすごくインスピレーションを受けました」
――たしかに、ジェームズさんの歌詞は穂村弘的な世界かもしれませんね。“Toshimaen”の〈新宿駅から出られません〉〈中央線はとても怖い〉といった歌詞は実体験ですか?
ジェームズ「運転できません」
――電車で移動するんですね。
ジェームズ「電車が好きです。満員電車は酷いけど、座れる電車はすごく好き。座って本をちょっと読んで……。電車が好きですよ」

暗いメルボルンと明るい東京
――ジェームズさん的に東京とメルボルンの音楽シーンの違いは感じますか?
ジェームズ「明るい人たちはまだ東京に残っています」
ermhoi「世紀末みたいな話……(笑)?」
――メルボルンの人は暗いんですか?
ジェームズ「オーストラリア人はスポーツにしか興味ないです。僕が好きなメルボルンにいるミュージシャンたちは、ほとんどみんな音楽を教えています(演奏が専業ではない)。ほかにベースになる仕事をやっています」
マーティ「僕はアデレード出身だから、外からメルボルンを見ると〈メルボルン・ダークネス〉という言葉があって……」
ジェームズ「〈メルボルン・ダークネス〉ね。僕は暗い。でも、明るくなっています。東京の周りの人たち、コミュニティのおかげで明るくなっています。メルボルンにはいいところもあるけど、住む場所ではない」
ermhoi「すごく面白い街だなって思うけどね。メルボルンの暗さはコロナ禍とは関係ない?」
ジェームズ「関係ない。もともと、ずっと無視されている気分を感じます」
ermhoi「メルボルンの人は褒め言葉とかを受け入れられないんだよね」
ジェームズ「アンコールがまったくない。有名な人がライブをやってもあんまりない」
マーティ「毎回アンコールをやるのは日本の文化じゃない?」
ジェームズ「メルボルンではたまにあるけど、ジャズバンドは絶対やらない」
マーティ「東京とメルボルンの違いは、東京は人が明るい、アンコールがある、だね(笑)」
ジェームズ「日本人のほうがアーティストやミュージシャンをサポートしています」
ermhoi「お客さんがサポートしてくれる感覚はあるよね。CDを買うとか物販を買ってくれるとかチケットを買って見にきてくれるとか。お客さんが主体的になってくれる感じが日本にはある」
ジェームズ「僕にとって東京はメルボルンよりいいですよ」
ermhoi「でも、オーストラリアもミュージシャンのレベルはものすごく高いと思います」
マーティ「ライブとかの仕事が少ないから、めっちゃ頑張ってるんだよね」
ermhoi「競争が大変なんだよね」
ジェームズ「そう。キャリアを積めないので、すごくユニークなものを作らないといけない」
ermhoi「お金を稼ぐ仕事は別にあるから、やる音楽のクオリティや意味を大事にしてるよね」
マーティ「ビジネスじゃないね」
ジェームズ「でも、たまに東京から離れて小淵沢とかに行くのも大事ですね」
マーティ「自然が大事よ~。東京に自然はまったくないもんね!」

マブダチの渡辺翔太、石若駿と作り上げた『Trio IV』
――マーティさんの新作『Trio IV: The Mountains, They Listen』についてもお伺いします。なぜ今回は石若駿さんと渡辺翔太さんとのトリオなのでしょう?

マーティ「駿とはザ・ラガフォーンズのツアーで初めて会いました。当時日本在住だったアーロン・チューライというコンポーザー/ピアニストが紹介してくれて。それが10年前。
駿とは現場が一緒になることが多いですね。去年なんか100何件一緒だった。駿は〈マイメン〉〈兄弟〉って言ってくれて、音楽を一緒にやるのはすごく安心。
翔太は、駿から紹介があったのが2018年の終わりか2019年に入ってから。駿が、〈翔太は素晴らしいピアニストで、いつか一緒にやってほしい〉って言ってて。当時、僕はいろんなライブをやっていて、たとえば早朝から名古屋競馬場でレースの間、1時間に1回、10分だけ演奏するとか。
そのとき、翔太は名古屋出身なので、〈一緒にライブをやろう〉ってブッキングしてもらって。僕の曲はそんなに簡単じゃないけど、最初のリハーサルから翔太はめっちゃすごいと思っていました。僕の曲も全部、演奏するのにぜんぜん問題なかった。で、翔太が〈僕の家に泊まってよ〉と言ってくれて、それからめっちゃマブダチになりました。毎年一緒にツアーをやったり、駿と一緒の現場も多くて。
じゃあ、駿と翔太とのトリオでやってみるかと思ったんです。2人とできたのはすごく嬉しい。すごく仲がいいし、音楽はなんでもできるし、なんでも話せる。すごく楽しいです」
――マーティさんの『Trio』シリーズは毎回メンバーが変わっていますが、それは常に違う音楽をやりたいからですか?
マーティ「そうですね。ジェームズもさっき言っていたけど、人のために曲を書くのが好きなんです。今回は翔太と駿をイメージして書きました」

