2012年に豆腐屋名義でボカロPとして活動を始め、2013年になぎさへと改名。2017年にはmao sasagawaに改名しシンガーソングライターとしての活動を本格化させ、2019年には笹川真生へ――。紆余曲折を経て現在の活動へと辿り着いた笹川は、しかし自らに課した〈笹川真生らしさ〉に縛られていたという。その制約から解放されるきっかけとなったのが、前作『STRANGE POP』での〈自動書記〉的な制作体験だった。取り繕うことをやめ、衝動のままに作るその姿勢は、最新作『CULTURE DRUG ORCHESTRA』でさらに加速している。取材中、笹川は「どうでもいい」と何度も口にしていた。この言葉に象徴されるがむしゃらな制作は、今作に何をもたらしたのか。笹川に話を訊いた。
虚飾が剥がれ、自然と出てくるものに近づいた
――まず確認したいのですが、前作『STRANGE POP』は〈笹川真生だったらこうする〉というイメージを取っ払って自動書記のように作った作品であり、結果的にそれまでとは異なるアッパーなサウンドになったとのことでした。今作『CULTURE DRUG ORCHESTRA』を聴かせていただいて、前作から発展したサウンドだと感じたのですが、ご自身ではどう思われますか?
「前作で自動書記のように作った作風が自分の血になった感じがあって。なので、発展と言えばそうなのかもしれません」
――では今作を紐解くためにも、前作について訊かせてください。前作について、ファンに〈ありがとう〉と〈愛してる〉を伝えるために制作したと話されています。なぜその目的にあたって、イメージを取っ払う作り方をしたのでしょうか?
「あえてそういう作り方を選んだというより、取り繕っている余裕がなかったんですね。制作時期に〈デカ鬱〉になってしまい、〈最後にラブレターを書いて死のう〉と思っていて。ラブレターを書くのであれば嘘はつかないように、ということで、あの作り方になりました」
――逆に言えば、それ以前は〈らしさ〉に囚われていたということですね。
「そうですね。ブランディングだとか、打算的なところが作品に表れていたんだなと、前作を作り終えた時に感じました。それまではそういう意識があったわけではなく、無意識にセーブしていた感じです」
――〈らしさ〉を守る余裕すらなく、自動書記のように作った結果、今までとは違う作風になった。
「でも、自分のキャリアを振り返ってみると、元に戻ったと言ってもいいのかな。ボーカロイドを使って作品を作っている(という経歴がある)と、当たりが酷かったんですよ。ライブは出られないし、〈ボカロP出身だからしょうもねえだろ〉という感じで聴かれなかったり。
どうしたら他の人達と一緒に〈音楽〉として聴いてもらえるかと考えると、臭みを消す作業が必要だったんです。リリースカットされたピアノは〈インターネットの人だよね〉と思われるから使わないとか、フォーキーにしたら天才っぽく見えるんじゃないかとか、虚飾の〈笹川真生〉を作っていました。『STRANGE POP』でそれが剥がれて、自分から自然と出てくるものに近づいていったのかなと」
――確かに、例えばボカロ時代の“ジュウロクグラム”(2017年)では、ノイジーなブレイクビーツを取り入れたりしてますね。
「めちゃくちゃやってましたね。笹川真生に改名したタイミングで臭みを消した結果、ネットカルチャーじゃない人とも一緒にライブができるようになったので、なんとも言えないところですが(笑)」
〈考えすぎない〉作り方
――〈笹川真生だったらこうする〉を取っ払った結果、発見したことはありましたか?
「ものづくりってことを考えなくていいんだなというか、考えすぎていたんだなというのが発見だったかもしれません」
――前作ではご自身の演奏を多く取り入れて、その演奏や歌もあまり録り直さなかったそうですが、それも〈考えすぎない〉作り方の一環だった?
「そうですね。思い切りとも言えるし、諦めとも言えるし……。それ以前は、一行の歌を何本も録り直したり、波形を編集して(DAW上の複数トラックの)縦が合うようにしたりしていたんです。でもそれは、そうした方がよくなるからやっていたというより、形式張ったものとして、そうするべきだと思い込んでいた気がして。直っていればいい、綺麗だからいいと無意識に思っていました」
――『STRANGE POP』の制作を通して〈そんなことしなくてもいいかも〉と思ったと。
「少なくとも、今のモードでは必要のないことだと思いましたね」

作品がよかったらどうでもいいじゃん
――では、今のモードでは何が大事なのでしょう?
