テイラー・デュプリーによるリマスタリングで、各6タイトルがSACDと2枚組レコードとして蘇る!
長らく入手困難だったジャズピアニスト菊地雅章による電子音楽作品が装い新たに再発された。それぞれ地・水・火・風・空・識と名づけられた全6巻からなる『六大』は、もともと〈環境ビデオ〉のために制作され、先に音源のみ6枚のCDが1988年にリリース、1991年に映像と共に3枚組LDとして世に送り出された。菊地の活動を振り返ると『ワン・ウェイ・トラベラー』(1982年)以来6年ぶりの自己名義作であり、この〈沈黙〉の期間にNYのスタジオで研究を続けたシンセサイザーミュージックの成果が形となった作品である。






ジャズミュージシャンによる電子音楽作品といえば、日本でも佐藤允彦『エレクトロニック・ジャパン』(1971年)をはじめ先例はあったものの、『六大』で特徴的なのは〈リアルタイム・シンセサイザー・パフォーマンス〉と菊地が呼んだ制作手法で、多重録音をせずにその場で多種類のシンセを操りライヴミックスしたという。音楽内容は6枚それぞれ異なる趣向が凝らされている。『識』には一貫してビートがあり、反復するフレーズの絡み合いはミニマル音楽を彷彿させる。『火』もビートがあるものの、こちらは原初的な打楽器アンサンブルといった趣。『地』はレゲエ調から地鳴りのような重低音、サウンド展示に似た破裂音の連なりまで収録。『水』は流体的に変化する音色の移ろいがアンビエント/環境音楽を思わせる。『空』は不穏なドローンが基調となった作風で、『風』は電子音響ノイズあるいはフィールド録音にも通じる要素を感じさせる。
いずれも標題音楽のようにタイトルを連想させる響きである。テイラー・デュプリーのリマスタリングはそうしたサウンド・テクスチャーをより明瞭に聴かせる。だが肝要なのは『六大』の音楽に、現代の視点からアンビエントやエレクトロニカ等と言い切ってしまうには異質な点が多々あることだろう。すなわちジャンルが名づけられる手前にある〈実験〉の音の豊穣さが、ジャンル化とは別様に発展する可能性を内包しているように思うのだ。40年近く経過したからこそ浮かび上がるその異形性に菊地雅章の才覚が光る。