多才かつ個性的な音楽家マーティ
――アルバムには石若さんと渡辺さんの曲も入っています。
マーティ「『Trio』シリーズにはほぼ毎回メンバーの書いた曲が入っています」
――渡辺さんの“My Legs Are Killing Me, But It Hurts So Good”はちょっとユーモラスで独特な曲ですね。
マーティ「変な曲だよね(笑)。大好き。僕は変人だから、たぶん翔太は僕のために書いてくれたのだろうと思います。メロディは意外とシンプルだけど、ちょっと怪しさが入っている。
僕にとってもコンポジションはすごく大事。シンプルな曲に怪しくて面白い要素が入っていることは大事だと思います」
――そこはジェームズさんと通じ合っていますね。
ジェームズ「うん。マーティの作曲はすごく好き。いろんなプロジェクトをやっているけど、全部にマーティの書き方が表れてる。それがすごくいいし、珍しい。マーティ自身のスタイルだけではなく、バンドのサウンドをまず想像してやっている。それは正しい」
マーティ「バンドのサウンドはすごく大事だね」
ジェームズ「うん。マーティの新しいバンドの作品を聴くたびに〈あっ、また違いますね~〉って思っています」
――ジェームズさんはマーティさんをどんな音楽家だと思っていますか?
ジェームズ「マーティは珍しいミュージシャンで、いろいろなプロジェクトをやっています。マーティのようにウッドベースとエレキベースの両方をうまく演奏できる人はほとんどいない。そして、フリージャズも現代的な即興音楽もロックもフュージョンもポップも、これほどいろんな曲をやれる人はほとんどいない。それから、たくさん音楽を聴いている彼のセンスや趣味もすごいです。どんなジャンルやフィールドに入ってもマーティの味が入ってくる。それは素晴らしい」
マーティ「……泣きそう(笑)!」
――なかなか聞く機会がないと思いますが、ermhoiさんにとってマーティさんはどんな音楽家ですか?
マーティ「えっ、怖い怖い怖い(笑)!」
ermhoi「え~……(笑)。普段関わっていると朗らかで明るくてフレンドリーですが、音楽を通して彼自身のいろんな感情の引き出しを表現しているのかな、とすごく感じます。彼のひねくれた面が音を通して聴けるから安心するというか。
『Trio』シリーズはどれもサウンドが違っていて、『Trio IV』と『Trio I』はピアノトリオという楽器の組み合わせは一緒だけど、音楽性はぜんぜん違っていて不思議ですよね。同じ人が作っていて、作曲も9割ぐらいマーティなんだけど、こうも変えられるっていうのは特殊だなって」
――ピアノトリオはジャズの世界で重要な編成ですが、マーティさんにとってどういうものですか?
マーティ「好きな人とやりたいから、あんまり楽器は関係ないかなって。〈ピアノトリオのレコードを作りたい〉じゃなくて、〈翔太はほんとに特別なミュージシャンだから一緒にやりたい〉とか、そういう思いでアルバムを作っています」

