誰かに向けているというよりは、いまの気持ちを自分自身で確かめるために歌っているようだ。私にはいま何が見えているのか。それに対してどのように感情が動き、どう対処しようとしているのか。歌にしたら、そうしたことがわかる気がするし、確かめられる気がする。だから歌う――ソークにとっての歌はそういうものなんじゃないかと、聴いていて思った。澄んでいて、壊れやすそうで、憂いがあって、儚げなそのヴォーカルは、それゆえにこちらの気持ちもパキッと明快な時ではなく、揺れていたり不安定気味だったりする時にこそ沁み入ってくる。晴れの日よりも雨の日に聴いていたい、そんな音楽だ。
「自分がした経験だとか、起こった出来事とか、観察したことについて、私は曲にしている。歌詞を書くのは感情を表現するための良い方法だと思うし、特に思春期の頃は歌詞を書くことで自分の感情を表に出す作業が凄く重要だったの」。
そう話す現在18歳のシンガー・ソングライター、ソークことブライディ・マーンズ・ワトソンは、北アイルランドの出身。昨年、チャーチズの主宰するグッバイからEP『Blud』を発表し、その後ラフ・トレードと契約して一気に注目度が高まった。そんな彼女の音楽的ルーツにあるものは、ざっと次のような感じだ。
「ジョニ・ミッチェル、ピンク・フロイド、レッド・ツェッペリン。両親のコレクションしていたレコードが家でしょっちゅう流れていたから、初めに影響を受けたのもそういう音楽だった。それに合わせてリヴィングで激しく踊っているような子供だったわね(笑)。ギターを手に入れて曲を書きはじめたのは13歳。兄がギターを持っていて、彼にできるなら私にだってできるはずだと思ったの。人前で歌うようになったのは、それから1年後よ」。
ちなみに〈ソーク〉とはみずから考えたステージ・ネームで、〈ソウル〉と〈フォーク〉を合体させたものだそう。このたび登場した彼女のファースト・アルバム『Before We Forget How To Dream』は、アコギの弾き語りに、ときおりピアノやストリングスが重なる程度のシンプルな構成のナンバーが大半だが、エレクトロニックなアレンジでアンビエント的な空間処理を施した曲もいくつかある。いずれにせよ、主役の揺らめくような歌声そのものが何より印象的に響いていて、どこかノスタルジックな感覚も抱かせる出来映えだ。
「ヴィレジャーズとライヴで共演した際、ギタリストのトミー・マクローリンと意気投合して、〈彼と一緒にレコードを作らなきゃ〉と思ったの。それでアイルランドの田舎の山のなかにあるトミーのスタジオに曲を持っていき、レコーディングしたのよ。音の面で意識したのは、過剰に楽器を鳴らさないことぐらいで、あとは凄く自然な流れで〈なるべき音になった〉という感じ。彼は曲に合ったサウンドを捉えるのに長けている人だから、楽しんで作ることができたわ」。
ソークは幼少時から女の子らしく育つことを拒み、男の子みたいな格好をして地元のスケートボード・パークで多くの時間を過ごしていた(それは現在もさほど変わらないようで、ほとんどのPVにはスケボーに乗って夜の街を駆け抜ける姿が映されている)。大人になること、女性らしくあることを、すんなり受け入れられない……といった正直すぎる思いが強く胸を打つこの『Before We Forget How To Dream』は、実に鮮烈なデビュー作と言えよう。
「歳を取るとサンタクロースを信じる人なんていなくなるでしょ!? 私たちは現実的になっていくことで夢見ることを忘れてしまうわけ。〈夢見ることを忘れる前に〉という意味のタイトルはそのことに対する気持ちから付けた。究極的には、私自身が成長するためのアルバムとも言えるでしょうね」。
ソーク
本名ブライディ・マーンズ・ワトソン。北アイルランド生まれ、現在18歳のシンガー・ソングライター。2011年頃からデモ音源の制作やラ イヴ活動を開始。2012年3月に配信リリースしたシングル“Trains”が、BBC Radio1のプレイリストに入る。2013年にティーガン・アンド・サラやスノウ・パトロールのサポート・アクトに抜擢。2014年3月にはチャーチズ 主宰のグッバイからファーストEP『Blud』を発表する。同年末にラフ・トレードと契約。同じ時期にBBCの〈Sound Of 2015〉にノミネートされ、大きな話題を集める。このたびファースト・アルバム『Before We Forgot How To Dream』(Rough Trade/HOSTESS)をリリースしたばかり。