眠れる興味をMJに呼び覚まされた4人組が、初アルバムを完成! ソフト&メロウなグルーヴに貫かれたショウは、自然と身体が揺れる心地良さを湛えていて……

 

 

歌が前に出ていて踊れる曲

 LUCKY TAPES――結成から1年あまり……ではありながら、今年4月にリリースされた7インチ+CDシングル“Touch!”は即ソールドアウト。ダフト・パンクを決め手としてディスコ/ブギー景気がメインストリーム化したここ数年のモードや、ceroを筆頭とする日本の新世代たちのソウル・フィーリングへの傾倒といった時流とリンクしつつ、この春のカインドネスの来日公演時にはオープニング・アクトを務めるなど、日に日に周囲のざわざわ感を高めてきた4人組だ。

 「前身バンド(Slow Beach)が解散したあとにメンバーとご飯を食べに行ったとき、〈マイケル・ジャクソンの“Love Never Felt So Good”が最高だ〉っていう話で盛り上がったんですよ。Slow Beachはチルウェイヴなどを消化していて、リヴァーブを過度にかけたフワフワとした音像だったので、今度はブラック・ミュージックとポップスを気持ち良く融合させたもの、ヴォーカルが前に出ていて、なおかつ踊れる曲をやってみたいよねって。最初はベン・フォールズ・ファイヴみたいにピアノ、ベース、ドラムの3人で活動していこうと思ったんですけど、アレンジの際にギターが必要になって、就職活動で離れていた彼(高橋健介、ギター/シンセサイザー)に戻って来てもらいました(笑)」(高橋海、ヴォーカル/キーボード)。

 「最初、出来上がっていた曲をいくつか聴かせてもらったときに、Slow Beachよりも自分的にはツボだなと感じたんです。実は就職の内定をもらっていたんですけど、やっぱり音楽がやりたいなあと」(健介)。

 眠っていた興味をマイケル・ジャクソンに呼び覚まされる形で新しいバンドをスタートさせた彼らだが、その音楽性を推進させるにあたって頼もしい存在だったのが、田口恵人(ベース)、濱田翼(ドラムス)というリズム隊の2人。特に、ソウルフルな要素をバンドに落とし込むにあたって、田口の音楽的な背景が大きく映し出されているという。

 「彼は小さい頃からブラック・ミュージックに触れていて……父親もベーシストで、その影響みたいなんですけど、それがベースラインやグルーヴによく出てますね。僕自身はジャンル問わず聴きますが、2000年代のR&B――ビヨンセとかジェイ・Zなどが土台にあって……。最近、R・ケリーの『Chocolate Factory』が改めてカッコイイなって思ったり。ほかにも、良いと思ったら洋邦のポップスからロックからインディーズまで聴くので、自分は、バンドのなかでは楽曲を〈ポップスとしてまとめる〉という役割を担っていると思っています。曲作りは、健ちゃんがフレーズを持ってきて、それを僕が宅録で展開を作り、アレンジを加えてカタチにしていきます」(海)。

 「ちょっと珍しいやり方なのかもしれないですね」(健介)。

 「歌詞に関してはあまり深い意味を込めてなくて、LUCKY TAPESは歌を前に出した音楽をやりたい、というところから始まってはいるんですけど、もともと音楽を聴くときに詞よりも音を優先して聴くし、歌というよりは全体の音の気持ち良さ、グルーヴ感のほうが大切というのが、メンバー全員の意識に共通していて。英詞と日本語詞、両方の楽曲があるのは、音のノリだったり発音の気持ち良さで使い分けているのと、僕が大学時代にハマッていた細美武士さん(ELLEGARDENthe HIATUSMONOEYES)に影響された部分も大きいです」(海)。

 

我流のブルーアイド・ソウル

LUCKY TAPES The SHOW RALLYE(2015)

 というところで、このたび届けられたファースト・アルバム『The SHOW』。ジャクソン5を匂わせる楽しげなギター・カッティングで幕を開ける“All Because Of You”を筆頭に、フィリー・テイストの“揺れるドレス”、通販/ライヴ会場限定で発表された昨年のEPの表題にもなっていたメロウ・ファンク“Peace and Magic”(今回はアルバム・ヴァージョンを収録)、アーバン・フィーリングを漂わせた“FRIDAY NIGHT”など8曲を収めた本作だが、いま挙げた形容がそのままズバリだと言い切れないのがこのバンドのおもしろさ。それこそビートはソウルフルであっても、上に乗る鍵盤やホーンのメロディー感、さらに、自身も「どっちらかというとアンビエントなどに向きそうですよね」という高橋海のソフトな歌声が、得も言われぬニュアンスを醸し出している。それはときに、〈シティー・ポップ〉的なものと捉えられたりもするようだけど……。

 「〈シティー・ポップ〉って言われるのは嫌ではないですけど、自分たちでは腑に落ちないところもありますね。都会のポップ……ではないなと。最近の、特に東京のインディー・ポップって、ほとんどがシティー・ポップで括られている感じがしませんか? ジャンルを意識したことはないけど、まだ〈ブルーアイド・ソウル〉とか〈アーバン・ソウル〉だとかいうほうが自分たちの音に近いのかなと思います。でも、つい先日大阪でライヴをしたとき、お客さんが〈LUCKY TAPESは東京の音だ〉という話をしていました。意識していなくともそう思わせる、都市の空気感が僕らにはあるのでしょうか」(海)。

 「シャイなんじゃないかな、東京の人って。関西のほうがグングン前に出てくる感じというか……勝手な印象ですけど、東京のほうが繊細そうだし、そういうところが音に表れてるのかもね」(健介)。

 「とはいっても、メンバーは神奈川と埼玉在住で、誰ひとり東京には住んでいませんが(笑)」(海)。

 「でもまあ、クルマとかで聴くのもイイんじゃないかな。今回はミッドテンポの曲が多いし、あまりスピードを上げる気分にはならないと思うんで(笑)」(健介)。

 早くから耳を掴まれていたリスナーの期待にも十分に応える、しかし、インディー・ポップの範疇だけで語るのはもったいないぐらいの作品を作り上げたばかりの彼らだが、すでに次作を制作中とのこと。

 「次回はもうちょっと、いろんな意味で〈大きいアルバム〉にしたいなって思ってるんです」(健介)。

 「あとは、ceroみたいにリリース前の曲を実験的にライヴで演奏して、曲を成長させていくといったこともやりたいですね。ライヴで評判の良いアレンジというのもあるので、早い段階から用意を始めたいです。それに、今回のアルバムのレコ発ワンマンが9月11日に渋谷WWWであるんですけど、アルバムの曲を全曲演奏しても30分ほどなので、どうしたものかと(笑)。なので、次のアルバムに向けた曲もたくさんやろうかと思っています」(海)。