【ハマ・オカモトの自由時間 ~2nd Season~】第6回 CREAM 『Wheels Of Fire』
ハマ・オカモト先生が聴き倒しているソウル~ファンクを自由に紹介する連載、第2章
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- 2014.12.10

今回の課題盤

「この間(10月25日)、日比谷野音でわれわれのワンマン・ライヴがありまして」
――拝見いたしました。
「ありがたい話でとてもいいライヴになったのですが、なんとその日に元クリームのベース/ヴォーカル、ジャック・ブルースが亡くなったんです。今回はいわゆるブラック・ミュージックではないですが、まさに僕のルーツと言えるミュージシャンなので、番外編として紹介したいと思います」
――かしこまりました。トリビュートとしてね。
「今日持ってきたのはクリームの最高傑作と言われていて、世界初のプラチナ・アルバムを獲得したという2枚組『Wheels Of Fire』(68年)。有名なのはこれと、前作にあたる『Disraeli Gears』になるかと思うのですが、どうして『Wheels Of Fire』のほうを選んだかっていうと、1曲目の“White Room”という曲で僕はこのバンドにのめり込んだからなんですよ」
――そもそもは何がきっかけだったんですか?
「2004年にエリック・クラプトン(元クリーム)が武道館公演をやっていて、それをコウキとショウが観に行ったんです。その当時、彼らはクラプトンの話ばっかりしていて、僕はその話についていけなかった。だから部活に入って楽器を始めたようなもんなんですよ」
――へぇ~。
「その後、クラプトンをいろいろ聴いていくなかで、ソロになる前に彼はバンドをやっていたらしいという知識を得たんです。実際、彼はそれまでにたくさんバンドをやってきているのですが、そのなかでも僕はクリームに最初に出会って。ちょうどその頃、村上龍さんの『69 sixty nine』っていう佐世保が舞台の小説が妻夫木聡さん主演で映画化されて、学校の近くにあった映画館へみんなで観に行ったんです。すごくカッコイイ感じでオープニングが始まって、そこで流れたのがクリームの“White Room”だったんですよ。これを映画館の音響で聴いちゃったもんだから、〈うわー!〉ってなって。もうその足で映画のサントラ盤を買いました(笑)。他のみんなは咀嚼する程度に聴いていましたけど、僕はすごくのめり込んじゃって」
――そういう入り方は強烈ですよね!
「そう、いちばんいい出会い方だったなと思って。洋楽の入りは本当にそれがきっかけで。ジャック・ブルースが僕にとって最初の格好良いベーシストなんです。僕がソウル・ミュージックに影響を受けているなっていうのはわかると思うんですけど、OKAMOTO'Sにおいてはどっちかというとそう(ジャック)だよね、というくらいの影響を受けてます」
――ハマくんのルーツ中のルーツということなんですね。
「まさにそうです。クリームの活動自体は短いんですが(66年~68年)、バンド結成にまつわるエピソードがおもしろくて。ドラマーのジンジャー・ベイカーとジャック・ブルースはもともと違うバンド(グレアム・ボンド・オーガニゼーションなど)で一緒に活動していたんですけど、この2人がめちゃめちゃ仲が悪かった、ずっと悪かった」
――ハハハ(笑)。
「でも、エリック・クラプトンがヤードバーズの後に数か月ほど在籍していたジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ(ジャック・ブルースも在籍していた)を抜けた後、ジンジャーがバンドをやらないかとクラプトンを誘ったところ、〈ジャック・ブルースと一緒ならいいよ〉という条件付きでOKしたんだそうです。だから仕方なくジンジャーはジャックと呑んで(笑)、3人でクリームを結成することになったと」
収録曲“Hideaway”
――渋々だったんですね(笑)。
「でもそのおかげで、世界最強のパワー・トリオと呼ばれるバンドが出来たわけです。ブルースとジンジャーはもともとジャズ畑のミュージシャンだったんですよね。だからか、クリームの演奏は実は結構おかしくて」
――ほう、どうおかしいんでしょうか?
