話題を集めるTVアニメ「さよならララ」のサントラ制作秘話を明かす!!
「メイドインアビス」「盾の勇者の成り上がり」「わたしの幸せな結婚」などを手掛けるキネマシトラスの15周年記念作品となるTVアニメ「さよならララ」。人間の王子との恋に破れ、泡となって消えた人魚姫が200年を経て現代の琵琶湖に蘇り、ふたたび本当の愛を探す――という童話をもとにしたオリジナル・ストーリーに加え、セル画を使用したオープニング映像など、熱量の高いプロダクションで話題の本作だが、それは音楽についても同様だ。担当したのは、幅広い分野の劇伴で知られるyuma yamaguchi。エミリー・コールストン、ラヌ、君島大空、北村蕗、圭菜代、榊原香保里(Lamp)、門脇大輔ストリングスら、これまでも交流のある面々に加え、大所帯のクレジットのなかにはMPBとジャズ〜クラシックを繋ぐ知性派シンガー、タチアナ・パーハの名も。総勢50名以上が、どこか〈水〉を思わせる美しい揺らぎと躍動感、スケール感に満ちたオーケストラル・ポップを作り上げている。

僕なりの王道
――「さよならララ」というアニメ作品にはどのような感想を持たれましたか?
「脚本の段階から、オリジナル作品に特有のエネルギーが伝わってきました。僕のサントラのお仕事にはオルタナティヴなものを期待されることが多いんですけど、今回最初に思ったのは〈僕なりの王道〉と向き合わなきゃいけないな、っていうこと。シンフォニックで大きい編成だけど、現代的な響きのオーケストラ――ポスト・クラシカル/ミニマルの要素はけっこう強く出てるんじゃないかと思います。でもストイックになりすぎず、〈いいアニメ観たな〉って視聴者さんの心に素直に響く音楽を念頭に置いた感じです」
――作業は小出卓史監督と話しながら進められたそうですね。
「はい。ただ音楽的なオーダーはほぼなくて、〈ここはこういう意味のシーンなので、もっと明るい曲がいい〉とか、場面ごとの意図を細かく説明してもらった感じです。例えば、第1話でララが復活して琵琶湖から出てくるシーンがあるんですけれど、そこで流れるメイン・テーマとして最初に僕が出したものは結構シリアスだったんですね。メロディーはいまのものとまったく一緒だったんですけど、監督から〈メロディーや楽器の雰囲気はイメージと合ってるけど、このシーンはもっとララが祝福されてる感じ、これから楽しいことが始まるんだって感じを出したい〉と伝えられて、新たにアレンジしたのが“さよならララ -Toward the Surface-”というヴァージョンです」


――“さよならララ”は多くのヴァージョンがありますが、メイン曲のヴォーカルには初顔合わせとなるタチアナさんを迎えられています。
「〈力を持つ曲を作りたい〉ってなったとき、〈声を入れたい〉という話は最初の段階でしてたんですね。でも劇伴っていう特性上、歌詞を入れることはなかなか難しく、どうしてもスキャットが多くなる。タチアナはもともとファンだったんですけど、彼女が歌ったアントニオ・ロウレイロの『Só』収録曲“Luz Da Terra”がすごい好きで。最初のヴァースはポルトガル語で歌っている曲なんですが、サビは〈ラララ〉なんですね。ポルトガル語の訛りがあるのか、ちょっと変わった母音が付いてて、英語圏の人とも日本人とも違う。あの独特の雰囲気が今回の世界観に合うんじゃないかと思いついて、ダメ元でデモを送ったら〈ぜひやりたい〉ってレスをもらえました。この曲のアイデアを小出さんと出し合ってたとき、小出さんは〈イヴァン・リンスみたいなノスタルジックなイメージがあるんですよね〉って言ってたんですけど、タチアナに連絡を取ってみたら〈今週イヴァン・リンスの80歳記念ライヴに出る〉と話してたり、君島くんと最近どんな音楽を聴いてるかを喋ってたらイヴァン・リンスの名前が挙がったり。全部が繋がってた気がします」


納得できる幸せな仕事
――スコア群は、オーケストラを軸にしつつ“pulling”のようなトライバルな楽曲もあったり、さまざまな方向性を楽しめます。
「その曲はララが滋賀で日常生活を送るシーンで流れる想定で作りました。僕の“Concordia”って曲と同じく、ウドゥっていうアフリカの民族楽器を使っています。これは完全に個人的な感覚ですが、ラテンのパーカッションとかだと一気に南米感が前に出てしまうと思うんですけど、ウドゥはオーケストラと組み合わせると、他の民族楽器に比べてニュートラルというか、無機質に感じられることが多いんです。そういう意味で、シンセのパーカッションとかヤオヤ(TR-808)に近いのかなと。コメディーのシーンにもニュートラルなイメージで合うかなと思って作った曲です」
――“fluctuation”あたりのシンセも、手作り感があっていいなぁと思いました。
「今回、既存のシンセは一つも使ってないかな。“fluctuation”で鳴ってる音は、元はヴァイオリンの音をグラニュラー(音を細かい粒状に分解し、再構築・加工するシンセサイザーの合成手法)で作ったものです。あと“tide harmonics”や“tide pulse”のヴァイオリンをサンプリングしたシンセのサウンド・デザインは、東京塩麹とかをやってるkent watariにお願いしてたり、日フィルでヴァイオリンを弾きながらもクラブ・ミュージックに造詣が深いまっちくん(町田匡)にも音色で協力してもらってたり。ヴァイオリンなんだけど途中でシンセっぽく鳴ったり、また生々しくなったりする音色は、全部手作りしてますね」


