〈生〉と〈死〉を往復するピュアな情念
エロスがあれば、コインの表と裏の関係でタナトスもある。それも、かなり強い形で加藤の表現のなかに表れている。
加藤の歌には〈死〉が頻出する。自身の死に対する思いは、〈唯一彼氏が出来た時 無理矢理別れさせられ 恋愛を卒業せざるを得なかった/本当にこの世から 消えたくなって 8階から飛びました/木に引っかかって 死ねなかった〉(“お兄ちゃん、やめて”)、〈12年前にやっぱり 死ねば良かった 何の為に助かったか わからない人生〉(“寝る前に一服”)といった形で噴き出す、痛切なものだ。
タナトスは自身だけでなく、他者に対しても凶暴に逆噴射する。〈私は全てを殺す為に生きてる/私は自分の為に生きてる訳じゃない/人間なんて生きてる価値は無い〉(“君はファウスト”)、〈私をレイプした 兄を殺したい あの勘違い ブスババアも 殺したい〉(“ロリータコンプレックス”)、〈虐待は楽しいな てめえが死んじまえ!〉(“水子供養”)といったふうに。〈おじいちゃんが死んでから/人間が嫌いになった〉(“魔法少女で居させて”)や〈全て死んで全て終わって 全て無くなって/せいせいするわ私 貴方さえも居なくなれよ/だってこの世界自体が 下らないですもの〉(“青黒”)という部分では、人間そのものと社会、ひいては世界への怨嗟や呪詛として〈死〉を投げかけている。しかし、そこにはグラデーションがあり、〈私を置いて死ぬなんて 無責任よ貴方〉(“天使だった頃”)という、寂しさと怒りが綯いまぜになったアンビバレントな感情も、加藤の歌には宿っている。
〈死〉への情念は、他方、〈生〉にも反転する。友川カズキを思いださせもする加藤の叫びは、思いの強さのぶんだけ純粋なラブソングとして表出するのだ。“明日仕事休みます”“寝る前に一服”“親愛なるAに告ぐ”“ダナエの絵画”といった曲のなかには、ひじょうに澄んだ、ピュアで一途な情愛の念が満ちている。とりわけストレートな“ツガイ”について、「(元)彼の存在自体を意識しないで、彼に対して〈愛していたよ〉って伝えるような……最終的にそこに持ってきたいと思って書いた曲です」と明かす。
また、〈魔法少女〉も彼女のオブセッションのひとつだ。
「小さい頃は、実際にああなりたいって思っていました。(具体的にイメージしているのは)『(美少女戦士)セーラームーン』です。月野うさぎかなって思います。私のなかでは、ずっとシンガーソングライターを続けている女の子って、みんな魔法少女だと思うんですね。“魔法少女で居させて”は、〈それをやめさせないで〉っていうつもりで書いた歌詞です。(元)彼に、私の活動を〈応援するもんか〉って言われたことがあるので」(加藤)。
キラキラした魔法少女への憧れとは正反対に、女性の歪んだ現代的な欲望も描かれる。“ラブドールのあの子”は、美容整形に依存した風俗嬢が登場する曲だ。“寝る前に一服”では、〈顔面に一千万円以上賭けた〉とも歌われている。
ヴェルヴェッツとビーフハートを参照した、潰れたアンサンブル
『性純』は、音楽的にも特異だ。演奏は、天才バンドとカブトムシのベーシストである藤井登生、空気公団や曽我部恵一BAND、沢田研二のバンドなどに参加してきた凄腕ドラマーのオータコージ、そして、非ミュージシャンでカシオトーンとバイオリンを担当した金野篤(レーベルMY BEST! RECORDSやSUPER FUJI DISCSの制作担当者)によるもの。まるで1980年代前半のアンダーグラウンドシーンに埋もれていた、プライベート録音が掘り起こされたかのように響くサウンド。ザ・シャッグスのように調子っぱずれでぐしゃぐしゃに潰れたそのアンサンブルは、サイケデリックロックやアシッドフォ-ク、クラウトロックを思わせもする。
「メンバーは僕が決めました。ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコみたいなバンドをイメージしていて。ニコが金野さんで、アンディ・ウォーホルがコマツさんで、っていう。それと、キャプテン・ビーフハートのマジック・バンドもイメージとしてありました」(ぷりぷり)。
たしかにヴェルヴェッツのような瞬間は多く、“ラブドールのあの子”の演奏は“Heroin”“The Black Angel’s Death Song”“European Son”といった曲を思い起こさせる。
アルバムに収録された15曲は、なんとたった1日で録音された。「朝10時ぐらいに加藤さんが来て、11時ぐらいにメンバーが集まって、昼ご飯を食べて。夕方前には終わりました」というのは、ぷりぷりの言だ。さらに、録音や制作のプロセス自体も、かなり即興的だったという。
「君島(結)さんのツバメスタジオで録音したんですけど、スタジオのなかにはオータさんと藤井くんと金野さんがいて、加藤さんはバンドがどう演奏しているのかわからない状態で。メンバーは、加藤さんの歌とギターを聴きながら演奏しました。僕もなかの音は聞こえない環境だったんですが、信頼して任せていました。君島さんのミキシングとマスタリングがマジックを起こしたこともあって、うまくいったんだと思います。加藤さんのデモ音源は、事前にメンバーに聴かせていました」(ぷりぷり)。
「歌詞は事前に共有しています。コードは特に……音源を送っただけで、渡していませんでした」(加藤)。