みずからのルーツである歌謡曲のカヴァー集で得た艶やかな手応えを男の美学へと昇華した、〈バック・トゥ・メロウ〉な粋物語!
「最初の3年は、ロック・バンドあがりの奴がソロになってどういうスタイルでやっていくのか?──っていうところを常に考えていたというか、かつてのバンドと自分の距離感にちょっと悩んでましたね。バンドを解散してからは海外のシンガー・ソングライター、それもマイケル・マクドナルドとかスティーヴ・ウィンウッドとか、バンド出身の人たちの音楽を聴きながら何かしらのヒントを探りつつ、おぼろげながらもAOR系の感じで行きたいなっていうイメージで進んでいって。それでまあ、オリジナル・アルバムを3枚作って、ライヴの見せ方とかも変わり、ツアー・メンバーとの密なコミュニケーションのなかで多くのことを学んで……っていうところで、さらにグッと歌謡曲なりポップスなりに近づきたいなって出したのがこのあいだのカヴァー・アルバムで」。
椿屋四重奏のフロントマンとして活動していた頃から、歌謡曲や80年代を中心とした日本のポップス(来生たかお、玉置浩二らの名をよく口にしていた)から授かったメロディー感覚を作品に落とし込んできた中田裕二が、ソロ転身後、オリジナル楽曲の制作と並行して継続的に行ってきたカヴァー・ライヴなどを経て上梓したのが、6月に発表したカヴァー・アルバム『SONG COMPOSITE』。オリジナル楽曲に対する異常なまでのリスペクトを感じさせたこの作品は、歌い手としての彼の艶めきを改めて際立たせるものとなり、その成果はニュー・アルバムにも繋がっていくものとなった。
「作詞、作曲、アレンジを自分以外の人に任せて、歌だけを歌う〈歌手〉ってどんな感じなのかなって興味があったんですけど、カヴァー・アルバムでそれをやって、すごく手応えを得たんですよ。アレンジにしても、ここまでオトナな感じのものはなかったなとか、自分では踏み込めなかったところまで踏み込んでもらえたし、これは意外と合うなと。聴いてくれた人たちの反応も良かったから、これでいいんだなって思えたし、ひとりのシンガー・ソングライターとして、自信を持って次の作品が作れるなって思ったんです」。
という流れを経ての新作『BACK TO MELLOW』。ツアーでも好サポートしている2人のドラマー、白根賢一(GREAT3)と小松シゲル(NONA REEVES)をはじめ、キーボードの奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)、ベースの真船勝博(EGO-WRAPPIN'ほか)といった屈強のメンツと共に編まれていった楽曲群はこれまでにも増してアダルトな様相で、佇んでいるメロウネスからは男惚れするほどの色香と情熱が発せられている。ここから匂い立つダンディズムに寄り添っていけば、あなたはその音に、その声に、熱く抱きしめられることだろう。
「今回はとにかく良いメロディーを軸に攻めようと。あとは歌詞の世界観。格好つけてる男の感じというか。いまは具体的すぎる流行歌が多いなって思うし、世の中からロマンティストが減ったんじゃないかなって思うこともあるんだけど、でも、男として生まれてきたからには、それがないとね。ロマンを見い出せずに生きていくのはしんどいというか、それがないと僕は無理。昔の歌謡曲って、具体的な言葉を並べているわけではないんだけど、すごくリアリティーが迫ってくる。自分はやっぱりそういうものが好きだし、そういったものにグッとくる人はいまだにいるというか、そこは不変だと思うんですよね」。
▼関連作品
左から、GREAT3の2014年作『愛の関係』(ユニバーサル)、NONA REEVESの2014年のカヴァー集『"Choice III" by NONA REEVES』(Billboard)、ソウル・フラワー・ユニオンの2014年作『アンダーグラウンド・レイルロード』(BM tunes)
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ここでは中田裕二のソロ作品を紹介! 2009年にカヴァー曲を中心としたソロでのライヴ・プロジェクト〈SONG COMPOSITE〉を開始した彼は、2010年末の椿屋四重奏解散を経て、2011年3月に東日本大震災の発生を受けてのソロ曲“ひかりのまち”を発表。同年11月には、ソウルやジャズ風の洒脱なアレンジが施されたファースト・アルバム『ecole de romantisme』(ワーナー)で、バンド時代とは異なる〈浪漫派〉な一面を見せます。2012年には自身のレーベルより2作目『MY LITTLE IMPERIAL』(NIGHT FLIGHT)を送り出し、ルーツである往年の歌謡曲/ニューミュージックのテイストにグッと接近。その路線は2013年作『アンビヴァレンスの功罪』(同)でさらに押し進められ、今年6月の初カヴァー集『SONG COMPOSITE』(インペリアル)へと繋がることに。中森明菜“スローモーション”や井上陽水“いっそ セレナーデ”などを、原曲に劣らない色気を放ちながら歌い上げて話題を呼びました。 *bounce編集部
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