〈東側〉をロックしたクイーンの歴史的なライヴが高画質で蘇る!!!!
1枚の写真を見つけたことで、朧げだった記憶が鮮明に蘇ってくる。そんな経験をしたことがある読者は少なくないだろう。「Queen: Budapest」は、まさにそんな感覚を味わわせてくれる画期的な映像作品である。

ここにいたとまで思わせる映像美
そもそもこの作品自体は、86年7月27日に行なわれたハンガリー・ブダペストでの公演の模様を収めたもので、翌年には「Live In Budapest」としてVHSでリリースされ、2012年には「Hungarian Rhapsody: Queen Live In Budapest」というタイトルでDVD/Blu-ray化。すでに何度となく繰り返し見てきたというファンも多いはずだ。ただ、当初から劇場用作品として35mmフィルムで撮影されていた質の高い映像が、今回は4Kレストアを経て鮮明さを増し、さらには音源も最新鋭のリミックス技術により解像度を高めた状態に刷新されている。つまり単なる復刻作品に留まらない、現在ならではのクォリティーが伴うものとして磨き上げられているのだ。
筆者はその新たな映像と音に触れた際、冒頭に記したような感覚を覚えた。もちろんオリジナルの映像は過去に何度も目にしてきたが、そこにうっすらとかかっていた靄のようなものが消え去り、これまで映像でしか触れてこなかったこのライヴが、実は40年前にこの目で観たものだったのではないかと自分の記憶を疑ってしまいたくなるほどに、リアルな熱を帯びたものに感じられたのだ。
この作品は、10月30日のフィジカル・リリースに先駆け、全世界で10月7日から期間限定で劇場公開(IMAX上映を含む)されることになっている。映画館ならではの大きなスクリーンと極上の音響でこのライヴ映像に触れることを想像すると、ワクワクさせられるというよりも、少しばかり怖さを感じてしまうほどだ。なにしろPCの小さな画面で観ていても震えを覚えるほどなのだから、そうした環境で向き合うとなれば冷静でいられるはずもない。それゆえに筆者はいま、〈はたしてそのとき、自分はどうなってしまうのか?〉という妙な不安を少しばかり抱きながら、劇場公開を待っているのだった。
ちなみに今回、劇場公開後にリリースを迎えるのはBlu-rayばかりではなく、CD、つまりサウンドトラック的な意味合いのライヴ・アルバムも登場する。クイーンのディスコグラフィーには、独創性と実験精神に満ちたスタジオ作品ばかりではなく、臨場感たっぷりのライヴ作品たちも名を連ねてきたが、そこに40年前の名演を収めたアルバムが新たに仲間入りすることになるわけだ。しかもこのCDには、映像版には入っていない4曲も収録されている。そのうちの1曲が、80年に3週連続で全米No. 1に輝き、ワールドワイドな大ヒットとなった“Another One Bites The Dust”だったりするのだから、これは必聴だ。
キャリア最高峰のステージ
解像度の上がった映像と音源の素晴らしさばかり書き連ねてきたが、肝心のライヴ自体も非の打ちどころがない。86年といえば、映画「ボヘミアン・ラプソディ」のなかでも象徴的に描かれていた〈Live Aid〉の開催翌年にあたるが、この時期のクイーンのライヴの精度は、過去最高レヴェルに達していたといえる。演奏面の完璧さはもちろんのこと、このブダペスト公演時は40歳になる直前だったフレディ・マーキュリーによる、力強さときめ細やかさを兼ね備えた歌唱が高い次元で安定していて、ステージ・パフォーマンスも実にキレが良く、躍動感に溢れている。
改めて当時の状況について整理しておくと、84年2月に発売された11作目のアルバム『The Works』に伴うツアーは85年に入ってからもブラジル、オセアニア、日本へと舞台を移しながら継続され、同年5月15日、大阪城ホールで終着点に至っている。そして、その約2か月後にあたる7月13日に〈Live Aid〉が開催され、クイーンに対する世の関心がふたたび高まるなか、同年9月から翌年にかけ、次なるアルバムが制作されている。それが86年6月に世に出た12作目『A Kind Of Magic』だった。同年公開の映画「ハイランダー 悪魔の戦士」のサウンドトラックとしての一面も持つこの作品は、すぐさま英国で大反響を呼び、アルバム・チャートの首位を獲得。彼らにとってオリジナル・アルバムでUKチャートのトップに立つのは、『The Game』(80年)以来のことだった。
