©Alexa Viscius

意図せずに――かつて〈エモ〉の源流になったバンドは、再結成以降の12年間において明確な意思をもって 己を進化させてきた。重層的で斬新な音作りを敷いた通算4作目の制作秘話をマイク・キンセラが明かす!!

〈バラバラ〉という一体感

 エモを単なるハードコアの延長ではなく、アメリカーナ的な哀愁も滲ませながら、マス・ロックとして発展させた99年のファースト・アルバム『American Football』(通称『LP1』)の試みが歓迎されたにもかかわらず、その後あっという間に解散してしまったことで、エモ界の〈伝説〉として語られるようになったアメリカン・フットボール。彼らが『LP1』から17年を経てリリースした2016年のセカンド・アルバム『American Football』(通称『LP2』)は前作以上に支持を集めたものの、今回インタヴューに答えてくれたマイク・キンセラ(ヴォーカル/ギター)によると、「『LP1』のようなサウンドをふたたび作ってしまったため、クリエイティヴ面ではあまり満足できなかった」という。

 しかし、それがバンドを続けるモチヴェーションのひとつになったようだ。2019年にリリースしたサード・アルバム『American Football』(通称『LP3』)は、ヴィブラフォン、ベル、ピアノといったマイクいわく「メロディアスな打楽器」やヘイリー・ウィリアムスら複数の女性シンガーたちの歌声を加え、バンド・サウンドの拡張に成功する。その大きな手応えを感じたまま、『LP3』のツアーを終えたアメリカン・フットボールのメンバーたちは休暇を挟んで、新作に取り掛かるつもりだった。しかし、新型コロナウイルスが世界中を襲い、1年の予定だった休暇は3年に延びてしまう。その後、リモートで曲を作りはじめたものの上手くいかず、やがてスティーヴ・ラモス(ドラムス)がバンドを去ってしまった。

 「当時は、数年間バンドの活動はないだろうと思っていたんだ。でも、曲のアイデアはいろいろ残っていたし、コロナ禍で時間はあったから、ネイト(・キンセラ、ベース)と俺はリモートでそのアイデアを練り続けた。その過程で、バンド・サウンドや曲作りに役立つさまざまなレイヤーや新しいツールはまだまだたくさんある、ということに気付いたんだ。つまり、ギターを含め生の楽器だけに頼る必要はないということ。だから、シンセやドローン、サンプリングなどを多用できるようになった。それによってネイトと俺の新しいプロジェクト、ライズ(LIES)のアルバムが出来たわけだけど、その後スティーヴが戻ってきて、アメリカン・フットボールとしての4枚目の制作に取り掛かったときは、まるで新しい言語を覚えたような感覚だった。ライズは確実にアメリカン・フットボールへと影響を与えているね」。

AMERICAN FOOTBALL 『American Football (LP4)』 Polyvinyl(2026)

 結果、いわゆるトラックメイキングやアレンジにおいてプログレ的な発想を加えたニュー・アルバム『American Football』(通称『LP4』)は、『LP3』からのさらなる進化を物語るものとなった。

 「以前のアルバムよりもヴァラエティーに富んでいると思う。そして、このアルバムの一体感を支えているのはその〈バラバラさ〉そのものなんだ。また、攻撃性ってものが加わっているし、『LP1』に少し戻ったような部分もあると思う。ちょっとしたトランペットの間奏だったり、インストのセクションだったりね。今回は、自分たちのサウンドから離れすぎないようにしつつ、確実に何かを足して、さらに広げていくことに挑戦したんだ」。

 

自由に羽ばたいて

 曲の冒頭から変拍子のドラムが鳴らされる“Man Overboard”、もともと2曲だったものを1曲にまとめ、アメリカン・フットボール史上最長の8分を超える楽曲になった“Bad Moons”、コーラスに頼らずにヴァースとブリッジだけで展開させるニューウェイヴ風のロック“Wake Her Up”、フラメンコを思わせるハンドクラップを印象的に重ねていく“Patron Saint Of Pale”と、これまでとは一味違うと思わせる曲も少なくない。ポスト・ロック的な複数のギター・アンサンブルを軸にしつつ、ハーモニー・ワークも含めいろいろな楽器の音色が重層的に絡み合うなか、ダークウェイヴ風の“Blood On My Blood”や、ピアノとトランペットが掛け合うインスト“The One With The Piano”が、マイクの言う〈楽曲の振り幅〉をぐっと広げている。そのなかでもサンプリングによるものと思しき〈パパパパ〉というコーラスが耳に残る“Desdemona”、そして“Blood On My Blood”の2曲を特にマイクは気に入っているという。

 「“Desdemona”は凄く良い曲で、物語のような感じなんだ。始まりと終わりがはっきりしていて、流れがある。曲の展開もクールだよね。“Blood On My Blood”は、トーキング・ヘッズがリック・スプリングフィールドみたいな80年代のポップソングを書いたようなイメージかな」。