「私は天才でもないし、技術が優れているわけでもないんですね。よく見せようと編集したところで、元から才のある人には絶対に敵わないし、それは〈いい偽物〉ではないなと。だったら、調子が狂ったままでいた方が個性が出るんじゃないかと。綺麗にするのは誰でもできますが、自分から出る汚れたものは真似できないんじゃないか、という考えもありますね」
――その発見は今作にどう反映されていますか?
「増幅しましたね。今作は制作期間があり得ない短さで、3~4週間くらいしかなかったんですよ。なので物理的に直す時間がなくて、歌も楽器も録り直してないんです。適当に作ってるとかではないですけど、演奏前に入った音とかも消してなくて。部屋がそのまま入ってる感じですね。『STRANGE POP』の時の気づきがなければ、こういう手段は取れなかったと思いますし、収録曲が半分になっていたかもしれません」
――前作がファンへの愛を伝える作品だとすれば、今作はどのような作品でしょうか?
「大前提として、自分はもう聴いてくれる人のためにしか作品を作ってないので、その根幹は変わらないんですが……制作中に一番考えていたワードは〈どうでもいい〉で。
曲の作り方に関しても、どうでもいいという気持ちが溢れてました。歌はできたばかりの歌詞でレコーディングして終わり、みたいな感じだったし、楽器演奏もデモのつもりで弾いたものをそのまま使っています。打ち込みも9割くらいキーボードで弾いているので、ピアノロールはいじってなくて。パソコンが古いのでレイテンシー(遅延)が凄いんですが、それも直してないです。(完成したものが)よかったらどうでもいいじゃん、というか。〈どうでもよろしい〉という感じかもしれません」
――では自動書記的な作り方が、より徹底されているんですね。
「そうですね。ただ、メンタルは前作より安定しているので、自動書記という感覚ではなかったです。コントロールして作っているけど、本当に勢いだけ、みたいな感じですね。
歌や楽器を録り直してないと言いましたが、一応もう一本くらい録ってみたりしたんです。でも、そのテイクは使わないことが多くて。デモの〈なんだろう、このよれ方は?〉みたいな演奏が、今のモードにハマった感覚がありました」
――前作で新たな〈笹川真生らしさ〉ができた面もあると思いますが、それについてはどう捉えていますか?
「虚飾の部分が大きかったものより自分自身で愛せていますし、ポジティブに捉えています。ファンにも喜んでもらえて、〈気のままの自分の方がよかったのか〉〈ああ、よかった〉と思いました。『STRANGE POP』でRAWデータの自分を愛してもらえたので、〈じゃあもっといくよ〉というのが今作ですね」
――その結果、前作からさらに踏み込んだようなサウンドになった。
「そうですね。自分の中の枷みたいなものが外れて、昔やっていたことをやったり、やったことがなかったことを取り入れたことで、感覚が麻痺してきて。それで今作の方がうるさくなったのかもしれません」
――麻痺した結果なんですね(笑)。『CULTURE DRUG ORCHESTRA』というタイトルの意味って訊いてもいいですか?
「うーん……降りてきた(笑)。何か意味があってつけたわけではなくて、最初にアルバムタイトルを思いついて、そこに曲を寄せていく作り方をしました。今作は概ね曲順通りに制作していて。〈CULTURE DRUG ORCHESTRAとは言ったけど、それってなんだ?〉と自分で紐解いていく制作でしたね」
――それは紐解けたんですか?
「紐解いていった結果、〈もうどうだってよくね?〉と。全部めちゃくちゃだから、どうだっていいじゃないかという気持ちがこもっている気がします」
一番好きな声優・平塚紗依さんにどうしてもお願いしたかった
――リード曲の“懐古主義わたし”には、声優の平塚紗依さんが参加されていますね。これはどのような経緯で?
