
Photo by Ayano Sudo
昨年、異端のアイドルデュオ電影と少年CQは、アルバム『HAPPY END』をリリースし、9年の活動に幕を下ろした。シアトリカルな世界観でファンを魅了した同グループにおいて寡黙でミステリアスな存在感を放っていたのがルアンだった。
電少時代から、ソロ活動も並行して続けてきたルアンだが、最新作『あたしをつくらないで(上)』は、これまでのキャリアの延長線上にはない。電少後期から交流のある菊地成孔と、彼が率いるクリエイティブチーム〈新音楽制作工房〉の全面プロデュースのもと、〈ルアン・リブート・プロジェクト〉と銘打ち、しなやかに〈新章〉を宣言した。
ギミックの匂うタイトル、AIを駆使した制作の裏側、そして生まれ変わったばかりの彼女が静かに抱く野望について語ってもらった。取材は、2つの台風が相次いで関東に接近し、じっとりとした宿雨が街を包む6月末、都内某所のビュロー菊地事務所にて行われた。
内向的だった少女が電影と少年CQで歌うようになるまで
――ルアンさんは、子供の頃から音楽に興味があったんですか?
ルアン「そうですね。親の影響は大きいです。母がとりわけロックやパンク、80年代当時のインディーズブームなど幅広く聴いていて、家にCDやDVDがいっぱいありました」
――では、昔から〈自分も人前で歌いたい〉という願望がありましたか?
ルアン「歌うこと自体は好きでしたが、どちらかというと内向的な感じでしたね。音楽の授業も、成績はそれほど……。絵を描いたりする方が好きでした」
――でも、そこからお友達に誘われて、時効国家というアイドルグループに加入された訳ですよね。
ルアン「はい。それも、その友達の子が〈ルアンちゃんが入ってくれなきゃ私もやらない!〉みたいな感じで(笑)。その子は歌もうまいし、キャラクターもすごく面白くて。〈私がこのグループに入らなきゃ、この子もやめちゃうんだ〉と考えたら、一回やってみようと思ったんです。
その子の誘いがなかったら、今の私もないと思うので、感謝してます。その子は今は、声優として頑張ってますね。
アイドルを始めた時は、家族からも〈えっ、できるの?〉みたいな感じに言われて。でも続けていくうちに、どんどん自分もやりたいと思うようになって、家族もすごく応援してくれるようになりましたね」
――時効国家は2016年に解散して、それからすぐに電影と少年CQの活動が始まるんですよね。
ルアン「はい、プロデューサーの長田左右吉さんからお声がけいただいて。映画がコンセプトのグループで、という説明を受けて、素敵だなと思いました。私は映画に詳しい訳でもないんですが、その世界観にフィットするような人であることができたらいいな、と思って活動していましたね。
当時は地下アイドルシーンが一番盛り上がっていた時代だったと思います。いろんなグループがいた中で、電少は、最初から最後までバチッと世界観を貫いた、数少ないグループだったんじゃないかと思いますね」
電少の〈ハッピーエンド〉に立ち会った菊地成孔
――菊地さんは、2010年代の地下アイドルブームの中で電少というグループがある、ということはご存知でしたか?