アコースティックベースギターの音に惹かれて
――『Trio IV』でマーティさんはアコースティックベースギターを演奏しています。エレキベースでもコントラバスでもない、あまり一般的ではないこの楽器を選んだ理由は?
マーティ「僕がアコースティックベースギターを初めて聴いたのは、たぶん2004年とか。お母さんが昔サンフランシスコに行って、アメーバ・ミュージックで店員さんに〈息子がベースを始めたんです。お土産を買いたいんだけど、おすすめのCDありますか?〉って聞いたんですね。その店員さんが出してきたのがジョナス・ヘルボーグ(ヨナス・エルボーグ)というスウェーデンのベーシストのすごく珍しいアルバム。
そのアルバムはショーン・レインというギタリストとセルヴァガネッシュというインドのパーカッショニストと3人で演奏したもので、何曲かでアコースティックベースギターを弾いているんですね。それが最高で、めっちゃ感動しまして。それから音楽の歴史を遡っていろいろ聴きました。
で、去年そのアルバムをひさしぶりに聴いて、やっぱ弾きたいなって思ったんです。タコマのアコースティックベースギターを偶然デジマートで見つけて買ったら、〈ああ、あの音だ!〉と思って、翔太と合いそうだと思いました」
――渡辺さんの音とアコースティックベースギターが合いそうだと思ったことがきっかけだったんですね。
マーティ「そう。このアルバムはワンルーム、同じ部屋で録っているんですが、アコースティックベースギターは音量がそんなに大きくないんですね。アルバムを録るにあたって、それもめっちゃ面白かった。駿もそれに合わせてすごくちっちゃい音の叩き方をしてて、モニターで聴くのも難しくて。このレコードにはそういういろんなチャレンジのインフルエンスも入ってて、すごく楽しかった」

多摩川に浮かんで
ジェームズ「ジャケットがすごく好きだけど、誰が書いたの?」
マーティ「韓国のミンチャイ・リーという人。Gimbab Recordsという韓国のレコード屋で働いていて、グラフィックデザインをやってる」
ermhoi「〈Asian Pop Festival〉のデザインをやっている方で、たまたま知り合ってめっちゃ仲よくなったんです。
ちなみに、このアルバムで翔太くんが弾いたピアノは、私が幼少期に練習していたピアノをチューニングして弾いてもらったんです。こんなにいい音が出るんだってびっくりしました」
マーティ「いや~、面白いね。アコースティックベースギターとアップライトピアノとドラムって」
――アップライトピアノなんですね。そうは思えない響きでした。
マーティ「アップライトっぽくない音だよね」
ermhoi「重厚感があるよね」
マーティ「ちなみにすごくオタクな話だけど、僕のベースはアメリカのタコマというメーカーが作ったもので、その会社はピアノのカワイ傘下だったんだよね。で、そこを2000年代にフェンダーが買って、タコマは終わった。翔太が弾いたピアノはディアパソンというメーカーのものなんだけど、それもカワイの子会社。だから、カワイのエンドースメントが来ないかな(笑)? すみません、オタクの話で」
――ジェームズさんのアルバムのジャケットはKana Tarumiさんが撮影したもので、めちゃくちゃいい写真ですね。
ジェームズ「多摩川の橋の上から撮りました」
――海かと思いました。ジェームズさんは多摩川に浮かんでいるんですね。
ジェームズ「うん。気持ちよかった。意外と汚くなかった(笑)」
マーティ「このジャケット、最高だよ」
――〈ENDLESS SUMMER〉と書かれたTシャツを含め、素晴らしいです。本日はありがとうございました。
RELEASE INFORMATION

リリース日:2025年12月3日(水)
品番:APLS2508
価格:3,300円(税込)
TRACKLIST
1. Chibi/Plastic Drastic
2. Learn While You Sleep
3. Ochanomizu
4. Gyoumu
5. Happy Sad
6. Mountain Song
7. Mission Marty
8. Toshimaen
9. The World Wasn’t Meant For Me
10. Fish Ladder
11. Dreamland
■Musicians
James Macaulay(trombone, vocal, piano)
ermhoi(vocal, backing vocals)
栗林すみれ(piano, backing vocals)
Marty Holoubek(bass)
石若駿(drums)
Taikimen(percussions)
井上銘(guitar)
中島朱葉(alto saxophone)
西口明宏(tenor saxophone, soprano saxophone)
Ben Harrison(trumpet, vocal, backing vocals)

