――そうなりますよね……。ところで、具体的にジャック・ブルースのどこにグッとくるんですか?
「すごくマニアックな話になるんですけど、ギブソンのSGベースっていうベースがあって、彼はずっとそれがメイン器なんです。そのベースはもう何十年も残ってるし、ヴィンテージとして30万円ぐらいの価値があるものなんですけど、とにかく使えないんですよね、音が」
――あまり良くないってこと?
「音がとにかくぶっとくて、アンサンブルのなかで抜けない。個体としてはすごくいい音なんですけど、バンドだと全然使えないと有名なんです。そんなベースなのにジャックは弾きこなしているというカッコ良さがひとつと、あとはフレーズですよね。ジャズ・ミュージシャンだからクラプトンが気持ち良く弾いているギターの裏で、ソロみたいなフレーズを弾いちゃうんですよ。俺は完全にその影響を受けて、ソロの間は暇っていう。他の人がソロを弾いている時は、普通その人を立てた弾き方をしなきゃいけないのに、ジャックは人がソロを弾いている間は暇、みたいな感覚でそういったフレーズを弾いている。とにかくずっとメロディアスなんですよね。ブルース進行のロックなんだけど、やってることがかけ離れた概念というか。クリームの解散後にバディ・ガイと一緒に演奏している映像があって、それもやっぱり凄い」
「とにかくフレーズ、なんですよね。〈ジャック・ブルース節〉というのがあって。他の人では絶対聴けない音のはめ方をするし。使っている楽器の経歴もおしゃれで、ギブソンのSGを使う前はフェンダーが出していた〈BASS VI〉っていう6弦張ってあるバリトン・ベースだったり、ちょろっと売れたけど結局全然使えないから売れなくなったような楽器をミュージック・ビデオで使っていたりと、美的センスがとてもある人なんです。あと、これはクリームとしての話ですが、彼らがいなかったら例えばレッド・ツェッペリンの評価はどれくらい遅れていただろう、といったことはすごく考えますね」
――結構長くこの連載をやっていますが……ハマくんがこんなにもクリームが大好きだったとは(笑)。
「いやもうクリーム狂いですよ。かつてレコーディングで稼いだまとまったお金でオリジナル盤を買いましたもん。初めてUKオリジナルを買ってみようと思って」
ちなみに……これはロバート・ジョンソンのカヴァーです
「これは有名な“Crossroad”ですが、ベースだけに耳を当てて聴くとホントにね……。ベース・キッズとしてはびっくりなんですけど、ジャック・ブルースはリフを弾くんですよ、この曲もそう。ビートルズのポール・マッカートニーは説明しようのない不思議なベース・フレーズを弾くじゃないですか。あれはあれで楽しいんですけど、ジャックはリフを弾くっていうところが僕にとって大きいですね」
――じゃあハマくんのいまのスタイルは……。
「そう、ロック・バンドにおけるベースのアプローチでいうと、ジャック・ブルースとザ・フーのジョン・エントウィッスルがお手本です。ペンタトニック・スケールという音楽理論があって、僕も詳しく理解できていない部分もあるんですけど、とにかくいちばんシンプルな音階で、ジャックはそれをもっともカッコ良く弾く人。そういう意味ではすごくコピーしやすい。コピーしやすくて格好良いフレーズを弾くことが僕の永遠のテーマなんですよ」
――へぇ~。この連載ではブラック・ミュージックの話をずっとしていたから、そこにおけるベーシストのカッコ良さのポイントはよくわかるんだけど、ロックのベーシストは何をもってしてカッコイイとするのか、実はまだいまいちよくわかってなくて……。
「それは僕もそうかもしれません。判断基準がフレーズしかないから。だから〈我が強い人〉が抜けて見えますよね。自分がやりたいスタイルでやるっていうことを貫いているプレイヤーは、どれだけ時代を経ても抜けて見える気がしますね。この間オジー・オズボーンの“Crazy Train”のスタジオ・ライヴ映像を見て、このへんの音楽は全然詳しくないのですが、ノースリーヴのピチTでダサいベーシスト(ルディ・サーゾ!)が後半に入っていきなりベースを殴りはじめるんです。それで音が鳴ってるんですよ。これはすっごいおもしろいから!」
3分30秒あたりからルディがベースを殴りはじめます
――おー! ホントだ(笑)!
「振動で揺らしてるんですね。またよく見ると親指で弾いていたりして、とにかくテクニカルなことをするんです。そんなのを初めて見て、残っていくのはこういうことだよなと。まだまだ知らないミュージシャンがたくさんいるなって思いました。でもロックは解釈が難しいですよね。やっぱりフレージングなのかな」