菊地成孔「いやあ、地下アイドルというか、サブカルとしてのアイドルというか、そこまでは手が回らないですね(笑)。だから全然、知らなかったです。
湯山玲子さんっていう業界のフィクサーがいるんですけど、その人の仕切りで、いろんなアーティストが東京の名店で昭和歌謡を歌うというイベントがあって。それに呼ばれて、銀座の藤堂という店でデュエットすることになったんです。
その頃、僕ちょっと、病気で毎日熱でフラフラしてたんですよ(笑)。だから細かい記憶はあいまいなんですけど……。それで、新音楽制作工房の連中に〈誰か(デュエット相手の)いい人いますか?〉って聞いたら、〈ルアンさんだ〉っていう声が多くて。その時に初めて電影と少年CQのことを知ったんです」
――2023年のイベントですよね※。
菊地「それで、銀座にルアンさんが長田さんとやってきて。そこで第二期SPANK HAPPYから1曲と、昭和歌謡を1曲歌うことになって。こっちは慌てて電少の曲を何曲か聴いただけだったし、〈こんな若い子がスパンクスの曲なんか知らないでしょう〉と思ってたけど、ルアンさんは全部暗記されてて。〈やっぱりアイドルをやる人は一生懸命覚えて偉いなあ、ありがたいなあ〉と思って、そのライブは終えたんですよ。ルアンさんとは、それが最初ですね」
ルアン「ただ、2018年のアーバンギャルドさんの〈鬱フェス〉でも、菊地さんとはお会いしてるんですよ。その時に一度、ご挨拶させていただいたと思います」
菊地「ああ、その時も自分は熱出してて(笑)。後からODにも〈ルアンさんとはあの時すでに会ってるじゃないスか~〉って言われたけど、あまり覚えてなかったんですよね」
ルアン「もともと、スタッフや周りの人には菊地さんのことが好きな人が多かったんですよ。それで、〈鬱フェス〉で初めてFINAL SPANK HAPPYを観たんですけど、すごく好きなサウンドで。そこから岩澤(瞳)さんがボーカル時代の第二期のアルバムも聴くようになって、じわじわと(菊地さんの音楽に)ハマっていった感じですね」
菊地「で、今度は僕が2024年に〈セカンド・スパンクハッピー・レトロスペクティヴ〉というイベントを企画したんですけど、その際に出演してもらったのが、まずアーバンギャルドさん。それからもう1組誰か、と思った時に〈そういえば、去年銀座で歌ったルアンさんのチームがあったな〉と思い出して、電少さんに出演をお願いして。
そこで電少さんはスパンクスの“ANGELIC”をカバーしてたんですけど、これは素晴らしいなと。そのカバーは電少の次のアルバムに入ることになったんですけど、そこから長田さんから〈菊地さん、書き下ろしでも1曲書いてくれませんか?〉とお願いされて。
電少さんは、1曲につき1本の映画をモチーフにするっていうテーマがありますよね。それで、いろいろ考えたんですけど、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』でいくことになって。
それで曲を書き始めたら、2曲できちゃったんです。〈どっちにするか長田さんが選んでくれます?〉と言ったら〈両方っていうのはダメですか?〉と言われて(笑)」
ルアン「私もその2曲のデモを聴いた時、〈どっちもいいなあ〉と言った気がするんですよね(笑)」
菊地「〈そうすると“ANGELIC”も合わせたら僕がアルバムに3曲も提供してて、ズブズブ感あるけどいいの?〉って思ったんですけど、そのアルバムが最後の作品というか、〈ハッピーエンド〉のアルバムになったんですね。結果として、電少さんの最後の作品に関わったことになりました」
――期せずして、ルアンさんのキャリアのターニングポイントに立ち会った感じですよね。
ルアン「ただ、必然的なものも感じました。そのタイミングで菊地さんと合流するというのも」

一声かけていただければ尽力しますよ
――それが昨年リリースされた『HAPPY END』で、電影と少年CQは9年の活動を終えたんですよね。そして今回、ルアンさんは〈リブート〉と称してソロ活動に舵を切ったという訳ですが、新たに誰かとユニットを組もう、グループに入ろう、とは考えませんでしたか?
ルアン「それは考えなかったですね。電影と少年CQのハッピーエンド後、新しく別でアイドルグループ加入のお誘いはいただいたんですが。新しくアイドルグループに所属して活動したいとは思っていませんでした。音楽は続けたい気持ちはあったので、ソロアーティストとして活動を続けていく事だけは決めていましたね。ただ、セルフプロデュースは自分の場合あまり自信がなかったので、誰かにプロデュースしてもらった方がいいなと思ったんです」
――そこで、プロデューサーとして菊地さんの名前が挙がったのでしょうか。
ルアン「はい、食事の席で、電少の解散を伝えた時に〈これからどうされるんですか?〉という話になって、そこから自然と……(菊地を見て)えっ、そうですよね(笑)?」
菊地「そうですね(笑)。まあ、僕はそんなに、いわゆる〈かわいい後輩〉っていうのがいないんですよ。少なくともジャズの村とかにはいない。後輩をいっぱい連れて〈飲みに行くぞ!〉って人もいると思うんですけど、僕はもっと違う職種の、例えば料理人とかね、そういう人と飲みに行くことの方が多い。音楽家の若い人と行くと、異様に尊敬されて〈恐れ多いです……〉みたいになっちゃう(笑)。
なんだけど、電少さんとは自然とスッといけて。まあ、もはやギリ孫でもおかしくないくらい、年が離れすぎてるからっていうのもあるんですが(笑)。それでビストロかなんかで呑んで、楽しく話してたんですよ。そしたら2人が急に改まって、さっきの解散の話をしだして。亀の甲より年の功と言いますか、僕もさんざんいろんな人の解散は見てきたんで、いろいろありますよね、と。
で、ゆっきゅん君はソロで活動してるし、ルアンさんももうソロをやってたんですよね。以前、ルアンさんのソロライブにも一回ゲストで出していただいてたんで〈ソロはこういう感じなんだ〉っていうのも知ってたんです」
ルアン「下北沢での生誕イベントですね※」
菊地「ですから、さっきも言ったように、いわゆる地下アイドルのプロデュースは僕にはちょっとできない、普通のアイドルでも難しいなと思ってるんですけど、ルアンさんなら僕にもできることがあるかなっていうか。
それで、今後ソロアーティストとしてやっていくお気持ちが多少なりともあるのでしたら、一声かけていただければ尽力しますよ、という風に申し上げた記憶はありますね」
――社交辞令でもないし、自分を売り込む訳でもないけど、ルアンさんなら、と。あのちゃんだったら難しいけど……。
菊地「まあ、あのちゃんからお願いされることはないでしょうし、やんないですけど(笑)」
新時代のウィスパー歌手
――菊地さんから見て、ルアンさんの歌手としての個性というのは、どういう点にありますか?
