遅くなりましたが明けましておめでとうございます。ROTH BART BARON三船雅也です。新しい一年の始まりを皆さんいかがお過ごしでしょうか。エリック・シュノーとの公演を終えた長野の松本で、この記事を書いています。寒い!

 

バンドは長い長いツアーの日々を過ごしておりました。
念願だったTurntable filmsのみんなとも演奏できたり。

 

DE DE MOUSEも超カッコ可愛かったし。

 

金沢のnoidゆーきゃんAwesome City Clubとの共演も楽しい夜でした。

 

徳島ではヒッチコックごっこをしたり。

 

北海道は熊に困らないのでとても好きです。

 

〈山形肘折国際音楽祭〉も大雪のなか演奏という素晴らしい経験。

 

ここでは紹介しきれませんが、どの街でも目の覚めるような素晴らしい時間を過ごしました

タイで開催された〈ビッグマウンテン・ミュージック・フェスティヴァル 7〉に出演。

 

サウンドチェック。

 

タイの友達バンド、デスクトップ・エラー。彼等にはとても助けてもらった。

 

空いているステージでセッションも。

 

向こうは12月でも気温30度! 三船は軽い夏風邪に。暑い!

 

おばちゃんも犬もよく寝ている。

 

一番驚いたのは僕らの演奏が終わった後、他のステージでタイのバンドの演奏を見ていたら、彼らがステージから僕のことを見つけてくれて、ステージ上から〈ROTH BART BARONのライヴすごく良かった、大好きだよ!〉と称えてくれたこと。日本では体験したことないことでした。僕も見習いたいものです。

大盛況のタイツアーになりました。

 

この記事が掲載されるころには、東京・恵比寿LIQUIDROOMでのツアー・ファイナルに向けてバンドは準備の真っ最中でしょう。

今回は祝・来日記念特別編と題し、急遽予定を変更してボン・イヴェール(Bon Iver)について紹介しようと思います。

ボーン・イヴァー、ボン・イベール、ボーン・アイヴァー、なんだかとても読みにくい名前です。発音的にはボニィー・ヴェー、カクカクした言葉の多い日本語に変換しようとするととても難しい名前です。一応公式ではボン・イヴェールとなっていますが、これもなんだか的を得ていないような気がします(日本語は難しい)。

90年代にCBSで放映されたTVドラマ「たどりつけばアラスカ」のセリフから取られたこのプロジェクトは、病気にかかって3か月間のほとんどをベッドで過ごしていたジャスティン・ヴァーノンが、両親の持っていた小屋でポツリポツリと音楽を作りはじめたところからスタートしました。

最初の出会いは、僕がバンドを始めたばかりの頃の2008年前後、フォークな感覚を持った新しいバンドが続々と出てくるなかMyspaceを漁っていて、ディーヤーモンド・エディソンというバンドを偶然見つけたことでした。

ディーヤーモンド・エディソンの2005年作『Silent Signs』収録曲“Heroin(e)”

 

ジャスティン本人のミドルネームを冠したこのバンドは、正統派アメリカン・ロックのフィールを持っていながらも新しく、粗野なサウンドは僕のお気に入りになりました。調べてゆくとディーヤーモンド・エディソンはすでに解散し、彼はボン・イヴェールという名前で活動していることを知ります(後に、他のメンバーは第一回で紹介したメガファンを結成します)。音楽を始めたばかりで、声の高さがコンプレックスだった筆者は、すっかりこのモジャモジャした、ちょっとダサイ熊男の存在に心を励ましてもらっていたのです(そのせいで話が合わず、日本のバンド友達がすっかりできないという日々を長い間送ることになります)。

次にヴィンセント・ムーンが始めた〈La Blogothèque - A Take Away Show〉のサイトに、ジャスティンがフランスでアカペラで歌っている動画を見つけました。当時はYouTubもたいして画質が良くないなか、このサイトだけが群を抜いて素晴らしいクオリティ(しかも高画質!)な映像を提供していました。

〈La Blogothèque - A Take Away Show〉でのボン・イヴェールのパフォーマンス映像

 

当時はインディー・バンドと言ったら小さな世界で、大きなフェスティヴァルに出演することはまだあまりない時代でした(もちろん例外もありました)。ボン・イヴェールもニッチなまま、大きくならずに音楽活動をしていくと思われましたが、2007年にUSはブルーミントンのレーベル、ジャグジャグウォーからアルバム『For Emma, Forever Ago』をリリースし、その歌は多くのアメリカ人の心に響いていきます。

それに呼応するかのようにアメリカの音楽サイト、ピッチフォークを中心としたインディー・ムーヴメントが爆発し、才能を持った無名ミュージッシャンやバンドが次々とフックアップされていき、インディー・バンドのみでフェスティヴァルができるくらいに急速に成長していきます。その衝撃は日本にも到達しました。

ボン・イヴェールの2007年作『For Emma, Forever Ago』収録曲“Flume”

 

フォーク・ミュージックの〈フォーク〉の部分ばかりをフィーチャーしたバンドが多いなか、ボン・イヴェールは自由にエレクトリックな要素、俗っぽい音楽、王道のロック、実験的なサウンドまで、フォーキーな音楽を核に持ちつつも、自分の音楽を拡張しようとしていると感じました。それでも最終的に歌心を忘れないところが、なによりも素晴らしいところだと思います。

そして2012年、彼はセカンド・アルバム『Bon Iver』でグラミーを受賞します。

ボン・イヴェールの2011年作『Bon Iver』収録曲“Calgary”

 

