名曲と共にあったジョン・レノンの人生とは?
どう振り返るかはあなた次第
人は死ぬ直前に一瞬のうちにそれまでの人生の記憶が走馬灯のように蘇ると言われる。それならば、80年12月ニューヨークでジョン・レノンが凶弾に倒れたとき、その銃弾が彼に向かって発射された瞬間、彼の脳裏にはどんな光景の数々が浮かんだだろうか?
そんな発想で作られたジョン・レノンの人生を描く舞台が「レノン」である。原題が「Looking Through a Glass Onion」で、ビートルズの「ホワイト・アルバム」収録曲「グラス・オニオン」の歌詞がそれまでの彼自身の曲に言及したものだったように、ビートルズとソロの両方の時期からのレノン作品と彼の発言を基にしたモノローグを組み合わせて構成したパフォーマンス作品だ。92年からオーストラリア各地で上演を続けてきた作品が次第に評判を呼び、ロンドンのウェストエンドに半年間進出、レノンの没後30年の10年にはシドニーのオペラハウスで上演、そして昨年ニューヨークのオフブロードウェイで120回の公演を行って、さらに注目を集め、この12月に日本にもやってくることになったのだ。
主演・原案・脚本のジョン・ウォーターズはオーストラリアではTVや映画でも顔の良く知られた俳優だが、ロンドン生まれの英国人で、10代後半からロック・バンドで歌っていた。オーストラリアに移住して俳優業を主な仕事にするきっかけが「ヘアー」への出演で、その後も幾つものロック・ミュージカルに出演しており、歌手であり俳優である才能が「レノン」に活かされている。
ウォーターズはレノンのリヴァプール訛りもうまく真似て歌と語りをこなすが、決して物真似をしているわけではない。このショウは決してトリビュート・コンサートではないのだ。自分のパフォーマンスを通してレノンというアイコンの内側の人間性が観客に伝わることを第一に考えており、舞台上には革ジャンと黒のパンツという地味な姿の彼とピアノとコーラスのステュワート・ディアリエッタの2人だけという簡素な設定がレノンの人間性を浮かび上がらせるのに効果を上げているようだ。また、時に曲終わりですぐにモノローグがカットインしたりするなど、構成には映像ドキュメンタリーを舞台に持ち込んだような語り口を意識したという。
「レノン」では、完奏しない曲も含み、レノンの名作が30曲前後歌われる。余計な装飾を排して、彼の音楽の本質をつかもうとするウォーターズとディアリエッタによるパフォーマンスは、没後45年経った今もなお、僕らの心の奥深くに語りかけるジョン・レノンの音楽の変わらぬ魅力を再認識させてくれるはずだ。