菊地「今どき珍しい、ウィスパーボイスの人ですよね。今どきっていうのは、ある時期はいっぱいいたってことなんですけど。今はもっと、元気に歌う人が主流ですよね。だから、ウィスパーっていう点がまず一番大きいかな、と思います。
で、ウィスパーボイスって、ボサノヴァ以降ずっとヘタウマと結びついてて。(そういうウィスパーの歌手は)か細くて危うくて、ファンはそこにドキドキする訳ですね。なんだけど、ルアンさんはピッチもいいし、リズムも安定しているし、ウィスパーにつきもののヘタウマではないんですよね。それが新しいなと思いますね」
――たしかに、ウィスパーで歌う歌手は〈雰囲気〉っぽい人が多い印象です。
菊地「あと、わざわざ言うのもどうかと思うんですけど、ルアンさんは思ってたより背が高いんですよ(笑)」
ルアン「よく言われます……(笑)」
菊地「声のイメージと、あとゆっきゅん君がデカいから、小柄に思われるけど、実際に会うと〈あれ、結構デカい?〉というのがルアンさんの印象で(笑)。
で、そこからイメージが湧いてきたんです。〈小さい女の子が、ウィスパーで蠱惑的な感じで歌う〉というのは、僕の年齢だと死ぬほど見てきたパターンだけど、そうじゃない〈意外と背が高くて、下手じゃないウィスパー〉っていう新しさを感じたんですよね。
そこから、ルアンさんと連絡して、〈こういうことがやりたい〉〈じゃあこんなのはどうですか?〉とやり取りして。電少さんのライブは、ああいうシアトリカルな音楽で、お客さんは座って黙って聴いて、1曲終わっても拍手がなく、公演の最後に大拍手が来るという演劇方式で……っていう、演劇のお客さんと同じですよね。でも、僕の音楽に関していうと、踊らせる方なので。電少の時とは違うルアンさんのソロをやるなら、お客さんがドカーンと盛り上がるようなのがいいんじゃないかと思ったんです」
ルアン「そうですね、そこに関しては私も同じでした。今までの要素は残しつつ、歌でフロアをブチ上げるような方向がいいな、と。昔からそういう風になれたらいいな、とは思ってたんです。今回のアルバムだと“ROXY”とか“優雅な生活が最高の復讐である”とか、今までの私にはなかった、激しい曲がその路線ですよね」

アイドル時代から一転して打ち出す〈悪ルアン〉のイメージ
――『あたしをつくらないで』というアルバムタイトルには、どういった意図があるんでしょうか?
