ケンペ「3つめの“アルペン”」~手兵ミュンヘン・フィルとのライヴ音源発掘
今年(2026年)はドイツの名指揮者ルドルフ・ケンペ(1910年生まれ)の没後50年に当たる。ドレスデン近郊に生まれ、ドレスデン音大でオーボエを専攻。振り出しはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のオーボエ奏者だが、1935年から指揮者の道を歩んだ。特に1970~76年、旧EMIが旧東ドイツVEBシャルプラッテンと共同制作したシュターツカペレ・ドレスデンとのR・シュトラウスの管弦楽曲全集は別格の価値を放つ。中でも“アルプス交響曲”(1971年録音)はケンペの十八番だった。ゲヴァントハウス時代に作曲者自身の指揮で演奏した経験があり、66年には首席指揮者を務めたロンドンのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と最初のセッション録音(RCA→ソニー)を行った。

ケンペは67年にミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者となり、ベートーヴェンやブラームスをはじめとするドイツ音楽の王道レパートリーを録音したが、シュトラウスはドレスデンのプロジェクトが進行中だったため、セッションが組まれることはなかった。今回、ミュンヘン・フィル・レーベルがバイエルン放送協会(BR)の放送音源から発掘したシュトラウス3曲は“アルプス交響曲”と“メタモルフォーゼン”が71年、組曲“町人貴族”が73年と在任期間中盤にさしかかり、オーケストラとの意思疎通も深化した時期の演奏だ。セッション録音にはビュルガーブロイケラーを使うことが多かったが、ライヴは響きの豊かさで高名なバイエルン王宮(レジデンツ)内の大広間、ヘルクレス・ザールの演奏を収めた。ケンペは現場経験に裏打ちされた深い洞察力で〈すべてを楽曲に語らせる〉タイプのマエストロだった上、早熟の才でもあったから“アルプス交響曲”3種類の解釈も基本的に変わりがない。あるのは楽団の音色や表現スタイルの違いであり、いかにもロンドンの腕利き集団ロイヤル・フィル、作品を献呈されたドレスデンの古雅な響きに対し、ミュンヘン・フィルは南ドイツの明るさと柔軟さが際立ち、パワーにも事欠かず、また別の魅力を放つ。