演歌や歌謡曲に漂うムードを伝えてくれる歌にもっと逢いましょう
上手さだけでなく〈ムード〉を湛えた彼女の歌声の響きは、少女期の畠山にもくっきりとその印象を焼き付けたようだ。小西康陽プロデュースの元、ジャズのスタンダードなどを歌うことによってその個性を際立てた本作では、その魅力に改めて引き寄せられた人も多かった模様で。
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喜び、悲しみ、恨み、慈しみ──感情に寄り添った言葉とメロディー、それを艶やかに演じきる歌い手によって生成される歌謡曲/演歌の旨味。椎名林檎、森山直太朗、TAKUROら、〈味〉を知る愛すべき後輩たちとのコラボによって、キャリア40年を越えた彼女も眩しく乱反射する。
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『歌で逢いましょう』には森雅樹が選曲で参加しているが、デビュー時からEGO-WRAPPIN’には昭和歌謡のノスタルジアやグルーヴ感があった。本作でも、歌謡曲の〈言葉〉が持つ叙情性を多彩なビートに織り込みながら、彼ららしいアヴァンな作風も響かせている。
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歌謡曲やニューミュージックなどの影響を自作のメロディーに匂わせていたのはバンド時代からだが、ソロになって以降は演者としての艶めきがメキメキと増加。アコースティック・ライヴから発展したこのカヴァー集も、満を持してと言ったところだろう。
古のキャバレー、もしくはナイトクラブのハコバン──ラテン・フレイヴァーの演奏をバックに、カヴァー集という一貫したスタイルで香り立つ歌声を聴かせてきた彼女。新作では、横山剣、川上つよしと彼のムードメイカーズ、バンバンバザールらがほろ酔い気分を盛り立てて。
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〈洗練〉とは真逆に、歌謡曲が持つチャームをイビツさも含めて再構築し、エイジレスな楽曲を生み続けている彼女。本作なら和モノ・レアグルーヴの名曲“ディープ・パープルはどこ?”や由紀さおり“手紙”のスキャット版は7インチでも聴きたい出来。