菊地「これもルアンさんとやり取りする中で、何個か候補を出すうちに、自然とこれになったんです。カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』みたいですけど、関係はありません。
〈つくらないで〉っていうのは、AIにおける〈生成〉というニュアンスもちょっとありますね。もう、ルックスも歌も全部AIっていう未来を期待してる人もいるし、それはディストピアだって人もいる訳じゃないですか。まあ、『あたしをつくらないで』は、それに対するひとつの態度っていうか。別に、アンチAIとかそういうはっきりした意味ではないですけどね。
あとは、自分を見つめる男性全員に対してファックって言ってるのと同じじゃないですか。〈何を勝手にお前の頭の中で私のことを作り上げてるの?〉っていう。程度の差はあれど、男性は皆そうだと思いますけど、そこらへんのマゾヒズムに着火するタイトルでもあります。
それで言うと、パブリックイメージの話もありますね。ファンは〈ルアンちゃんっていうのは、こういう人なんだ〉っていう虚像を作り上げてしまう訳で。多分〈ルアンちゃんはおとなしい子で、そんな強いことは言わなくて〉っていうのが、ルアンさんのイメージじゃないですか。さすがに、今どきそこまで牧歌的ではないかもしれないけど。ただ、プライベートなことまではわからないけど、ルアンさんは実際は、ヤンキーとまでは言わないけど……」
ルアン「(笑)」
菊地「かなり強気だし、さっきも言ったけど、思ったよりデカいし(笑)。だから、今回のリブートでは〈あんた〉とかも言うし、〈悪ルアン〉なんだ、ってことですね。
山口百恵の“ロックンロール・ウィドウ”とか、中森明菜の“少女A”で、それまでのファンは引いちゃったかっていえば、そんなことなくて、喜んだ訳ですよね。そのイメージは今回、ありますね」
――ヴィジュアルも強烈な変身ぶりですよね。チャイナドレスも髪型もすごく印象的ですね。
ルアン「ヘアメイクのChiaki Hinoさん、衣装のYUHEIさんは、電少のころからお世話になってる方々なので、そのお陰ですね。写真の須藤絢乃さんも、ずっと電少のアー写を撮ってくださった方で、須藤さんの作品に私がモデルとして参加したこともあって。やっぱり、ここぞという時にお願いしたい人たちなんです」
菊地「南アのアーティストでタイラっているじゃないですか? 丸顔で、ちょっと強気な感じで、ルアンさんに少しだけイメージが近いかなと思いますね。ヴィジュアル面では、ちょっと意識しました」
新音楽制作工房による攻めた歌詞
――今回、楽曲の作詞はすべて菊地さんが手掛けているのでしょうか。
菊地「作詞は新音楽制作工房の中の、ラッパーやシンガーソングライターによる作詞チームが書いてますね。メインライターがいて、皆でそれをちょっとずつ直すんだけど、誰がどういう風に書いてるかはレノン=マッカートニー方式で、秘密にしておこうと(笑)。
あと、ルアンさんは基本的に、汚い言葉を言わないんですよね。僕の世代だと、さっきも言いましたが山口百恵さんが“ロックンロール・ウィドウ”で、(それまでの作風から)急にキツい言葉遣いの歌を出すっていうのが、ある種の定番でした。
そういうのを踏まえて、ルアンさんはこのアルバムでは、結構キツめの言葉を言っていくんだぞっていうのを打ち出しています。“ROXY”なんかはロックっぽいイメージで、1曲目でまずカマそうって感じですね」
――ルアンさんは、そこに抵抗は感じませんでしたか?
ルアン「なかったですね。むしろ嬉しかったです。最初に歌詞が送られてきた時も〈結構攻めてる歌詞なんですけど、ルアンさん的に大丈夫ですか?〉と言っていただいて」
菊地「そういうワンクッションは毎回挟みます(笑)。〈プロデューサー〉っていうと、アイドルになりたい女の子たちを人形遊びみたいに〈こういう服を着て、こういう歌をやれ〉と上から命令するのが、一般的なイメージかもしれませんけど、僕はまったくそういうシュミないので。歌う方に喜んでもらいたいんです。なので、気持ちとしてはスタイリストに近い。ちょっとでも抵抗感があれば、直しますし。ありがたいことに、ルアンさんはすべてOKでしたけど」
ルアン「常に私がテンションの上がるものを出してくれたと思います。この曲(“ROXY”)は、今回のアルバムでもとくに好きですね」
――2曲目の“優雅な生活が最高の復讐である”は、ルアンさんがラップをやってますよね。ラップは聴かれるんですか?
ルアン「好きです。志人とかTOKONA-Xとか、最近だとラップスタアのSonsiとか、あとElle Teresaさんとか。実はかなり好きで、追ってるジャンルですね。これまではラップが入る音楽性じゃなかったけど、今回チャレンジできましたね」
――あと、プレスに〈ヴォーカロイド的〉という言葉がありますが、ルアンさんは世代的にボカロも通ってますか?