そして同作の発表直後にあたる6月7日にストックホルムで幕を開けたのが〈The Magic Tour〉だったわけだが、欧州各地のスタジアムを巡演したこの全26公演に及ぶツアーこそが、フレディ存命時のクイーンにとって最後のライヴとなった。ツアーにおけるハイライトは、〈Live Aid〉の開催地でもあったロンドンのウェンブリー・スタジアムでの二夜公演だったといえるが、このブダペスト公演は、冷戦下の社会変革期において、西側のロック・バンドが初めて〈鉄のカーテン〉の向こう側で実施したスタジアム級のコンサートとなり、歴史的、社会的にも大きな意味を持つことになった。そしてこの公演後、フランスとスペイン、英国ネブワースでのステージを経て、〈The Magic Tour〉は完結に至っている。
なお、この2026年は、『A Kind Of Magic』の発表と同ツアーから数えて40周年というばかりではなく、1946年9月5日生まれであるフレディの生誕80周年という節目の年でもある。そしてこの11月には、彼の他界から満35年を迎えることになるわけだが、この「クイーン:ブダペスト」は、そうした長い時間経過が嘘のように思えてしまうほど、この稀有なバンドの姿を生々しく、色鮮やかに伝えてくれる。2026年は、この作品がふたたび注目を集めた年として、記憶されていくことになるのかもしれない。 *増田勇一
「Queen: Budapest」で演奏されている楽曲を収録したアルバムを紹介。
左から、75年作『A Night At The Opera』、77年作『News Of The World』、80年作『The Game』(すべてEMI/Legacy)、82年作『Hot Space』、84年作『The Works』、86年作『A Knd Of Magic』(すべてEMI)
MOVIE INFORMATION
「クイーン: ブダペスト」
出演: ジョン・ディーコン、ブライアン・メイ、フレディ・マーキュリー、ロジャー・テイラー
監督: ヤーノシュ・ジョムボリャイ
プロデューサー(オリジナル版): マフィルム・ダイアログ・スタジオ(ブダペスト)、ジム・ビーチ、ラースロー・ヘゲドゥース、ジュルジ・ミハーイ(マルチメディア・オーガニゼーション/ヨーロッパ/リミテッド)
プロデューサー(2026年リマスター版): ロブ・ストリンガー、トム・マッケイ、リチャード・ストーリー、チャーリー・スタンフォード、ジョシュ・チューズ
(2026年|アメリカ)
配給: カルチャヴィル合同会社
© 2026 Sony Music Entertainment
2026年10月7日(水)より期間限定でTOHOシネマズ 新宿ほか全国劇場公開
https://www.culture-ville.jp/queen
圧倒的な熱量とパンチ力に昇天必至、クイーンのライヴ盤3作を紹介!!!
78年作『Jazz』に伴う欧州ツアーでの演奏を収録した初のライヴ盤。“We Will Rock You”のパンキッシュなファスト・ヴァージョンで幕を開ける本作は、クリアすぎない音質と相まって、この時期のバンドが放っていた無軌道なエネルギーを追体験できる。
81年にモントリオールで開催された2公演は、84年に映像作品「We Will Rock You」としてまとめられ、21世紀に改めて音源化された。サポート・メンバーを入れず4人のみでステージに立っていた最後の時代にあたり、鋼の如きグルーヴが圧倒的だ。
フレディの死から約半年後にリリースされた本作には86年の本国ロンドンでのスタジアム公演を収録。〈Budapest〉の15日前ということもありセットリストはほぼ重複しているが、“Gimme Some Lovin'”“Big Spender”のカヴァーはこちらでのみ披露。 *田中亮太



