ビル・ウィザースとの共作曲も! ~「こんなに光栄なことはないよね!」
颯爽とした風の感覚や柔和な温もり、そして密やかなエキゾ性が息づくラウル・ミドンの4年ぶりとなるスタジオ録音作『ドント・ヘジテイト』は、彼が秀でたシンガー・ソングライターであることをあっさりと示す秀作だ。セルフ・プロデュース盤で、多くの楽器を一人でこなし、そこに適材適所でミュージシャンを迎えた内容を、それは持つ。
「前スタジオ録音作の『シンセシス』はLAに行って、同地のセッション・プレイヤーと録音した。それはそれで、いい経験だった。でも、今回は自分の中にあるものだけで、表現していく作業。それが、今作の持ち味に繋がっているのは間違いない」
RAUL MIDON Don't Hesitate Artistry/Mack Avenue/King International(2014)
そんな全面的に“自前の”アルバムの表題は、軽快な収録曲《ドント・ヘジテイト》から取られた。
「“躊躇しないで”という文言は僕自身に対する提言のようなもの。今作の制作過程は振り返ると、自分を叱咤激励し続けている感じだった。というのも、録音し始めた時は、契約レーベルがない宙ぶらりんな状態だった。その時の気持ちとしては、レーベルがあろうとなかろうと、物をちゃんと作ろうというものだった」
14曲中、13曲がオリジナル。マーカス・ミラーがベースを弾いた《ミ・アミーゴ・クバーノ》はスペイン語で歌っている。なんとこれ、メロウ・ソウルの巨匠であるビル・ウィザースとの共作曲だ。
「ビルがスペイン語の歌詞を欲しがった。共作するきっかけは、彼が一緒にやろうよと電話をかけて来たんだけど、こんなに光栄なことはないよね。彼の娘さんが僕の音楽を紹介してくれたんだって」
唯一のカヴァーはUKロック大御所、ザ・フーの《アイ・キャン・シー・フォー・マイルズ》。その選択については、「数年前にザ・フー・トリビュートの公演がカーネギー・ホールであって、その時に前から好きだったこの曲をやった。ハーモニーが秀でていて、当時のR&Rとしては革命的なアプローチをした曲と思う」
新作に限ったことではないが、ポップ、R&B、ジャズ、ラテンなどの諸要素がしなやかに解け合う。そんなミドンの表現を聞くと、瑞々しい持ち味さえあればジャンルなんかどうでもいいじゃないか、というリベラルな意思表示を感じてしまうが。
「その通り。僕の音楽に対する基本の考え方というのが、まさに、それ。僕はある特定のジャンルの音楽家という考え方をしたことはない。ただ、魅力があると思えることを、あらゆるジャンルから見つけ出しているんだ。リズ・ライトやダイアン・リーヴス、リチャード・ボナら今回のゲストも、まさに枠を作らず外に出て行くタイプの人たちだと思うよ」