今回の課題盤

「この間(10月25日)、日比谷野音でわれわれのワンマン・ライヴがありまして」

――拝見いたしました。

「ありがたい話でとてもいいライヴになったのですが、なんとその日に元クリームのベース/ヴォーカル、ジャック・ブルースが亡くなったんです。今回はいわゆるブラック・ミュージックではないですが、まさに僕のルーツと言えるミュージシャンなので、番外編として紹介したいと思います」

――かしこまりました。トリビュートとしてね。

「今日持ってきたのはクリームの最高傑作と言われていて、世界初のプラチナ・アルバムを獲得したという2枚組『Wheels Of Fire』(68年)。有名なのはこれと、前作にあたる『Disraeli Gears』になるかと思うのですが、どうして『Wheels Of Fire』のほうを選んだかっていうと、1曲目の“White Room”という曲で僕はこのバンドにのめり込んだからなんですよ」

『Wheels Of Fire』収録曲“White Room”

――そもそもは何がきっかけだったんですか?

「2004年にエリック・クラプトン(元クリーム)が武道館公演をやっていて、それをコウキとショウが観に行ったんです。その当時、彼らはクラプトンの話ばっかりしていて、僕はその話についていけなかった。だから部活に入って楽器を始めたようなもんなんですよ」

――へぇ~。

「その後、クラプトンをいろいろ聴いていくなかで、ソロになる前に彼はバンドをやっていたらしいという知識を得たんです。実際、彼はそれまでにたくさんバンドをやってきているのですが、そのなかでも僕はクリームに最初に出会って。ちょうどその頃、村上龍さんの『69 sixty nine』っていう佐世保が舞台の小説が妻夫木聡さん主演で映画化されて、学校の近くにあった映画館へみんなで観に行ったんです。すごくカッコイイ感じでオープニングが始まって、そこで流れたのがクリームの“White Room”だったんですよ。これを映画館の音響で聴いちゃったもんだから、〈うわー!〉ってなって。もうその足で映画のサントラ盤を買いました(笑)。他のみんなは咀嚼する程度に聴いていましたけど、僕はすごくのめり込んじゃって」

2004年の映画「69 sixty nine」予告編

――そういう入り方は強烈ですよね!

「そう、いちばんいい出会い方だったなと思って。洋楽の入りは本当にそれがきっかけで。ジャック・ブルースが僕にとって最初の格好良いベーシストなんです。僕がソウル・ミュージックに影響を受けているなっていうのはわかると思うんですけど、OKAMOTO’Sにおいてはどっちかというとそう(ジャック)だよね、というくらいの影響を受けてます」

――ハマくんのルーツ中のルーツということなんですね。

「まさにそうです。クリームの活動自体は短いんですが(66年~68年)、バンド結成にまつわるエピソードがおもしろくて。ドラマーのジンジャー・ベイカーとジャック・ブルースはもともと違うバンド(グレアム・ボンド・オーガニゼーションなど)で一緒に活動していたんですけど、この2人がめちゃめちゃ仲が悪かった、ずっと悪かった」

――ハハハ(笑)。

「でも、エリック・クラプトンがヤードバーズの後に数か月ほど在籍していたジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ(ジャック・ブルースも在籍していた)を抜けた後、ジンジャーがバンドをやらないかとクラプトンを誘ったところ、〈ジャック・ブルースと一緒ならいいよ〉という条件付きでOKしたんだそうです。だから仕方なくジンジャーはジャックと呑んで(笑)、3人でクリームを結成することになったと」

ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズの66年作『Blues Breakers With Eric Clapton』収録曲“Hideaway”

――渋々だったんですね(笑)。

「でもそのおかげで、世界最強のパワー・トリオと呼ばれるバンドが出来たわけです。ブルースとジンジャーはもともとジャズ畑のミュージシャンだったんですよね。だからか、クリームの演奏は実は結構おかしくて」

――ほう、どうおかしいんでしょうか?

「ドキュメンタリーなどを観ると、わりとジンジャー・ベイカーがアレンジに口出したりしていたみたいで、例えば“White Room”は、文字だと伝わりずらいですけど、ツンツンタン/ツンツンツンタン/ツンツンツンタン/ッダッダッっていうドラムのリフで、その前のリズムからすると、その流れはおかしいんですよ、普通に考えて。でもやってしまう。3人が3人ともメイン・キャラクターを張るバンドだから、きっと制作の現場でも誰も引かなかったんでしょうね。それで2年間を突っ走ったと」

――だからこそ短命だったんですかね。

「クリームの解散ライヴの映像を観ると、3人がまったくお互いを見ていない。しかも3~4分の曲なのに平気で20分間ほどやったりしているんですよ、ソロ回しの応酬というか。で、それぞれが飽きて終わる、みたいな感じなんです。そういったインプロヴィゼーション、ジャム・セッションのカッコ良さをすごく教わりました」

――お互いの顔も見ないでそんなことってできるものなんですね。

「そうなんですよ。“Toad”という曲や、“Crossroads”なんてすごい有名な楽曲も平気で9分、10分やっていたりして。だからライヴ盤の曲目を見ると4曲くらいだったりするんです」

66年作『Fresh Cream』収録曲“Toad”のライヴ映像
ジンジャー・ベイカー!