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暴力的で背徳的な〈性〉の歌

アルバムタイトルにあるとおり、加藤は性に対する執着を繰り返し歌う。 

帰り道貴方の速い足に 置いて行かれそうになる
もし私が綺麗だったら 犯してくれた?

ああ貴方に犯されたい
ああ私を未来ごと 奪って欲しい
翌朝言われたい 「モーニングコーヒー淹れたよ」
ゆっくりゆっくり レールから外れて
私の頭の中 ぐっちゃぐちゃになっていく
ああ貴方に犯されたいけど 今日も終電で帰ってゆく
次逢えたら 二重丸と花丸下さい
イイコって言ってね

“明日仕事休みます”

僕の人生も壊れて 君はあの子の 手コキでだらしなく シャワーを垂れ流す
僕は処女じゃなかったから 君からシャワーは出なかった ただ悲しく君のザーメンで
お腹の中が白く 汚された 僕は一生ひとりぼっち

“ラブドールのあの子”

しかし、加藤が歌う性は、たとえば、My Little Loverの“ALICE”のようなかわいらしく素敵で理想的なものではない。もっと湿り気を帯び、暴力性に満ちており、衝動的で生々しく、毒性も強いものだ。演歌や歌謡曲の世界で醸成されてきた、間接的なそれともちがう感触。それは、むしろ、三上寛、戸川純、Cocco、加地等、豊田道倫、銀杏BOYZの峯田和伸、大森靖子といった系譜にあるものなのだ。

「戸川純さんにはかなり影響を受けていますね。父親がすすめてきた音楽で、唯一ハマったのが戸川さんでした。大森さんは昔、高円寺の無力無善寺に出ていたとき、仲がよかったんです。〈今度、峯田さんとラーメンデートに行かない?〉って誘われて、3人で一緒にラーメンを食べに行ったこともあります。最近も溜まった思いを大森さんにDMで送ると、花のスタンプを押して反応してくれます」(加藤)。

フィメールラッパーやSZAのようなシンガーを除けば、性をあけすけに歌う女性シンガーソングライターは、いま欧米でも少数派だ。挑発的なサブリナ・カーペンターや背徳的なラナ・デル・レイといったポップアイコンがいるにはいるが、多様性を認める時代を経て、音楽のみならずあらゆる表現において、性に関しては誰もが抑圧的になっている風潮が感じられなくもない。

遡って、1990年代のインディロック界では、ライオットガールのムーブメントがあったり、リズ・フェアが女性視点で生々しい性を解放的に歌ったり、といった動きがあったことを思いだす。それらは第三波フェミニズムの一種として捉えられており、2010年代以降の#MeToo運動、性暴力の告発などにつながっていく。その反面、性の暴力的な面が露わになったことで、抑圧が生まれていることも事実だろう。

加藤の歌では、そういった現代において表れたり隠されたりしている性の軋みがさまざまな形で表出している。たとえば、“天使だった頃”の〈薄い光 澁澤龍彦の本に射している〉という美しい背徳性が、“ダナエの絵画”にも反響しているように。“ダナエの絵画”で彼女がモチーフにしているのは、1985年にロシアで起こった事件だ。エルミタージュ美術館にてある男がレンブラントの絵画「ダナエ」の股間部にナイフを突き刺し、硫酸を絵に浴びせた、という出来事である。ダナエと交わるためにそれをおこなった、という動機を男は語ったそうだ。

「事件のことはテレビで知って、〈私があなたのことを壊したい〉という感情を書いたのがその曲です」(加藤)。

〈いつか見たダナエの絵を 壊した狂人みたいに/今、君に壊されたい〉〈あのダナエの処女のように 君と受胎したい〉と、加藤は歌う。グロテスクで破滅的な性の欲動をここまでまっすぐに歌うシンガーは、繰り返すがいまの時代においては稀だ。

 

歌の発信源になった2つの出来事

美しく濁りのない愛情も、残酷で暴力的で混濁した欲望も、加藤の表現においてはほとんどすべてが性に結びついている。その理由すらも、彼女は歌のなかで告白的に明かす。 

5歳の子供に戻って 君に犯されたい おじさんになった君に 処女を奪われたい
ロリータコンプレックス 私の病気 おじロリこそが愛って 3歳の時教わった

“ロリータコンプレックス”

私はかつて本当の女の子でした 自分で言うのも変だけど
穢れを知らない子でした 汚い手でベタベタ触られて
強制的に性を知らされて そんな汚い欲望 一生知りたくなかった

“お兄ちゃん、やめて”

「私、10歳のときに12歳の兄に犯されたんです。“お兄ちゃん、やめて”はそのことについて歌いました。“親愛なるAに告ぐ”は2、3歳だった私に音楽を教えたAくんへの呪いの歌ですね。当時の彼は18歳で、性的なこともされました。“親愛なるAに告ぐ”での『不思議の国のアリス』への言及は、著者(ルイス・キャロル)が超ロリコンだったって聞いて歌詞にした部分です」(加藤)。

〈Aくん〉による性的ないたずら、そして兄から受けた暴行。2つの出来事が加藤の人生の深奥の位置に、動かしようのない重しとして埋めこまれ、それが歌の発信源のひとつになっている。

また、〈貴方〉〈お前〉といった言葉を加藤はたびたび歌うが、これについては「特定の誰かっていうことではない曲もあるんですけど、ほとんどが元彼のことを書いてます。12年前に付き合っていた人ですね」といい、彼女はトキシックな関係性を結んでいたある人物に向けた愛と呪いを歌いつづけている。