イーグルス珠玉の名盤『One Of These Nights』が50周年!
これまで何度も僕らにさよならを示唆してきたイーグルスだが、先ごろのTVインタヴューでドン・ヘンリー(ヴォーカル/ドラムス)がこぼした率直な言葉、〈もしかするとイーグルスとして最後の年になるかもしれない〉という発言にはこれまでとはどこか違う響きがあった。テデスキ・トラックス・バンドを前座に据えたツアー日程も発表されて話題性は十分。だが同時に、最後の航海になる可能性をどうしても思わずにはいられない。なんたって来年ヘンリーは傘寿を迎えるのだ。それを思えば、楽観視はかなり厳しい。
この10年、グレン・フライ(ヴォーカル/ギター)という大きな支柱を失って以降もその名を風化させることなく、現在進行形の伝説として更新し続けてきた彼ら。名作を再現する〈ホテル・カリフォルニア・ツアー〉が興行収入ランキングで上位に位置するなど、作品発表が途絶えてもなお揺るがぬ人気を証明してみせたわけだが、アメリカン・ロックの頂点に居続けること自体が彼らの偉大さを雄弁に物語っているとも言えよう。そしてその存在感は過去の栄光に閉じることなくいまも確かに広がり続け、ノア・カーンやフィービー・ブリジャーズといったフォーク~カントリー系のミュージシャンの作品には、彼らならではのハーモニーの感触や風景を呼び起こすソングライティングの美学が形を変えながら息づいているのを発見できたりもする。
大胆な変化による音楽性の拡張
そのようにイーグルスが〈スーパー〉な存在である理由、その問いにひとつの明確な答えを提示してくれる作品がある。彼らが75年に発表した通算4作目『One Of These Nights』だ。今回リリースされる〈デラックス・エディション〉は、その本質を改めて浮かび上がらせる格好の機会と言えるだろう。ひとつのバンドに複数の主役級ミュージシャンが揃い、それぞれの個性がせめぎ合いながら最終的にひとつの完成形へと収斂していく。そんな理想的なダイナミズムを鮮やかに体現している本作は、緻密に構築されたアンサンブル、そして洗練美と普遍性が見事に共存する楽曲群などの要素が有機的に結びついており、彼らに初の全米No. 1ヒットをもたらした記念碑であると同時に、スーパー・バンドたるゆえんを決定づけた一枚でもあるのだ。
そもそもイーグルスは、アメリカ的叙情を描くことを得意とするルーツ・ロック色の濃いグループとして出発した。71年にリンダ・ロンシュタットのバック・バンドとして集ったメンバーを母体に始動し、LAのカントリー・ロック・シーンに新たな風を吹き込む存在となったわけだが、3作目『On The Border』あたりからロック色を強め、次第にハードで煌びやかなサウンドを打ち出すようになっていく。その流れを決定的なものとしたのが、前作からタッグを組みはじめたプロデューサー、ビル・シムジクの存在である。彼が全曲プロデュースを手掛けた『One Of These Nights』においてイーグルスは、それまでの延長線にとどまらない大胆な変化を取り込みながらみずからの音楽性を大きく拡張していく。ロック、カントリー、さらにはソウルのエッセンスを自在に横断し、高次元で結びつけた試みが圧倒的な完成度として結実しているのだ。
象徴的な1曲が、オープニングを飾る“One Of These Nights”だ。デトロイト育ちのフライのソウル志向を色濃く反映したこのナンバーはうねるようなベースライン、ヘンリーのファルセットなどが艶やかに響く、ディスコ・グルーヴを取り入れた意欲作で、それまでの清涼感あふれるコーラス・グループというイメージを更新し、新たなフェイズへの突入を告げる役割を担っている。退廃と欲望が交錯するLAのライフスタイルを描いた歌詞も含め、その世界観は後の“Hotel California”へと連なっていく重要な布石となっている。そして、本作の真価をさらに押し広げているのが充実したスロウ・ナンバー群だ。