ルアン「ボカロも実はめっちゃ好きで。小学校くらいの時に幼馴染に聴かせてもらって一緒にハマって、ニコニコ動画とかをいつも観てましたね。歌い手の文化もそうですけど、ボカロは自分の中で大きいと思います。打ち込み系の曲を聴くようになったきっかけもボカロだし、かなり影響を受けてると思いますね」
――歌詞の内容的には、SNSを通じた他人からの評価という現代の若者らしいテーマですね。
菊地「さっき言った工房の作詞班は、平均年齢が50歳とかなんですよ。昔のアイドル歌謡だと、60近い先生が、17歳の子が歌う歌詞を頑張って書いてた訳じゃないですか。で、若者のスラングを真似して書くけど、やっぱり年寄りが書いてるってのがバレちゃったり。だから、僕らはそういうのは、嘘臭いからやめようと。若者の心情に共感するようなこととか、スラングを使うっていうのは。その点で言うと“優雅な~”は、かなりギリギリだけど今回収録したって感じですね」
――今回のアルバムでは〈生きづらい〉〈辛い〉といった歌は既に世に溢れてるからやらない、ともXで書かれていましたね。
菊地「〈救った〉〈救われたい〉という物語が、今のポップミュージックでは必須になってますよね。そういうのはやめようと。だから(救われたい人には)このアルバムがまったく響かない、何を言ってるのかわからないって言われる可能性は、リスクとしてありますね。それは市場に出してみないとわからないことですけど」
〈悲しい歌〉ではなく〈辛い歌〉が多数派の時代に
――“さよならの秘密”は市井由理さんのカバーで、もともと菊地さんが作詞された曲(作曲はASA-CHANG)ですよね。今、この曲を取り上げた理由はなんでしょうか?
菊地「これは、ルアンさんが楽しい歌を歌うのもいいけど、悲しい歌も歌ってほしいなと思いまして。
今、悲しい歌っていうのがすごい減っちゃって、辛い歌が多いと思うんですよ。辛いのをなんとかしたいっていう。そうじゃなくて〈悲しい〉っていうところに留まってるような歌が、昔はいっぱいあったと思うんですよね。
この曲は恋人がイマジナリーフレンドで、本当は存在しなくて、そのイマジナリーフレンドとすら別れてしまうっていうような歌詞です。
市井さんは元東京パフォーマンスドールの人で、“DA.YO.NE”がヒットする前に作った、ASA-CHANGがプロデュースした『JOYHOLIC』は、彼女の一粒種というか、幻のアルバムみたいになっちゃったので、いつか歌ってくれる人がいたらカバーしてほしいな、と思ってたんです。それで、ルアンさんがソロをやるならちょうどいいかな、と」
――続いて“ムーンストーン”は、ファンタジー風の歌詞ですね。加藤和彦プロデュースの高岡早紀のアルバムみたいな、ヨーロピアンで、デカダンで、お姫様で……というような。そういう世界観を、ルアンさんは違和感なく歌える人だなと感じました。
ルアン「(そういう世界観も)お任せ下さいって感じで(笑)。レコーディング直前にできた、滑り込みで今回の作品に収録されることになった曲ですが、お気に入りの曲です」
――ちなみに、このギターソロは生演奏ですか?
菊地「AIですね。ポン出しじゃなくて、MIDIに変換して、更に加工してますけど。フルAIっていう曲は今回、ひとつもないですね。一回AIにアイディアを出させたりもするけど、それを何回も、自分たちが気に入るまでMIDIに戻して直して打ち込んで、ってものばかりですね。生演奏は基本的にないですけど。今後は多分、こういうやり方が主流になるんじゃないですかね」
AIボーカルをもとに歌い、最新ソフトで加工
――“花は必ず剪つて瓶裏に眺むべきもの”は、新音楽制作工房のメンバーでもある、加藤咲希さんことLilla Flickaのカバーですが、詞は同じだけどメロディーも譜割りも違う〈altcv〉(オルタナティブカバー)という形態ですね。
ルアン「この曲は、歌うのが難しかったですね。AIのボーカルをもとに歌ったんですが、クセがあって、(AIのまま)その通りに歌おうとすると、どうしても合わないんですよ。〈ルアンさんの歌いやすい方で大丈夫ですよ〉と言っていただいて、なんとかレコーディングしたんですけど」
――AIが作るボーカルのメロディラインって、ここで切るの?みたいな不思議なポイントがありますよね。AIの歌をなぞることに抵抗はありませんでしたか?