――歌詞の言語も独自のものですよね?
「音楽的に綺麗に響くことを最優先して、架空の人魚語の辞書を作りました。ちゃんと意味が成立するようになってます。君島くんと榊原さんをヴォーカリストに迎えたSaYoNaRa”“S.A.Y.O.N.A.R.A.”が人魚語ですね。この〈さよなら〉はどうしても2タイプ作りたくて。最終話で使われている“S.A.Y.O.N.A.R.A.”が先にあり、別アレンジのものを劇中に散りばめておいて、最後に聴き覚えのあるメロディーが流れてくれたらいいなと思って作ったヴァージョンが“SaYoNaRa”。第9話で物語が大きく動くシーンでかかってます。“S.A.Y.O.N.A.R.A.”は監督とどういう曲にしようかって話をしたときに、〈ここからまた始まるララの新しい人生――新しいストーリーを後押しするっていう意味で、いちばん最後のサビのところでメイン・テーマのメロディーが乗ってくるっていうのはどうですか?〉って監督がポロッと言ったんです。そこから完成したのがあのサビです」
――優しく穏やかな物語のエンディングであり、オープニングでもあるんですね。
「そうですね。そんな背景を知ってサントラを聴いてもらうと、すごく楽しめるんじゃないかな。TVシリーズだと音響監督がメニューに沿ってシーンに音を当てていくと思うんですけど……今回、重要なシーンは全部フィルム・スコアリングしていて。作業量が増えるのですごく大変でしたけど、本当に納得できるものが出来たので、幸せなお仕事だったなって思いますね」 *土田真弓
左から、ボックスセット「さよならララ Blu-ray BOX 上巻」(KADOKAWA)、いきものがかりの2026年のシングル“さよならララ”(エピック)、Hana Hopeの2026年のシングル“Hearts Glow”(ソニー)
「さよならララ」のサントラに参加したアーティストの関連作。
左から、yuma yamaguchiの2021年作『NotAnArtist』(YUGE inc.)、yuma yamaguchiが音楽監督を務めた2026年作『Midnight Jazz: FINAL FANTASY IX』(スクウェア・エニックス)、タチアナ・パーハが参加したリー・リトナー&デイヴ・グルーシンの2024年作『Brasil』(Candid)、君島大空の2026年作『花落知多少』(APOLLO SOUNDS)、北村蕗の2025年作『Spira1oop』(_utter_ur)、圭菜代の2026年作『Fairytale』(圭菜代)、榊原香保里をフィーチャーしたMinuanoの2020年作の新装盤『蝶になる夢を見た』(Quiet)、梅井美咲の2025年作『Asleep Above Creatures』(.plum(es))、福川伸陽が率いたワールド・ホルン・サミットのライヴ盤『ワールド・ホルン・サミット ライヴ』(キング)、片山士駿が参加した安ヵ川大樹ニュートリオの2025年作『New Standard Perspectives』(ダイキムジカ)、Taikimenが参加したJames Macaulay and The Ancient Highballsの2025年作『Happy Sad』(APOLLO SOUNDS)
アニメ作品を鮮やかに彩ってきたyuma yamaguchiの音楽
実写映画やドラマからファッションショーまで、多くの劇伴/楽曲制作を手掛けてきたyuma yamaguchi。ここではアニメ関連の仕事を辿る。2012年の「まりもの花 〜最強武闘派小学生伝説〜」を皮切りに、「ワールドフールニュース」(2014年)、「時光代理人 -LINK CLICK-」(2021年)などで経験を重ねた彼が転機と語るのは、2023年の「アンデッドガール・マーダーファルス」。〈いかにもアニメの劇伴〉ではない音楽を依頼され、石若駿、MELRAWら多彩な面々と共に、オーケストラやジャズ、IDM、現代音楽などを溶け合わせたサウンドを構築した。
翌年の「メタリックルージュ」では岩崎太整、TOWA TEIと組み、「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」では梅林太郎らと劇伴を分担。人気漫画家の短編作品をアニメ化した「藤本タツキ 17-26」では、軽妙なジャズ・アレンジでコミカルな〈恋は盲目〉を弾ませた。クラブ・ミュージックの感覚と、クラシックの素養をシームレスに行き来するyumaの音作りは、アニメならではのキャラクターの躍動感を高めている。 *田中亮太
左から、2023年のサントラ『アニメ「アンデッドガール・マーダーファルス」Original Soundtrack』、2024年のサントラ『TVアニメ「メタリックルージュ」オリジナルサウンドトラック』(共にFUJIPACIFIC MUSIC/FABTONE)、2024年のサントラ『「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」オリジナルサウンドトラック』(コロムビア)、9月30日にリリースされるサントラCDを封入したボックスセット「藤本タツキ 17-26 Special Edition」 (エイベックス・ピクチャーズ)