ランディ・マイズナー(ヴォーカル/ベース)がリード・ヴォーカルを務める“Take It To The Limit”は、ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルーノーツの“If You Don’t Know Me By Now”から着想を得たアレンジが印象的で、壮大なストリングスをフィーチャーしてスケールの大きな情景を描き出した名演。さらに、フライとヘンリーのソウルフルな掛け合いが沁みる“After The Thrill Is Gone”、バーニー・リードン(ヴォーカル/ギター/バンジョー他)の穏やかな歌声が余韻を残す“I Wish You Peace”など、単体のアルバムで核になり得るほどの完成度を誇るバラードが揃っているのだからたまらない。そこに“Lyin’ Eyes”のようなカントリー・ロック路線の集大成とも言うべき名曲が加わることによって広がりと深みを兼ね備えた豊かな奥行きを獲得している。
つきまとう終わりの気配
ウェストコーストのローカルなシーンから飛び出し、まさに頂点へと駆け上がろうとするイーグルスの熱量と勢いを封じ込めた本作『One Of These Nights』。そのデラックス・エディションには、75年9月にアナハイムで開催された〈サンシャイン・フェスティヴァル〉でのライヴ音源が16曲にわたって追加収録されている。とりわけ重要なのは、初期のカントリー・ロック期を支えたバーニー・リードンのイーグルスにおける最後の輝きが記録されている点だ。音楽性の相違から本作を最後にバンドから去る彼の演奏には、いわばひとつの時代の終わりが刻まれているわけだが、バンジョーが軽やかに駆ける“Blackberry Blossom”や“Midnight Flyer”などのブルーグラス・チューンの躍動感には初期イーグルスのエッセンスが豊かに息づいていて素晴らしい。さらに当時十八番だったチャック・ベリー“Carol”のカヴァーもカッコいいし、まさにこの時期ならではの空気を伝える貴重なライヴ・ドキュメントだ。
甘美な香りと華美な音色に包まれた『Hotel California』の前夜。70年代ロックの象徴とも称されるあのアルバムこそ代表作という見方は揺るがないだろうが、バンドとしてのダイナミズムと均衡が美しい形で結実する点から、音楽的ピークはこの『One Of These Nights』にあったと断言するリスナーが少なくないのも事実だ。それにしてもイーグルスという存在には、どこか常に終わりの気配がつきまとっている。退廃的な世界観を内包した『Hotel California』の影響も少なからずあるし、幾度となく繰り返されてきたフェアウェル・ツアーの記憶が絡んでいる気もするが、本作の時点においてそういった感触はすでに微かに立ち現れている気がしてならない。初期メンバー離脱という変化を目前に控えながらバンドはやがて離散へと向かうわけだが、終わりの始まりとも言うべき兆しがここには確かに刻み込まれている。煌びやかなサウンドの奥にどこか翳りを帯びた情感が差し込んでいる本作の豊かな陰影をこの機にじっくり味わってほしい。 *桑原シロー
『One Of These Nights』と同時期にメンバーが参加した作品を一部紹介。
左から、グラム・パーソンズの74年作『Grievous Angel』(Reprise)、ジャクソン・ブラウンの74年作『Late For The Sky』(Asylum)、ランディ・ニューマンの74年作『Good Old Boys』(Reprise)
左から、イーグルスの最新ベスト盤『To The Limit: The Essential Collection』(Rhino)、チャック・ベリーの59年作『Berry Is On Top』(Chess)
キャリア最終章に差し掛かったバンドの歩み、〈呪われた夜〉から辿る古今の周辺作品を紹介!
