この先も未来永劫、延々とリサイクルされ続けていくアイクズ・ムード
例えばアイザック・ヘイズの逝去後にエル・ミシェルズ・アフェアが発表したトリビュート盤『Walk On By: A Tribute To Black Moses』を聴いてみれば、彼の生み出したサウンドが90年代以降のヒップホップやR&Bにいかほどの影響を与えてきたかを窺い知れるだろう。単にサンプリングの頻度という部分だけで振り返ってみても、オーケストラルな長尺曲を連発していた70年代初頭までの音源はさまざまな断片が多方面で活用されており、とりわけ“Walk On By”(69年)や“The Look Of Love”(70年)、“Ike's Mood I”(70年)あたりはサンプリング/ブレイクビーツの宝庫として、書き記していくのは不可能なほどだ。その時代の音源だけでなく彼の手掛けたブラックスプロイテーション映画のサントラ群もネタだらけだし、そこに演奏/プロデュース仕事を加えれば、誰も知らないチャーメルズ“As Long As I've Got You”(67年)からいまでは誰もが知るループを抜き出したウータン・クランの“C.R.E.A.M. (Cash Rules Everything Around Me)”などもあって、そのリサイクル量はさらに膨大になる。
同曲を皮切りに最後は共演まで果たしたウータン軍団やRZAは以降も何度となくヘイズに敬意を捧げているが、他にヘイズ活用の目立つアーティスト/プロデューサーを挙げていくなら、2パックにナズ、ジェイZ、CMW、スヌープ・ドッグ、ピート・ロック、DJプレミア、そしてマッシヴ・アタックやポーティスヘッドのようなブリストル一派……と、これまた大物がズラリと並んでしまってとりとめがない。多くは90年代の使用例となるものの、例えばNujabes“Peaceland”で知られ、スカイズーも新作中の“All Day, Always”で使ったばかりの“Breakthrough”(74年)など、現代に至るまでヘイズの遺した音が多くのアーティストをインスパイアし続けていることは付け加えておこう。
また、“Bumpy’s Lament”(71年)のソウル・マン&ザ・ブラザーズによるカヴァーを用いたドクター・ドレー“Xxplosive”自体が定番のオケになって、エリカ・バドゥ“Bag Lady”などに転用されていったようなパターンも多い。さらに21世紀に入ってからは、冒頭で触れたエル・ミシェルズ・アフェアのように、そうした人気ブレイク曲をファンク~アフロ・バンドがカヴァーする機会も増えているから、もうヘイズのリサイクルは繰り返しの繰り返しで何周目かに入っているのだ。
一方、もともとカヴァーを好んだヘイズだけに、彼の曲がカヴァーされる例はサンプリングほど多くはないようだ(ソングライターとしてヘイズが書いた曲のカヴァーなら、サム&デイヴ曲だけでも大変な数だが……)。ここ数年でいうと、ルーマーの滋味深い“Soulsville”やドナルド・フェイゲンのダサ格好いい“Out Of The Ghetto”が良い出来だった。