リリース日:2025年12月10日(水)
品番:APLS2509
価格:3,300円(税込)
TRACKLIST
1. Alas I Hear No Giant (feat. Shun Ishiwaka & Shota Watanabe)
2. Islyn (feat. Shun Ishiwaka & Shota Watanabe)
3. Kakegae no Naikoto (feat. Shun Ishiwaka & Shota Watanabe)
4. My Legs Are Killing Me, but It Hurts So Good (feat. Shun Ishiwaka & Shota Watanabe)
5. Oboeteru?! (feat. Shun Ishiwaka & Shota Watanabe)
6. I Hope Itʼs Not Raining in Bologna (feat. Shun Ishiwaka & Shota Watanabe)
7. The Things We Carry (feat. Shun Ishiwaka & Shota Watanabe)
■Mermbers
Marty Holoubek(bass)
石若駿(drums)
渡辺翔太(piano / synthsizer)
PROFILE: JAMES MACAULAY
ジェームズ・マコーレイは、オーストラリア・メルボルン出身のトロンボーン奏者、作曲家。世界クラスの演奏テクニックと唯一無二のスタイルで2017年、オーストラリアのワンガラッタで開催された国際ジャズコンペティションで最優秀賞を獲得し、2019年にベルリン・ジャズ・フェスティバルで伝説的サックス奏者アンソニー・ブラクストンのプロジェクト、ソニック・ジノームに参加。母国オーストラリア、日本、ヨーロッパ、アメリカなど世界各国で活動。2015年にザ・ラガフォーンズで初来日。その後、ツアーでたびたび日本を訪れ、2024年から本格的に拠点を東京に移し、The Ancient Highballs、飛車角カルテット、Trombone Quintetなどさまざまなバンドを主宰しながら精力的な活動を展開。それらのバンドで演奏する楽曲はすべてジェームズによる楽曲またはアレンジである。カウンターポイントを好み、すべてのパートが埋もれることなく表出する群像劇的な創作が特徴。
PROFILE: MARTY HOLOUBEK
南オーストラリアのアデレード出身のマーティ・ホロベックは、現在東京を拠点にするミュージシャン。幼少期から音楽への情熱を抱き、10代でベースを始め、まもなく優れたミュージシャンとして評判を得た。21歳で活気ある都市メルボルンに移住し、その芸術性が開花し始めた。メルボルン時代にはアラン・ブラウン、ポール・グラボウスキー、スコット・ティンクラー、ジェームズ・モリソン、ジェームズ・バウワーズ、クリオ・レナー、セックス・オン・トーストなどのアーティストと共演を重ねた。2018年8月、新たな音楽の探求を深めるために、東京への移住を決断。この賑やかな大都市に広がる豊かな文化的背景とダイナミックな音楽シーンは、彼の創造性がさらに発展する理想的な環境となった。東京に到着して以来、マーティは日本の音楽シーンで急速に注目され、日野皓正、森山直太朗、上原ひろみ、ジム・オルーク、石橋英子、ermhoi、崎山蒼志、HIMI、a子、角銅真実、石若駿、岡田拓郎、Answer to Rememberなどの著名なアーティストと共演。多様な影響が組み合わさり、独自かつ魅力的なサウンドを生み出す機会に恵まれた。アデレードで生まれ、メルボルンの音楽シーンで育ち、現在は東京のクリエイティブな土壌にしっかりと根付いたマーティ・ホロベックの音楽は世界中の観客を魅了している。
PROFILE: ermhoi
日本とアイルランド双方にルーツを持ち、ジャンルを縦横無尽に行き交うプロデューサー/シンガー。近年はソロのほかにもBlack Boboiのメンバーとしての活動や石橋英子のサポートをしている。1stアルバム『Junior Refugee』を2015年にSalvaged Tapesからリリース。その活動は映画やテレビCM、美術展への楽曲提供とリミックス、さらにボーカルやシンセサイザー、コーラスのサポートなど多岐にわたる。これまで石若駿(Answer to Remember、CRCK/LCKS、SMTK)や常田大希(King Gnu、millennium parade)、江崎文武(WONK)ら日本を代表する同世代の音楽家たちと共作するだけでなく、石橋英子やジム・オルーク、Phew、コデインといった世界的に著名な音楽家たちとも共演。さらにMONDO GROSSOや東京塩麹、セン・モリモト、Maika Loubtéの作品に客演として抜擢されるなど国内外で活躍するアーティストたちと交流を重ねてきた。2018年に小林うてな、ジュリア・ショートリードとともにBlack Boboiを結成し、〈FUJI ROCK FESTIVAL ’19〉や2023年の〈MUTEK.JP〉に出演。2024年にベルリンと東京の交換レジデンシープログラムに参加。初めて国外での演奏を成功させる。 2025年にヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展の日本館の音楽を担当。ermhoiのバンド編成プロジェクトermhoi with the Attention Pleaseでは主なメンバーに小林うてな、石若駿、マーティ・ホロベック、Taikimenを迎え、エレクトロで作られた音楽を生楽器で再構築している。現在この編成でレコーディングされたシングル“Later”が配信リリースされている。