リンダ・ロンシュタットの録音で顔を合わせた4名が結集し、グリン・ジョンズがプロデュースで新しい西海岸ロックの幕開けを告げたファースト・アルバム。フライとジャクソン・ブラウンが共作した陽気なカントリー調の“Take It Easy”がヒット。
リード・ヴォーカルを分け合って共作にも取り組み、メンバーそれぞれのカラーがより出た2作目は、西部開拓時代のアウトローを題材とするコンセプト・アルバム。フライ&ヘンリーによる名曲“Tequila Sunrise”と表題曲はやはり出色だ。
制作途中でビル・シムジクがプロデューサーに交代する混乱もありつつ、録音に招いたギタリストのドン・フェルダーを加えて結果的に5人体制となった3作目。カントリー・ロックの“Best Of My Love”が翌年にシングル化されて初の全米1位に。
意味深な表題曲が有名なバンドの代表作で、70年代ロック産業の転換点を記録した傑作。“New Kid In Town”と表題曲が連続でNo. 1を獲得した。新加入したジョー・ウォルシュも“Life In The Fast Lane”で手腕を発揮している。
前作の成功に伴う重圧やツアー生活による疲弊、メンバーの不仲なども相まって独特の重苦しさで満たされた(この時点での)ラスト・アルバム。新加入のティモシーB・シュミットによる“I Can’t Tell You Why”がヒットを記録した。
置き土産となった初のライヴ・アルバム。80年7月のサンタモニカ公演を中心にマイズナー在籍時の録音も交えて、ベスト盤的なパフォーマンス選集として楽しめる。初出曲としてスティーヴ・ヤングのカヴァー“Seven Bridges Road”も収録。
〈地獄が凍りつく〉ほどの奇跡で解散時の5名が揃った再結集作。MTV特番用のライヴ音源にスタジオ録音の新曲も加えた構成で、ヘンリーらしい疾走感で迫る“Get Over It”やシュミットの歌う優美な“Love Will Keep Us Alive”などが瑞々しい。
実に28年ぶりのオリジナル・アルバム。フライとヘンリー各々の主導曲をバランス良く配置しつつウォルシュとシュミットの歌唱曲も織り交ぜ、4人でハーモニーを紡ぐ冒頭曲から圧巻。先行ヒット“How Long”などカントリー的な味わい深さも滲む。
ヴィンス・ギルとディーコン・フライを加えた体制で初(にして現時点で最新)の作品は、2018年のフォーラム公演の模様を収めたライヴ盤。グレイテスト・ヒッツ的な選曲だけに、不在メンバーのリード歌唱曲がどう再現されているかも聴きどころだ。
今回のデラックス版で聴けるアナハイム公演に客演し、そのままリードンの後任に就いたギタリスト。それに先駆けたこのソロ作では“Falling Down”をヘンリーが共作し、フライとマイズナーも数曲のコーラスに参加するという伏線はあった。
この時期にイーグルスとツアーも共にしていたシンガー・ソングライターが、ジョー・ウォルシュのプロデュースで作り上げた2作目。ヘンリーが“Better Change”でドラム演奏とハーモニーを担い、フライとマイズナーも別曲でコーラスに参加している。
燻し銀のフォークを聴かせるシンガー・ソングライターが西海岸の人脈を起用して作った5作目。ヘンリーとリードンがハーモニーを加えた表題曲や、フライとマイズナー、ヘンリーの演奏で送る“Steel Guitar”などの質感は初期イーグルスにも通じる。
イーグルスとも深い縁のある歌姫が初めて全米No. 1を獲得した大ヒット作。ラストに置かれた“You Can Close Your Eyes”ではヘンリー&フライがドラムス&ギターを演奏し、そこにポコ時代のシュミットもベースで手合わせしている。
イーグルスとは結成前から縁深い西海岸シーンのキーマンによるソロ2作目は、ピーター・アッシャーのプロデュースで味わい深いカントリー・ロックを聴かせる最高傑作だ。フライ、ウォルシュ、ヘンリーがギター演奏やコーラスで助力している。
現在もイーグルスに在籍する最後のオリジナル・メンバーとなったドン・ヘンリー。これは解散後のソロ初作で、ヒットした“Dirty Laundry”や“Johnny Can’t Read”を筆頭にシンセ・ポップやレゲエなどニューウェイヴ時代のスタイルで聴かせる。
イーグルス脱退の翌年に発表した初のソロ作。フライとJD・サウザー作の騒々しい“Mad Man”もあるが、テンポを抑えた曲での素朴な歌声がやはり光る。『One Of These Nights』収録の人気曲をセルフ・カヴァーした“Take It To The Limit”もいい。
マイズナーの後任としてイーグルスに加入した元ポコのベーシストが、解散後に発表した初のソロ・アルバム。洒脱なAORや“So Much In Love”のカヴァー、青春ロックまでジャケそのままのノリが実に80s的で麗しい。ウォルシュやヘンリーも参加。
イーグルスのオリジナル・メンバーで、脱退後はマイケル・ジョージアディスとのバンド結成やエミルー・ハリスとの共演などをマイペースに続けてきた彼。この21年ぶりのソロ作は初期イーグルスを手掛けたグリン・ジョンズがプロデュースを担当! 轟ひろみ


