「この曲には、自分と同世代で似たインターネット(の光景)を見ていた人は〈あれね〉と勘づく要素があるんです。それを考えると、可愛い声で、歌を本職にしていない人が歌うのがいいなと。それなら絶対に声優さんがいいし、声優さんなら平塚さんが一番好きなのでお願いしたという感じですね。
いつも曲の赤ちゃんができたタイミングでマネージャーに共有しているんですが、仮歌すら入れていない段階で〈どうしてもお願いしたい人がいるからアポを取ってくれ〉とお願いして。そうしたら、有難いことに引き受けていただきました」
――平塚さんに依頼した時点で歌詞は決まってなかったんですか?
「その時点では〈エーテル ナイファー……〉と詠唱するところだけできていました。そこができたタイミングで〈今言わなきゃ!〉とお願いした感じですね」
――なるほど。平塚さんが歌うことを前提に書いた歌詞もあるんですか?
「最後のサビに〈サンデーモーニング〉という歌詞が入ってるんですが、それは平塚さんが日曜の朝に放送されるアニメの主人公をやっていたからですね。(歌手が)他の人だったらこの歌詞にはなってなかったし、自分がそのアニメを毎週見ていたので、すっと出てきました」
――この曲はサウンドも凄いですね。
「意味わかんないですよね」
――(笑)。デジタルハードコア的な激しいトラックに高速のボーカルが乗って、最後にとてもメロディアスになるという……。なぜこうした曲が生まれたんですか?
「やりたかったからやったに過ぎないかもしれません。〈うるさいテクノがやりたい〉とかではなくて、〈このドラムの音いいな、じゃあここに変なギターを乗せたら面白いな、じゃあオタクボーカルじゃないか?〉みたいに作っていって。結果的によくわからないものになって嬉しいです。どの曲もそうなんですが、アウトラインを決めて出発してる訳ではないんですよ」
――難しい曲だと思いますが、平塚さんのレコーディングはどうでしたか?
「早口のところは結構録り直しましたね。平塚さんが歌えなくて〈あー!〉となってるのがいいなとレコーディング中に思って。その様子も曲に入れたくて、特に目的は伝えずに〈全部つるっと歌ってもらっていいですか?〉と最後にお願いしてみたら、全然失敗しなかったんです」
――レコーディングを通して上達しちゃったんですね(笑)。
「そうなんです。失敗しているテイクは2番で使ってるんですが、これを録るのが一番大変でした(笑)」
――声優さんなので声色も多様だと思うんですが、その辺りはどうリクエストしたんですか?
「平塚さんのボイスサンプルを聴いて、地声が素敵だと思って。なので、声色に関しては何もお願いしなかったですね。実際の歌声も素晴らしくて、一本録るごとに心から〈ありがとうございます〉と言っていました」

無機質な合成音声のノスタルジー
――(笑)。個人的には“ゆうれいのまち”も気になりました。このボーカルは……?
「内緒です。私の家、幽霊が出るんですよ」
――なるほど……。
「インスパイア元は一個あって。『ポケットモンスター ルビー・サファイア』にシンガーソングおやじという歌を歌ってくれるキャラが出てくるんですが、その歌が独特なんですよ。レディオヘッドの曲に出てくる無機質な合成音声を酷くした感じで、ゲームで通信した人が入れた言葉を歌うんです。それが自分にとってノスタルジックで、自分の作品でやりたかったんですね」
――この曲を聴いてまさに「ルビー・サファイア」の最初の町のBGMを連想していたので驚きました。ノスタルジックというのも個人的に共感します。
「あのBGMとは似ていると思いますね。この曲は〈なんだこれ?〉と思う人と〈ああ……〉となる人に分かれる気がします。令和に生まれた人は何も感じないんじゃないかな。音が悪い曲だと思うかも(笑)」
――昔のゲームのようなチープな音色をあえて選んだんですか?
「そうですね。あれは実際にゲーム機に繋いでやっています」
――そうなんですか! そういう試みは初めてですか?