 アメリカン・フットボールの王道といえる“No Feeling”に高音のハーモニーを重ねたターンスタイルのブレンダン・イェーツ、“Wake Her Up”に「この世のものとは思えない歌声」を加えたウィスプことナタリー・ルーといった、若手ヴォーカリストによる客演も聴き逃せない。

 新たなサウンドを求めることが彼らにとって、バンドを続ける唯一のモチヴェーションであると改めて感じられることが、『LP4』のいちばんの聴きどころかもしれない。告解や懺悔にも聴こえる歌詞もこれまで以上に強烈な印象だ。

 「単なる再結成やノスタルジーだけでなく、先に進んだと思う。俺たちはいま、ちょっと羽を広げて、自由に羽ばたけるような心地良さを感じているよ。それによって、音楽がもっと楽しくておもしろいものになっているとも思う。みんなにも気に入ってもらえると嬉しいね」。

 7月には2019年以来となる〈フジロック〉への出演も決まっている。

 「〈フジロック〉でまた演奏できるのが楽しみで待ち切れないよ。前回はすごい嵐に見舞われたから、それでショーが台無しになったわけではなかったけど、間違いなく影響はあったと思う。今回はもっと上手くやれるはずだ。ある意味、前回のリヴェンジだと思ってるんだ」。

 再現が難しいであろう『LP4』の曲が中心になるという意味でも、今回の来日は観逃せないものになりそうだ。 *山口智男

アメリカン・フットボールの作品。
左から、2019年作『American Football』、2016年作『American Football』、99年作『American Football』(すべてPolyvinyl)

左から、ターンスタイルの2025年作『Never Enough』(Roadrunner)、ウィスプの2025年作『If Not Winter』(Music Soup/Interscope)

 

アメリカン・フットボールを中心に発展を遂げた〈ミッドウェスト・エモ〉とは?

 現在の〈ミッドウェスト・エモ〉は本来の地域的な枠組みを超えた呼称となっているが、90年代における中心地は文字通り、アメリカ中西部のイリノイ州シカゴであり、兄ティムと弟マイクのキンセラ兄弟がまだ10代だった89年に結成されたキャップン・ジャズこそが、ハードコア・パンクの影響を消化したエモ/ポスト・ロックの始祖とされる一組だ。このバンドはすぐに解散するものの、ポップな泣きメロでその後のエモのオーヴァーグラウンド化を予言したプロミス・リングと、音響寄りのアヴァンなアプローチを見せたティムによるジョーン・オブ・アークへと分岐。その一方、よりジャズとの距離が近いトータスやシー・アンド・ケイクなどのスリル・ジョッキー勢が同時代の同地域に存在していて、それら3つの奇跡的な中間点が99年におけるアメリカン・フットボールだったと言えるのではないだろうか。なお、マイクはアメリカン・フットボール再結成時の筆者の取材でスリル・ジョッキーとの関係について、〈僕らは彼らから大きな影響を受けているけど、彼らの視界に僕らは入ってなかったと思う〉と語っていて、当時のムードを知る意味で興味深い。彼の周辺には〈キンセラ・ファミリー〉と呼ばれる無数のバンドが存在するが、なかでもインストのゴースツ・アンド・ヴォッカはtoeへの影響で知られ、日本のポスト・ロックのルーツとしても押さえておきたい。

 パンクの激しさが後退し、メロディアスな歌が前面に出て、繊細なギター・アルペジオをアンサンブルの軸にしつつ、変拍子を取り入れたマス・ロック的なスタイルを特徴とする当時の〈ミッドウェスト・エモ〉は、現在ではエモにおける〈セカンド・ウェイヴ〉に分類されていて、2010年前後のリヴァイヴァル期に活躍したアルジャーノン・カドワラダーやエンパイア!エンパイア!(アイ・ワズ・ア・ロンリー・エステート)ら〈フォース・ウェイヴ〉への影響は絶大。2020年代のエモはよりジャンルレスな広がりを見せているが、アメリカン・フットボールや〈ミッドウェスト・エモ〉の遺伝子はいまも下の世代へと受け継がれている。 *金子厚武

左から、キャップン・ジャズの98年作『Analphabetapolothology』、プロミス・リングの97年作『Nothing Feels Good』、ジョーン・オブ・アークの99年作『Live In Chicago, 1999』(すべてJade Tree)、アウルズの2014年作『Two』(Polyvinyl)、メイク・ビリーヴの2008年作『Going To The Bone Church』(Flameshovel)、オーウェンの2024年作『The Falls Of Sioux』、バースマークの2024年作『Birth Of Omni』(共にPolyvinyl)、toeの2024年作『NOW I SEE THE LIGHT』(Machu Picchu Industrias)、アルジャーノン・カドワラダーの2025年作『Trying Not To Have A Thought』(Saddle Creek)、エンパイア!エンパイア!(アイ・ワズ・ア・ロンリー・エステート)の2014年作『You Will Eventually Be Forgotten』(Count Your Lucky Stars)、2024年のコンピ『American Football (Covers)』(Polyvinyl)