今年1月にとあるイヴェントで三戸なつめのライヴを観る機会があった。身長152cmと小柄な彼女は、ギターを手にしながらも逆にギターに抱えられているように見えたが、そのギターと軽快にダンスを踊るみたいに、広々としたステージの上で動き回っていた。それも本当に楽しそうな笑顔と共に。
90年2月生まれ、奈良県出身。2010年より関西で読者モデルとして活動するようになり、2013年に上京する頃には青文字系ファッション誌で絶大な人気を得るようになっていた。同年に発表したセルフ・プロデュース本「なつめさん」は10万部に迫るヒットに。その本での素の彼女とステージで見た彼女のギャップがほとんどなく、〈歌手という役柄〉を演じるタイプではないということがわかる。可愛いんだけれど、それだけじゃなくて、クスッと笑えるキャラクターのまんま。前髪ぱっつんのルックスがそのことを何よりも物語っている。
だからだろう、〈人気モデルが歌も歌ってみました〉という、取って付けた感じがしない。モデルとして活動することも歌うことも、彼女にとっては日常の延長線上で行っているように感じられるのだ。裏を返せばプロフェッショナルなところはあまり感じさせないが、そのあたりは今回リリースされるデビュー・シングル“前髪切りすぎた”の全収録曲の作詞/作曲とサウンド・プロデュース、そしてすべての演奏を手掛けた中田ヤスタカ(CAPSULE)がしっかりとフォローしている。
表題曲は、〈前髪切りすぎた~♪〉という自己紹介的な歌詞を天真爛漫に歌い上げる三戸のヴォーカルと、中田の確かなサウンド・プロダクションが実にバランス良くマッチ。Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅとの組み合わせとはまた違った、三戸のコミカルな一面をフィーチャーした曲作りとなっている。
その中田らしい、三戸のキャラクターを音でイメージしたようにカラフルで多幸感に溢れたポップ・サウンドは、主役の性格や言動は別にしてメーガン・トレイナーやリリー・アレンに通じるところがあるように思う。〈Kawaii〉というキーワードで発信されるような日本発のポップ・カルチャーだけでなく、このアーティスト写真で表現されているような、よりドメスティックな要素をも世界の先まで広めていきそうな三戸なつめ。現在のポップス・シーンをリードするアリアナ・グランデやジェシー・Jたちが三戸の存在を意識するような展開すら思い浮かべてしまうが、まずは華やかなデビューを飾るシングルを楽しみ尽くしてほしい。軽やかなピアノに導かれていく伸び伸びとしたアレンジが印象的な、4月17日公開の映画「恋する♡ヴァンパイア」の主題歌となる2曲目“コロニー”、本人が大好きだという駄菓子〈キャベツ太郎〉の魅力をファンシーなポップ・サウンドと共に歌う3曲目“きゃべつのやつの歌”まで聴くと、その独特のヴィジュアルと視点を持った三戸なつめの不思議な魅力から、きっと逃れられなくなるはずだ。