「ドキュメンタリーなどを観ると、わりとジンジャー・ベイカーがアレンジに口出したりしていたみたいで、例えば“White Room”は、文字だと伝わりずらいですけど、ツンツンタン/ツンツンツンタン/ツンツンツンタン/ッダッダッっていうドラムのリフで、その前のリズムからすると、その流れはおかしいんですよ、普通に考えて。でもやってしまう。3人が3人ともメイン・キャラクターを張るバンドだから、きっと制作の現場でも誰も引かなかったんでしょうね。それで2年間を突っ走ったと」
――だからこそ短命だったんですかね。
「クリームの解散ライヴの映像を観ると、3人がまったくお互いを見ていない。しかも3~4分の曲なのに平気で20分間ほどやったりしているんですよ、ソロ回しの応酬というか。で、それぞれが飽きて終わる、みたいな感じなんです。そういったインプロヴィゼーション、ジャム・セッションのカッコ良さをすごく教わりました」
――お互いの顔も見ないでそんなことってできるものなんですね。
「そうなんですよ。“Toad”という曲や、“Crossroads”なんてすごい有名な楽曲も平気で9分、10分やっていたりして。だからライヴ盤の曲目を見ると4曲くらいだったりするんです」
ジンジャー・ベイカー!
――そうなりますよね……。ところで、具体的にジャック・ブルースのどこにグッとくるんですか?
「すごくマニアックな話になるんですけど、ギブソンのSGベースっていうベースがあって、彼はずっとそれがメイン器なんです。そのベースはもう何十年も残ってるし、ヴィンテージとして30万円ぐらいの価値があるものなんですけど、とにかく使えないんですよね、音が」
――あまり良くないってこと?
「音がとにかくぶっとくて、アンサンブルのなかで抜けない。個体としてはすごくいい音なんですけど、バンドだと全然使えないと有名なんです。そんなベースなのにジャックは弾きこなしているというカッコ良さがひとつと、あとはフレーズですよね。ジャズ・ミュージシャンだからクラプトンが気持ち良く弾いているギターの裏で、ソロみたいなフレーズを弾いちゃうんですよ。俺は完全にその影響を受けて、ソロの間は暇っていう。他の人がソロを弾いている時は、普通その人を立てた弾き方をしなきゃいけないのに、ジャックは人がソロを弾いている間は暇、みたいな感覚でそういったフレーズを弾いている。とにかくずっとメロディアスなんですよね。ブルース進行のロックなんだけど、やってることがかけ離れた概念というか。クリームの解散後にバディ・ガイと一緒に演奏している映像があって、それもやっぱり凄い」
「とにかくフレーズ、なんですよね。〈ジャック・ブルース節〉というのがあって。他の人では絶対聴けない音のはめ方をするし。使っている楽器の経歴もおしゃれで、ギブソンのSGを使う前はフェンダーが出していた〈BASS VI〉っていう6弦張ってあるバリトン・ベースだったり、ちょろっと売れたけど結局全然使えないから売れなくなったような楽器をミュージック・ビデオで使っていたりと、美的センスがとてもある人なんです。あと、これはクリームとしての話ですが、彼らがいなかったら例えばレッド・ツェッペリンの評価はどれくらい遅れていただろう、といったことはすごく考えますね」
――結構長くこの連載をやっていますが……ハマくんがこんなにもクリームが大好きだったとは(笑)。
「いやもうクリーム狂いですよ。かつてレコーディングで稼いだまとまったお金でオリジナル盤を買いましたもん。初めてUKオリジナルを買ってみようと思って」
ちなみに……これはロバート・ジョンソンのカヴァーです
「これは有名な“Crossroad”ですが、ベースだけに耳を当てて聴くとホントにね……。ベース・キッズとしてはびっくりなんですけど、ジャック・ブルースはリフを弾くんですよ、この曲もそう。ビートルズのポール・マッカートニーは説明しようのない不思議なベース・フレーズを弾くじゃないですか。あれはあれで楽しいんですけど、ジャックはリフを弾くっていうところが僕にとって大きいですね」
――じゃあハマくんのいまのスタイルは……。
「そう、ロック・バンドにおけるベースのアプローチでいうと、ジャック・ブルースとザ・フーのジョン・エントウィッスルがお手本です。ペンタトニック・スケールという音楽理論があって、僕も詳しく理解できていない部分もあるんですけど、とにかくいちばんシンプルな音階で、ジャックはそれをもっともカッコ良く弾く人。そういう意味ではすごくコピーしやすい。コピーしやすくて格好良いフレーズを弾くことが僕の永遠のテーマなんですよ」
――へぇ~。この連載ではブラック・ミュージックの話をずっとしていたから、そこにおけるベーシストのカッコ良さのポイントはよくわかるんだけど、ロックのベーシストは何をもってしてカッコイイとするのか、実はまだいまいちよくわかってなくて……。
「それは僕もそうかもしれません。判断基準がフレーズしかないから。だから〈我が強い人〉が抜けて見えますよね。自分がやりたいスタイルでやるっていうことを貫いているプレイヤーは、どれだけ時代を経ても抜けて見える気がしますね。この間オジー・オズボーンの“Crazy Train”のスタジオ・ライヴ映像を見て、このへんの音楽は全然詳しくないのですが、ノースリーヴのピチTでダサいベーシスト(ルディ・サーゾ!)が後半に入っていきなりベースを殴りはじめるんです。それで音が鳴ってるんですよ。これはすっごいおもしろいから!」
3分30秒あたりからルディがベースを殴りはじめます
――おー! ホントだ(笑)!