ルアン「それは特になくて、むしろ〈この(AIの)通りにやれば絶対大丈夫だ〉と思ってましたね」
菊地「アルバムを制作中に、Voviousというボーカル修正のためのAIサービスが出たんですよ。〈じゃあちょっと、ルアンさんのリブートで試してみよう〉ということになって。別に、僕はVoviousのモニターとかじゃないですよ(笑)。
音程を修正するものは今までもあったんですけど、Voviousは音価、音の長さ(デュレーション)も直せるんです。ルアンさんのウィスパーボイスだと、ブレスが小さいんで、全体的に音がちょっと短いんですね。それをこれでちょっと伸ばしてみたら、すごい歌唱力のある人みたいになって(笑)」
――ルアンさんは、Voviousで加工された自分の声を聴いてどうでしたか?
ルアン「〈えっ、うまっ〉みたいな(笑)。上手くなってるし、ありがたいというか、自分は抵抗はなかったですね」
クールなウィスパー歌唱でブチ上がる観客
――改めて今回、リブートというのが、ルアンさんにとって新しいスタートである、というのが重要なポイントかと思いましたが。
菊地「電少からのルアンさんのファンの方がいる訳ですよね。こう、人形愛というか、そういう風なイメージの……。そういう、もともとのルアンさんのファンを一掃するようなやり方は、ちょっと残虐じゃないですか。だから、そういう人たちを喜ばせつつ、電少を知らない人でも、1人のアーティストとしてルアンさんが魅力的に思ってくださるような、そういう風になったら、このリブートプロジェクトとしては一番成功ですよね。
さっきも言った、ウィスパーだけどブチ上がるような、そういう状況になったら、文化的にちょっと新しいじゃないですか。ルアンさんならそれができる可能性があるし、それができるのはルアンさんしかいないですよね。ルアンさんは〈イェー!〉とか言わないで、クールなままだけど、お客さんはブチ上がってるっていう、絵はもう見えてるんですけどね」
――でも、相反するイメージというか、なかなか大変なミッションですよね。
ルアン「頑張ります(笑)。でも、頑張るっていうのともなんか違うというか。努力の痕跡というか、頑張ったようには見せたくないというか……。理想としては本当に、菊地さんが仰ったように、お客さんが自らブチ上がってるって状況になったら、すごくいいなと思ってますね」
菊地「サクラを使うこともできますから。〈あのブチ上がってる奴ら、よく見たら新音楽制作工房の連中じゃん〉と(笑)」
――マイケル・ジャクソンとかビヨンセのコンサートで、ステージに出てきて、黙って仁王立ちしてるだけで、ファンが熱狂して失神してる映像ってありますよね。ああいう光景でしょうか。
ルアン「ああ、それですね。あれになりたい。いやほんと、あれになりたいってずっと思ってますね」
菊地「マイケルのブカレストのコンサートね(笑)」
――7月11日のリリースパーティも、そうなるといいですね。
ルアン「マイケルになって……(笑)。リリースパーティでは、アルバムの曲はもちろんですが、過去のソロ曲もやりますし、カバーも歌います。それと、次回作である『あたしをつくらないで(下)』からの曲も先出しでやりますね」
菊地「『下』はさらにハードコアというか、ドープですね。踊れるけど変わったリズム、R&Bっぽいものとか。『上』はまだ、電少時代、あるいは以前までのルアンさんのソロとの橋渡しという面がありましたが『下』はもう、まったくそのホスピタリティはないです(笑)」
ルアン「あと今回のリリースパーティは、私のちょっと遅めのバースデイパーティというのも兼ねてて。電少の時から生誕はやっていたんですが、今回はリブートした、ソロのルアンの生誕ということで、本当に〈生まれ変わるぞ〉みたいな気持ちなので、楽しんでいただければと思います。菊地さんのDJも聴けるし、是非遊びに来てほしいですね」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2026年6月6日(土)
TRACKLIST
1. ROXY
2. 優雅な生活が最高の復讐である
3. さよならの秘密(Cover)
4. ムーンストーン
5. ミッドサマー・シンドローム
6. 花は必ず剪つて瓶裏に眺むべきもの altcv
LIVE INFORMATION
「あたしをつくらないで(上)」リリース&バースデー・パーティー
2026年7月11日(土)東京・青山 月見ル君想フ
開場/開演:18:30/19:00
■出演
LIVE:ルアン
DJ:菊地成孔(〈新音楽制作工房〉代表)
VJ:ALi(anttkc)
■チケット料金
観覧チケット 前売り:5,500円(税込) ※別途1ドリンク代 700円
チケット販売URL:https://www.moonromantic.com/event-details/260711n
公演に関する問い合わせ:月見ル君想フ(03-5474-8115)