「初めてインターネットに曲を公開した時、お金がなくてドラム音源を買えなかったので、『大合奏!バンドブラザーズ』で打ち込んだドラムをオーディオジャックから出力して、ホワイトノイズと一緒に録音して。それ以来ですね」
――ある意味で原点回帰なんですね。
「そうかもしれません。チップチューンの人がやるクレバーなやり方じゃないので、何してるんだろうとは思いましたけど(笑)」
理想の音は2011年頃の同人音楽
――ボーカルの発音が崩れているのが特徴的ですね。例えば〈われわれは宇宙人〉という歌詞は〈われはれは うちゅうじぬ〉と発音されているように聞こえます。
「それも私にとってノスタルジーなんですよ。昔インターネットで見た〈I Feel Fantastic〉という動画があって。マネキンの女性が歌っている怖い動画なんですが、それが自分の中でエモーショナルなものとして残っているんですね。あの不完全さ、足りてなさが欲しかったし、今も探し続けています。
それで言うと、自分が一番好きな音像は結局、2011年頃の同人音楽なんです。打ち込みが下手で歌が悪い、でもギターはいい、みたいな(笑)。その時の機材でできることをやった不完全さが自分にとって大切で、ある種の神様みたいなものとして捉えていて。それが録り直さないことや、クオンタイズしないことの後押しになっているかもしれません」
――具体的にはどの辺りの同人音楽ですか?
「現ヒトリエのシノダさんのcakeboxだったり、TaNaBaTa、岸田教団などですね。彼らには独特の郷愁を感じます。でも、当時から(聴いていて)懐かしかったんですよ。なのでノスタルジーとも違うものなのかもしれませんが、ずっと胸を締めつけられています。
レコードの音に温かみを感じるようなものなのかな。自分はレコードの音質より、〈MP3TUBE〉と書かれたYouTubeの違法アップロード動画の方が音がいいと思うんですよ。〈高音質〉とか〈立体音響〉とか(書かれた動画)の方が〈この音だよな!〉となります(笑)」
――“ゆうれいのまち”の歌詞には〈街〉や〈回復〉など、RPGを連想させる言葉が出てきますね。サウンドと歌詞が結びついているように感じましたが、制作時はどういう順序でイメージしたんですか?
「この曲に関しては同時に意識が走っていました。行き当たりばったりで曲を作り始めて、〈最初の町になりたい〉と思ったら言葉もついてきて。他の曲に関しては、基本的に音が先にあって言葉がついてくることが多いです」
――その言葉は音のイメージに引っ張られて出てくるんですか?
「そうですね。曲がおちゃめだとおちゃめな言葉が出てきやすい、みたいな。そういう言葉遣いができるようになったのも〈どうでもいい〉からというところがあって、自分にとってはいいことですね」
さめほしの絵に導かれる曲作り
――今作について、さめほしさん(2ndアルバム『サニーサイドへようこそ』から笹川のアートワークを担当しているアーティスト)の絵を見ながら作ったとポストされてましたね。絵からインスピレーションを得ることもあるんですか?
「実は2ndの頃から、私は曲を作る時にずっとさめほしさんの絵を見てるんですよ。デュアルディスプレイで絶対に何かしらの絵を表示していて。リラックスする時も部屋を真っ暗にして、絵を見ながら(制作中の曲を)聴いて〈こっちだ〉と道案内してもらっています。どんなにどん詰まりでも、さめほしさんの絵を見ていると曲ができるんですね。
そういう怪しい活動をひっそりやっていたところ、ジャケットを描いていただけることになって。もはや提供曲を制作する時も見ていたりします」
――どういうところに惹かれるんですか?
「月並みですけど、見てると連れて行かれるというか、引き込まれる感覚があります。不思議と、色々な音を入れるのが怖くなくなるんですね」
――笹川さんの作風とさめほしさんの作風に親和性があるということなんでしょうか? それとも、さめほしさんの絵に引っ張られている感覚ですか?
「さめほしさんが何を考えて絵を描いているのかはわからないですが、目指しているところが近いのかなと勝手に思っていて。なので、絵に合っている曲を作っていくと納得がいくんですね。特に〈この折り返しのセクション、なんの楽器がいいだろう?〉〈どんなコードにしよう?〉みたいな細部を考える時、凄く引っ張ってもらえます。かわいいアイディアをくれるというか」
――そういうことは他の方の絵ではあるんですか?
「絵に引っ張ってもらって曲を作ることは昔からあるんですけど、作家単位では他にいらっしゃらないですね」
――なるほど。絵から細部のアイディアが浮かぶというのは、具体的にどういうことなんでしょう?
