ジャズから現代ポップ、はては舞台まで。
世界的にも稀有でスーパーな統率者でもある、鬼才ドラマーの〈今〉。
私事から原稿を始めて恐縮だが、昨年秋に「越境するギタリストと現代ジャズ進化論」という本をぼくはリットーミュージックから出した。表題にあるように〈ギターを物差しに置き、広がるジャズの動きを記した〉書だが、後から〈ジャズは、ワールド・ミュージックを含む広義のポップ・ミュージックといかに並走するか〉ということに言及した内容であるとハタと気づいた。そして、それこそはロックもファンクもジャズも好きなぼくが追求すべきテーマであるとも再認識した。
そんなぼくにとって現代的なヴァーサタイルさを抱えるジャズの最たる担い手であると思わずにはいられないのが、石若駿というマルチなミュージシャンだ。ジャズ――しかも、それは王道にあるものから前衛的なものまで、彼が抱える幅は広い。いや、広すぎる――からポップス、さらには現代音楽やインスタレーション的なものまで、彼は自在に様々なものに着手してきた。ライヴ・ギグやレコーディング参加は山ほど。今、日本で一番忙しいドラマーが石若駿であるのは疑いがない。だから、石若駿が関与するアルバムやライヴを知ると、そのリーダーはよく彼のスケジュールを取ったなとぼくは思ってしまったりもする。
石若駿は昨年夏、作/編曲家の才もアピールするリーダー・プロジェクトであるAnswer to Rememberの2作目『Answer to Remember II』(ユニバーサル)をリリースしたが、それはまさしくジャズの流儀や発展性とヴォーカルやラップを介する現代ポップ・ミュージックの輝きを無理なく交錯させる我が意を得たりと思わせる内容で、ぼくのなかの彼への評価はより確固としたものとなった。なんせ、同作をミュージック・マガジン誌のクロス・レヴューにおいて10点満点をつけ、Jaz.in誌の年間ベスト10の1枚に『Answer to Remember II』を入れてしまったのだから。だが、そんなイケてる同作は彼が日々行なっている活動を見ればあくまで一部となる表現であり、まだまだその先にいろんなものが持っていると思わせるのもすごいと言えば凄い。石若は昨年9月に、〈石若駿20周年ワッツアップ祭り~そのとき私は、11歳でした~〉という彼のプロジェクトや関与しているミュージシャンを括ったスペシャルなホール公演も行った。
当然、その勢いは2025年も続く。ぼくの25年の初のライヴ享受は石若が音楽監督を務めた1月5日の〈ジャズ・モーメンタム 2025〉(丸の内・コットンクラブ)で始まったが、それは坂田明や林栄一らヴェテランからバークリー音大留学中という20歳の佐々木梨子(面々は皆アルト・サックス奏者)まで10人強の新旧の実力者をずらりと登場させ、巧みに順列組み合わせを図ったうえで縁の曲を披露させるという新春企画イヴェントだった。実はこの〈石若ジャズ横断ショウ〉の試みは昨年から持たれているプログラムだが、いろんなジャズに精通し、また様々なジャズの担い手たちと良好な関係を持つことができる彼ならではのクールな出し物と言うしかない。そこには、単なるオールスター揃い踏み公演に終わらないリアル・ジャズのヴァリエイション開示や各出演者者の美点発露が有機的に盛り込まれ、賢人石若パワー全開というしかないものだった。
かと思えば、Answer to Rememberの単独公演(2月18日、ビルボードライブ東京。そこには、トランペット大家の日野皓正も飛び入りした)では悠々と〈ジャズ←→ポップ〉の図を提示し、シンガー・ソングライターの君島大空のライヴ(4月17日、Zepp Haneda (TOKYO))ではバンドの一員として屋台骨を担う。そこでは、ヘヴィ・メタル調の演奏もあった。という具合で、まさしくなんでもあり。音楽は過去と現在(そして、未来)をつなぐものであり、秀でた技巧とともにいろんなジャンルを同居させてこそ輝くという意志が一連の活動から浮かび上がるのが本当に素晴らしい。そして、それらにはあらゆる音楽に対応可能な揺れや立ちを抱える脅威のドラミングがあるのだから、鬼に金棒だ。冴えた統率者/プロデューサー的な才の持ち主が、一方ではスーバーなドラマーであるというのは、現代が〈リズムの時代〉であるという事実の証左となるだろうか。