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「やっと、自分の人生を肯定できるところまでこれたのかな」

 今、ラウル・ミドンは活動のピークにあるのではないか。自己プロデュース&エンジニアリングによる新作『バッド・アス・アンド・ブラインド』を聴くと、そう思わずにはいられない。マルチ・プレイヤーとしての自分の演奏とジェラルド・クレイトンら敏腕奏者たちを自在に配置したサウンド作り、多重録音のコーラスを含む瑞々しい歌声など、高次元にあるそれらは有機的に結びつき、魅力的な像を作っている。また、曲調もソウル滋味を持つものから、フォーキーだったりジャズ色の強いものまで、本当に幅が広い。

RAUL MIDON Bad Ass And Blind Artistry(2017)

 「今作ではジャズという側面を深く追求できたと、思っている。とにかく、やっていることを一つに絞りたくないという気持ちがあるんだ。ジャンル的にR&B系とかジャズ系とか絞った方が商業的にはいいのかもしれない。でも、それじゃつまらないよね」

 彼が思う転機は、2002年にセッション・マン活動をしていたマイアミからNYに出たとき。以降、彼は「自分の音楽を作ろう」と切磋琢磨してきた。

 「僕に音楽をやる動機を一番与えてくれるのは日々向上したいという気持ち。それは、技術の面でもそうだし、音楽の深みという部分でもそう。それがある限り、僕は音楽を続けていくことができる」

 新作ではオリジナル曲に加え、スティーヴ・ミラー・バンドの1976年大ヒット曲《フライ・ライク・アン・イーグル》をカヴァーしている。

 「選曲した理由の一つは、毎回アルバムでカヴァーをやっているから。それからもう一つは、僕がこの曲を歌っていたら、奥さんがこれをカヴァーした方がいいと言ったこと(笑)。実は、これって一番最初に買ったレコードなんだ。そういう意味では、僕の人生において重要な位置を占める特別な曲さ」

 タイトル・トラックはとってもファンキーなリフを持つメロディアス曲だが、ミドンはその曲名をアルバム・タイトルにした理由をこう語る。

 「今作では、歌詞の面でもよりいいものにしようと努力したし、全ての面でいい所に行けたと思う。それで、自信作である今作のタイトルを『バッド・アス・アンド・ブラインド』とした。目が見えないけど最高のヤツ(バッド・アス)だと自分で思っているけど、ここにきて僕が盲目であるという事実に折り合いをつけられたということかもしれない。結局、これまでの人生を肯定し、ようやく盲目という言葉をアルバム表題に冠する所まで来たということなんだ」

 なるほど、そう説明されると、このジャケット・カヴァーも納得ではないか。もちろん、収められた曲群はまさにスーパー・マン級の仕上がりである。