彼の特徴は、フォークに限らないさまざまなミュージシャンと音楽を共に作り上げることができる器量を持っているところです。ソロ・プロジェクトならではのフットワークの軽さなのか、自分の音楽をどんどん広げようとする姿勢を持ち、それも商業的なコラボレーションではなく、人間同士のリスペクトを持ち併せた関係性でコラボレーションをするのです(彼は実際グラミー賞恒例のコラボライヴ企画は断っています)。彼が作り上げた音楽を聴くと、それはとても無邪気で愛情のあるものだと、すぐにわかると思います。

みんなを大いに驚かせたカニエ・ウエストとの共演。

カニエ・ウエストとジャスティン・ヴァーノンによる2011年の〈コーチェラ〉でのライヴ映像

 

ジェイムズ・ブレイクとのこんなカヴァーも。

ジェイムズ・ブレイクとジャスティン・ヴァーノンの“The Sound Of Silence”

 

彼が参加したことがないバンドはいないのでは?と思えるくらい多彩な作品に参加しています。

同時に彼はさまざまなプロデュースも行っています。最近ではイギリスの三姉妹フォーク・バンド、ステイヴスの新作『If I Was』のプロデュースを行っていましたね。

ジャスティンとのレコーディングを語るステイヴス。〈私たちにとって「指輪物語」のガンダルフのような存在〉

 

彼女たちは最近ボン・イヴェールのバックコーラスとして参加していることが多いのですが、今回の来日公演でもメンバーとしてステージに上がるようです。

ステイヴスの2015年作『If I Was』収録曲“Blood I Bled”のパフォーマンス映像

 

ライヴ・メンバーとして参加しているといえば、ベース・サキソフォン奏者のコリン・ステットソンも素晴らしいアーティスト。

コリン・ステットソンのパフォーマンス映像

 

ドラムのS・キャリーも、いまではプロジェクトになくてはならないアーティストです。彼もジャグジャグウォーからアルバムをリリースしています。筆者も北米ツアー中、アメリカン・フットボールのオープニング・アクトで、S・キャリーのパフォーマンスを観ることができましたが、とても良いライヴでした(なんでも彼はジャスティンの音楽に惚れ込み、直談判してバンドに入れてもらったそう)。

NYのウェブスター・ホールでのS・キャリー。

S・キャリーの2013年作『All We Grow』収録曲“In The Dirt”のライヴ映像

 

アメリカン・フットボールもタフで良いライヴでした。

 

ボン・イヴェールは、現在故郷のウィスコンシンで〈Eaux Claires〉というフェスティヴァルを去年から主催しています。その参加者たるや、いまのロック・ミュージックを代表する素晴らしいメンツです。

〈Eaux Claires 2016〉のトレーラー映像。観るだけでワクワクしてきます

 

S・キャリーが〈Eaux Claires〉についてインタヴューに答えています

 

ウィスコンシン州は日本で言うと北海道が一番近いと言われています。〈ミュンヘン・札幌・ミルウォーキー〉といえばピンとくる人がいるかもしれません。アニメ「あらいぐまアライグマラスカル」の舞台にもなった場所ですね。

ラスカルの歌詞に出てくるロックリバー。

 

ちなみにROTH BART BARONは北米ツアーの際、ミルウォーキーでの公演も行っています。ミルウォーキーはツアー中特に盛り上がった街の一つでした(ジャスティンもそうですが、なぜかこの街の兄ちゃんはガタイがよかった)。みなさんに少しでも現地の空気が伝わるといいのですが。

ミルウォーキーの街並み、静かで綺麗で良いところです。

 

とても盛り上がったライヴでした。また彼らに会いたいですね。

今後ボン・イヴェールとして活動するかどうかはわからないと発言していたジャスティンですが、最近になって今後も続けていくとコメントしています。これからどういった作品が生まれるのか、それを引き継いだ遺伝子たちはどうなっていくのか? 筆者はとても楽しみです。

彼の生き方はどんなに有名になろうと、音楽が中心に動き、別に都会には出てこなくとも自分の故郷で音楽活動をすることで世界へと発信ができるし、それで良いんだということを証明する、ある種のインディー・バンドの理想モデルなのではないでしょうか。ウィルコもそうですが、自分の故郷で無理なく音楽を奏でていくことは、今後ますます増えていくのでしょう。

長々と書いてきましたが貴重な彼らの初来日公演、ぜひ観に行っては如何でしょうか? きっとみなさんにとっておもしろいことが待っていると思います。

ボン・イヴェールの2011年作『Bon Iver』収録曲“Minnesota, Wi”のライヴ映像

 

Hostess Club Presents Bon Iver
2月29日(月)東京・新木場スタジオコースト
3月2日(水)大阪・ZEPPなんば
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それと、2月20日(土)には、僕たちのバンドのツアー・ファイナルとなる東京・恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンも開催されます。せめてボン・イヴェールの来日公演だけ見てくれればというのも本心ですが、僕らのライヴに来て欲しいのというのも本心です。2つの気持ちに引き裂かれています。みなさん良かったらどちらにも遊びに来てください。

ボン・イヴェールに負けないよう筆者も前に進みます。それではまた次回。

 

ROTH BART BARON
ATOM TOUR FINAL LIQUIDROOM ONE MAN SHOW

日時・会場/2月20日(土)東京 恵比寿 LIQUIDROOM
開場/開演:17:30/18:00
料金:3,500円(1D別)
*来場者にはATOMドキュメンタリービデオ「ATOM VIDEO」をプレゼント
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