「共感覚って人それぞれだと思うんですけど、自分にも〈ハ長調は何色〉みたいなルールがあって。そうなった時、さめほしさんの絵は色が沢山あるというか、絵の境界が面白いんですよ。自分でも上手く言語化できないですが、線の一本一本を見ていると〈ほー〉となるんです」

自分を形作ってきたもの、好きなものに嘘をつかないこと
――収録曲の話に戻ると、スピード感のある曲が前作以上に多いですね。“HAMETSUのねがい”はアップテンポな上に16ビートですし、“トゥ・ビート”は曲名の通り2ビートです。
「そういう気分だったんだと思いますね。“HAMETSUのねがい”は2曲目なのでまだ理性が働いてますけど、“トゥ・ビート”は後ろの方なので大分ストレスが溜まっている頃で。どうでもよかったんでしょうね、凄く歪んでるし(笑)。制作の後半はストレスで独り言も酷くて。“トゥ・ビート”で出し切ったので、次の曲は落ち着いています(笑)」
――落差があるのはそういうことなんですか(笑)。1曲作るのにはどのくらい時間をかけたんですか?
「1~2日くらいですね。少なくともデモは取りかかった日のうちに作りきっていました」
――早いですね……。しかも1曲作ったらすぐ次の曲という感じですよね。
「そうしないと出せなかったので(笑)。次の曲を作りながら、昨日できた曲の歌詞を考えてましたね。その結果、落差が物凄いことになりました」
――以前のインタビューでは、アルバムの最後の曲は「荘厳で集大成的な雰囲気になりがち」と話されていました。その点で、今作の最後の曲“かみさま”はこれまでと雰囲気が違いますね。
「以前までの形式は愛していたんですけど、前作の“このほしにうまれて”でやりきったんです。合唱曲みたいな雰囲気の曲でラストを飾ることを始めた時から、子供に歌ってほしいと思っていたんですが、前作でそれが叶って。それで一度捨て去ってみたというところですね」
――その結果、ああいう激しいサウンドが最後にきた。
「はい。アルバムを頭から作っていって、その時の自分が〈最後にこういうのがきたらいいな〉と思ったのがあの曲で。まず手に取った楽器がギターだったので、〈そういうことか〉という感じでした。歪みしかあり得ないなと」
――この曲が最後に相応しいと感じた理由って説明できますか?
「一つはエバーグリーンな感じがするところですね。あとここまでお話ししたように、今作の作り方は初期衝動に近いところがあって。今作を振り返った時、この曲が締めに相応しいと思ったんですよ。この曲では、お金がなさすぎてアコギがなくて、エレキギターでアコギっぽい音を作ったり小賢しいことをしてるんですが(笑)、昔まったく同じことをやったことがあって。原体験に近いというか、持っているカードだけで戦う感じが懐かしかったんです。
今作を制作して思ったことなんですが、衝動的であるということは嘘をついていないということなんじゃないかなと。今作は〈どうでもいいじゃん〉という気持ちで作ったものですけど、昔も〈とにかくどうでもいいから聴いてよ〉というがむしゃらな気持ちで曲を作って公開していたんです。
自分を形作ってきた時間や作品やカルチャー……つまり好きなものに嘘をつかないでものを作ると、今でも楽しいということが今作での発見でした。〈本当はこれが好きなんだけどな〉と隠してもいいことはなくて、とにかく(ありのままを)出して〈いけ!〉とやると楽しい。ずっと独り言で〈殺すぞ〉とか言っていたわりに(笑)、制作が終わったら虚無感が凄くて。その後も意味もなく曲を作り続けています。それは楽しさを思い出したからに他ならないですね」
――それが『CULTURE DRUG ORCHESTRA』を紐解いていった結果、見つけたことなんですね。前作ではその気づきはなかったわけですよね。
「前作はとにかく生きて作りきれたなという感覚が強くて、楽しい楽しくないとかではなかったですね。前作をリリースしてから今作の制作に入るまで、個人の制作は一切していなくて。制作の楽しさは、やっぱり今作で再発見したことですね。
正直に作ることによって、自分が好きなものをより好きになれたというか、好きなものに自信を持てるようになれました」
神秘的な〈からだ〉、インターフェイスとしての〈からだ〉
――ありがとうございます。最後に個人的に気になっていることを伺わせてください。笹川さんの歌詞には〈からだ〉という言葉がよく出てきますが、笹川さんにとって〈からだ〉とはどういうものでしょうか?