「振動で揺らしてるんですね。またよく見ると親指で弾いていたりして、とにかくテクニカルなことをするんです。そんなのを初めて見て、残っていくのはこういうことだよなと。まだまだ知らないミュージシャンがたくさんいるなって思いました。でもロックは解釈が難しいですよね。やっぱりフレージングなのかな」
――そうですよね、何にグッとくるかなと考えると。
「ちょっと余談ですが、2年前にジャック・ブルースがBillboard Tokyoでやった来日公演を観に行ったんですよ。それがCharさんと屋敷豪太さんとの編成でクリームの楽曲しか演奏しないライヴで、あのCharさんがギブソンのギターを使って完全にクラプトンを再現していたり。で、このライヴを企画した方がたまたま豪太さんのレコーディングでお世話になった方で、終演後に本人に会えることになったんです。他の人たちはLPなどを持ってきていたんですけど、僕はなんか違う、サインをもらう感じではないと思って、何も持って行かなくて。で、僕はいちばん最後でいいですと言って、他の人たちが挨拶している様子を部屋の隅で見ていたら、ジャックはめっちゃ態度が悪くて超イヤな奴なんですよ(笑)」
――目に浮かびますね~(笑)。
「彼のことはそういうところも含めて大好きなんだけど、だからこの人はスターダムに上がれなかったんだと思ったんですよ。才能はすごくあるのに、それに見合う成功を得られなかったから」
――なるほど……。
「で、自分の番が来て、通訳の人が〈彼は日本の若いベーシストで、いま注目されているんですよ……〉みたいなことを言ってくれたんだけど、ジャックは僕の顔を見もしないで〈I know, I know〉って……本当に感じが悪くて最高だなと(笑)。でもこれだけは言おうと考えていた、人前で初めて弾いた曲が“Politician”だってことをジャックに伝えたら、急に(サムズアップして)〈Great〉って言われたんです! それから一緒に写真も撮ってもらいました」
――へぇ~! やったじゃないですか!
「まあそんな思い出があります。ハンド・マッサージ担当の人がツアーに帯同していて、本番1時間前からずっと手を揉んでもらわないと攣っちゃうらしいんですよ。その時のライヴがすごく良くて、何より感動したのは、ジャック・ブルースの弾き方がクリーム時代の写真やライヴ映像のまんまだった! 彼は独特の構え方と弾き方があって、それが歳を取ってもまったく変わってなかったんです。あまり声は出ていなかったけど、歌もまだイケるじゃんって思った。今年ソロ・アルバム(『Silver Rails』)をリリースして、また来日するんじゃないかなと期待していた矢先の訃報だったので、本当に残念です。クリームばっかり1年半くらい聴き続けていた時期もありましたし、僕が憧れた海外のミュージシャンで唯一会ったことがある人だったので」
PROFILE:ハマ・オカモト
OKAMOTO'Sのヒゲメガネなベーシスト。最新作『Let It V』も大好評のなか、奥田民生やRIP SLYMEらを招いたコラボ・アルバム『VXV』(ARIOLA JAPAN)が絶賛リリース中! 年末は12月27日にインテックス大阪にて〈FM802 25th Anniversary 802GO! ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY〉、12月29日には幕張メッセにて〈COUNTDOWN JAPAN〉へ出演。そして年が明けて1月17日(土)は2015年の初ワンマン・ライヴとなる〈平成岡本座完結編「最後の一月大演奏」〉を京都・磔磔で開催します。さらに、2月4日(水)にはニュー・シングル“HEADHUNT”がリリース! そのほか最新情報は、OKAMOTO'SのオフィシャルサイトへGo!