©2018 Oops Publishing, Limited Under exclusive license to Craft Recordings

ジョージの音楽的樹姿が一望できる、伝説の追悼映像を劇場で初上映!

 数多のトリビュート映像作品が乱造される中、これ程までに故人の人柄(その音楽的樹姿)そのままが反映されて蘇生され、未来に語り継がれる圧巻絵巻として作品化できた例も稀だろう。出がらしの寄せ集め証言集や、切れ切れの演奏シーンで繋ぐ凡作とは〈格〉が桁違いの珠玉作である。

 ジョージ・ハリスン没後1周年に当たる一夜(2002年11月29日)、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールに盟友らが集って催された「コンサート・フォー・ジョージ」のステージを約102分に編んだ伝説的な記録映画。彼の生誕80周年である今年、日本全国の劇場スクリーンにて随時初上映される(7月28日から)。必見!

 ジェフ・リンはハリスン作品を学び直した過程を「魔法の経験」と評し、なぜなら「彼の曲をこれほど深く勉強したことはなかったから」「小さな宝石でいっぱいだ、変わったコードとかね」と素直に明かしている。ソロ活動後の重要な相方をして、そう言わしめるジョージ(享年58)の作品世界。ステージが進むほど、観る側の〈知ってるつもり度〉がパタパタと覆されてゆく展開が爽快だ。錚々たる当日の顔ぶれと演奏曲をエンドクレジットで反芻していると、検索欲求が枝葉状にじわじわと拡がっていく。ジョージを巡るロック・ファミリー・ツリーがこうして一堂に俯瞰でき、数々の名作品が途切れなく歌い奏でられるのを追体験すると、生前はバラバラの樹林とも想えた様々な活動が、もはや森林規模に達していた事がよく解かる。

©2018 Oops Publishing, Limited Under exclusive license to Craft Recordings
©2018 Oops Publishing, Limited Under exclusive license to Craft Recordings
©2018 Oops Publishing, Limited Under exclusive license to Craft Recordings

 オンライン試写後は暫し、本稿を漕ぎ出すコトバ探しに難儀した。が、『オール・シングス・マスト・パス』のジャケをぼんやり眺め、楽曲の流れに竿を垂らしてみたら突然釣れた(いや、思い出した)! 自伝の冒頭にジョージ自身が刻んだ〈この本を、あらゆる場所の庭師に捧げる。〉という献辞を……そう、彼は何千種もの苗床や花々を植え、掘り返した土地から地下洞窟の複合体を発掘した経験も持つ庭師なのだった。件の書籍は、やはり没後1年のタイミングで発行された日本語版「ジョージ・ハリスン自伝 I・ME・MINE」(山川真理:訳、河出書房新社刊)。同書によれば“ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス”を書いた頃、彼はこんな発見もしている。当時携帯していた中国の「易経」の内容について――〈あらゆる物事は互いに結びついている〉という、東洋の思想にもとづいた本だった。〈物事は単なる偶然にすぎない〉という、西洋の考えとは正反対だ――と、ジョージは綴っている。ここに彼の立ち位置が読み取れる。音楽という地下水脈を通じて、双方の親和力を培い、慈愛の花を咲かせられないか……爪弾く〈庭師〉の遺志は、本人不在の友情企画〈コンサート・フォー・ジョージ〉の優れた構成力からも十分汲取れる。リンのコトバを再び引けば「魔法の経験」、皆が「僕(ら)の報い」としてハリスン作品を歌い奏で、倒れてもなお慕われる樹木のような、彼の偉業を讃える。そんな奇跡の一夜を折々の表情が見つめている……。

 本作に歌詞の字幕は付かないが、あの名曲の出だしを想いだしてほしい。こうして皆を視ていると眠っている愛の姿が解る/その間も僕のギターは咽び泣いているが――〈うお座〉の〈あまのじゃく〉で〈パラドックス〉な〈半笑い〉の持ち主、とは音楽監督にして盟友のエリック・クラプトンが語るジョージ像だ。この企画自体を「ありがたいけど望んでないよ」と故人は言うかもしれない……であるならば盟友の返答はこうだという。「〈自分のためにやる〉だね。それが真実だ、僕が彼のためにやりたい事だ。こういう形で悲しみを表現したかった」と。そう、鑑賞前の予想を遥かに超えて、のびしろ無限大な本作は誰にもきっと「自分のため」の忘れがたい一作となるだろう。FAB4を知らない世代にこそ、薦めたい。

©2018 Oops Publishing, Limited Under exclusive license to Craft Recordings
©2018 Oops Publishing, Limited Under exclusive license to Craft Recordings

 ラヴィ・シャンカールの娘にしてシタール奏者のアヌーシュカが、西洋勢とインド勢の協演合わせに際し、クラプトンらが9.5拍子と葛藤した逸話を明かす場面がある。〈魔法〉の裏側が伝播する。はにかむ表情やあらゆる仕草が亡父と瓜二つの愛息ダーニが〈魔法〉を深める。全編を貫く撮影陣の狙いと編集陣の手腕がじつに秀逸だ。

 巨匠ラヴィの括りのコトバは是非とも、劇場で、あなた自身の瞳と耳で受け止めてほしい。日本初上映となる今夏を機に、ジョージ・ハリスンの作品評価が刷新されるに違いない。それはショック・ドクトリンとは真逆の、樹形音楽なのだから。

 


MOVIE INFORMATION
「コンサート・フォー・ジョージ」

監督:デヴィッド・リーランド
音楽監督:エリック・クラプトン
コンサート・オーディオ・プロデュース:ジェフ・リン
撮影監督:クリス・メンゲス
制作年:2003年/2022年|102分
制作国:アメリカ/イギリス
©2018 Oops Publishing, Limited Under exclusive license to Craft Recordings
2023年7月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか公開
https://www.culture-ville.jp/concertforgeorge