「捉え方がその時々で違うんですけど、神秘性のあるものに感じて身体性のある言葉を選ぶこともあれば、ただの出力装置だと感じている時もあって。気分と言えば気分なんですが、身体のパーツはどこをとっても、なんとなく自分にとって特別なワードな気がします」
――曲によっては身体がままならないものとして描かれている気がします。
「うーん、〈ガワ〉なのかな……。自分は結構名義を変えてきた人間ですけど、それこそ〈転生〉とも言うように、それはある種の生まれ変わりのようでもあって。でも現実の私たちは、自分の身体一つで生きていくしかない。そういうところを注視すると、作詞中の厨二病のような状態の時は、身体が神秘的なものに感じるのかもしれません。日頃はただのインターフェイスとしか思わないんですけど」
――なるほど。さめほしさんの絵も身体が崩れている少女を描いたものですよね。個人的に、そこに近いところを感じました。
「そうですね。無形に向かっているというか、溶けているというか。溶けてなくなりたいみたいな願望はあるかもしれません」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2026年4月29日(水)
■Blu-ray盤(CD+Blu-ray)
品番:ALLT-0006
価格:7,000円(税込)
■通常盤(CD)
品番:ALLT-0007
価格:3,300円(税込)
TRACKLIST
1. CULTURE DRUG ORCHESTRA
2. HAMETSUのねがい
3. 懐古主義わたし feat. 平塚紗依
4. きみになっていく
5. ゆうひ
6. 水泳教室
7. パレード
8. ちゅるちゅる
9. ゆうれいのまち
10. トゥ・ビート
11. SADMACHINEENSEMBLE
12. 脳ない
13. かみさま
Lyrics, Music & Arrangement:笹川真生
Mixed by 池田洋(hmc studio)
Mastered by 吉良武男(TEMAS)
Jacket Artwork:さめほし
Blu-ray
笹川真生「ひかりのそこ 第5層」at 東京キネマ倶楽部
1. わかちあうこと
2. コンタクティ
3. ですから、灼けました
4. Dokujoutai
5. 逆光
6. 美しい術
7. 最低
8. ないてわめいてきらめいて
9. ささやき−いのり−えいしょう−ねんじろ!
10. ダイブ・ダイブ
11. 溢れちゃった
12. 光にしないで
13. はじめての世界征服
14. 不細工
15. このほしにうまれて
LIVE INFORMATION
笹川真生 単独巡業「ひかりのそこ 第6層」

2026年5月15日(金)愛知・名古屋 ell.FITS ALL
開場/開演:18:00/19:00
2026年5月16日(土)大阪・梅田 Shangri-La
開場/開演:17:00/18:00
2026年5月23日(土)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
開場/開演:17:00/18:00
■チケット
5,800円(税込)+ドリンク代
URL:https://eplus.jp/sasagawamao/
■サポートメンバー
ギター:秋好佑紀
ベース:田中雄大
ドラムス:嶋英治
キーボード:澤田千冬
主催・企画:THINKR
制作・進行:ALLT STUDIO
PROFILE: 笹川真生

シンガーソングライター。中学生の頃、ニンテンドーDSの「大合奏!バンドブラザーズ」で遊び感覚で音楽制作を始め、その後DTMで本格的な作曲活動へ。自身の活動に加え、数多くのアーティストへの楽曲提供や編曲に携わり、作家としても幅広く活躍している。ドリームポップ、サイケデリック、シューゲイザー、オルタナティブなど多様なジャンルに触発されながら、笹川の生み出す楽曲は繊細さと凶暴さを併せ持つ独自のサウンドスケープを生み出す。そこには、初めて触れるような異次元の響きがあり、繊細で美しく、危うさを秘めた歌詞の世界が聴く者の心を捉えて離さない。その音楽は、まるで救済のように聴き手に浸透し、ファン増殖中。危うさと包容力が共存する、誰のものでもない音楽。
HP:https://www.maosasagawa.jp/
X:https://x.com/huyuyasumi_
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCd0oSpX1KiQ0pBl8g4XcwOQ
Instagram:https://www.instagram.com/yukigunidog/
(株式会社THINKR:https://thinkr.jp/)
