焦らず慌てず、いまできることを選び取ってきた日々——節目を前に届いた待望のアルバムはマイペースなサバイバル・レディの誠実な足取りをさらに輝かせる!

 寺嶋由芙の3年2か月ぶりとなるニュー・アルバム『サバイバル・レディ』。自身も「自分で変えた部分もあるし、コロナで変わっちゃった部分もあるし。変化のある3年間だったと思います」と振り返るように、昨年6月からセルフ・マネージメント体制となり、コロナ禍のなかで〈いまできること〉を全力投球。その間に重ねてきたシングル群では、2018年夏にリリースした西寺郷太作の80sユーロ調“君にトロピタイナ”をはじめ、楽曲ごとに異なる作家陣を迎えてさまざまな作風にトライ。パフォーマー・寺嶋由芙のとしてのチャームをますます輝かせながら、アイドル・ポップ・シーンをサヴァイヴしてきただけに、アルバムのタイトルも〈まさに!〉な感じだ。アルバムに収められた新曲群もその姿勢をさらに延長する形で、初顔合わせの作家陣がズラリ。まず、タイトル曲の“サバイバル・レディ”では、ゆっふぃーの大学時代の先生(講師)であり、書評家/マンガ研究者として知られるトミヤマユキコが作詞、怒髪天の上原子友康が作曲、真部脩一が編曲を担当。ロックmeets演歌な曲調と、オケヒット乱発の大胆なアレンジが強烈!

寺嶋由芙 『サバイバル・レディ』 インペリアル(2021)

 「圧が強い曲です(ニッコリ)。アルバムのなかできっと大事な曲になるだろうから、自分で詞を書く試みもあったんですが、あまりにも思いが強くて、もうちょっと客観的に見られる人に書いてもらったほうがいいかなって。トミヤマ先生には、いわゆる大人の、〈三十にして立つ〉みたいな感じがあるといいなあっていうことを伝えました。少女漫画を研究されていることもあってか、いただいた詞にはスポ根少女漫画感がありますね!」。

 また、モータウン・ビートに乗ったガーリーなポップ・チューン調“冬みたい、夏なのに。”は、にゃんぞぬデシが作詞/作曲。

 「デシちゃんは歌が上手でキーも高いし、地声と裏声を使い分けてる感じがなく、スムースに上の音まで出せるので、デシちゃんみたいに軽やかにやりたいなあって練習してたんですけど、デシちゃんが、しゃくって歌う感じとか語尾がハネるアイドルっぽい感じとかをむしろやってほしいって言ってくれたので、歌い込んでいくなかで自分っぽく近づけていきました」。

 さらに“Best Honey”は、アイドルへの楽曲提供が初となるa flood of circleの佐々木亮介が作詞作曲。ゆっふぃーのささやきヴォイスをフィーチャーしたエレクトロ・チューンだ。

 「男性目線の歌詞がいいなあとお願いしました。ヴォーカルは〈歌う〉というより〈しゃべる〉感覚で、ほぼ息(笑)。ただ、息ばかりだと音程が乗らないし、歌おうと思うと歌になっちゃう……難しかったです。“君にトロピタイナ”からこの曲、次の“Last Cinderella”と続く流れを〈おしゃれゾーン〉と自分では呼んでます(ニコッ)」。

 そして、アルバムから先行配信されていたラスト・ナンバーの“仮縫いのドレス”は、松井五郎の作詞、中田裕二の作曲、山川恵津子の編曲によるハートフルでポップな一曲だ。

 「歌詞も上品だし、曲もアレンジも上品なので、“サバイバル・レディ”とは人が変わったんじゃないか?っていうぐらい上品に歌おうと心掛けました。綺麗な曲をいただいたなあと思います!」。

 7月8日には30歳のバースデー。二十代最後の、ある意味メモリアルな作品として刻まれる『サバイバル・レディ』で、お年頃なりのお色気や可愛らしさも自然と振りまきながら、等身大の女性像を見せてくれるゆっふぃー。作品に挑むひたむきさや誠実なキャラクターも、作品を通じて感じることができるだろう。

 「世間で言われるほどには30歳の壁ってあまり感じていなくて、さらっと(30歳に)なろうとしてるけど、これでいいのかなあって。最初っから大人、20歳を越えてからアイドルしてるから、背が伸びたとか劇的に見た目も変わってないじゃないですか。変わったほうがよかったところもあったんだろうけど、あんまり変わらず来ちゃったなっていうのがあります。ただ、いま思うと、これまでは〈ゆっふぃーっぽいもの〉からはみ出したくないっていう気持ちも強かったと思うんですけど、今回のアルバムを作る前から〈楽しくやりましょう!〉みたいな気持ちが芽生えました。ヴィジュアルもいままであまりやったことがないものにしたくって、けっこう作り込みましたし、以前だったらもっとニッコリ笑ってる顔じゃなきゃって思っていたと思うんです。可愛く写りたいっていうこともあんまり思わなくなった……かな(笑)?」。

寺嶋由芙のアルバム。
左から、2016年作『わたしになる』、2018年作『きみが散る』(共にインペリアル)

 

左から、怒髪天の2020年作『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』(インペリアル)、にゃんぞぬデシの2018年作『魔法が使えたみたいだった』(三毛猫レコーズ)、a flood of circleの2020年作『2020』、中田裕二のベスト盤『TWILIGHT WANDERERS -BEST OF YUJI NAKADA 2011-2020-』(共にインペリアル)