We Love David
[ 特集 ]デヴィッド・フォスターの世界
この男の足取りに触れてみることは、ポップ音楽史を知ることでもある。もはや説明不要のヒットマン……なれど、必要ならばここで説明しよう!
桁違いに〈ビッグ〉な90年代
ロック方面ではオルタナティヴだったものがメインストリームと入れ替わり、それと並走してヒップホップやR&Bがさらに大きくなっていったこの時代。旧来的なショウビズ感よりもストリート感やリアルさなどが重視されるようになった……からこそ、デヴィッド・フォスターのコンテンポラリー路線はますます安定感を増していった。構図は80年代から変わらないが、90年代はシーンがよりわかりやすく先鋭化したぶん、それに比例して王道の安心感を求める意識も大きくなったのか。それを証明するかのように90年代のデヴィッドは、ダイアン・ウォーレンやウォルター・アファナシエフの先達のような位置付けで、アン・ヴォーグやモニカ、フェイス・エヴァンス、ドゥルー・ヒルのような〈若い〉R&Bアクトを手掛ける例も逆に多くなっている。なかではカントリー曲のカヴァーをあてがって全米1位を獲らせたオール4ワンの“I Swear”はセンスの健在ぶりを窺わせるものだった。一方、143を設立して軸足をエグゼクティヴとしての動きに移すなど、クインシー・ジョーンズの後を追うような動きも顕著になりはじめたのがこの時期だ。
いまでは珍しくないヴァーチャル・デュエットに挑み、亡き父ナット・キング・コールとのデュエットを実現させた特大ヒット作! ここでプロデュースを手掛けたのがデヴィッドで、作り自体は至ってシンプルなジャズ・ヴォーカル作なのがミソ。『Stardust』(96年)でも同趣向の親子共演を演出しました。
実質的に主演女優のホイットニー・ヒューストンによるアルバムで、これも問答無用のデヴィッド印。ドリー・パートンの名曲を取り上げた“I Will Always Love You”、当時の奥様リンダ・トンプソンと共作したエモーション炸裂の“I Have Nothing”、さらに“Run To You”と劇的な名唱を引き出しまくっています。
バラード・ベストとしてまとめられたなかに、デヴィッドは新曲を2つプロデュース。そのうちスパニッシュな意匠も効かせた“You'll See”は、彼女のキャリア中でもっともドラマティックな感情決壊ソングとなっています。もう1曲の“One More Chance”も過去の名曲に引けを取らない出来!
デヴィッドが95年に立ち上げたアトランティック傘下の143(I Love Youの意味)で最初に契約したのはこのアイルランドの国民的兄妹。トラッド・フォークにMOR的なポップネスを注いだデヴィッド制作の初作は世界中でヒットを記録しました。なお、絶頂期で活動休止するも今年復活したばかり!
同じカナダ人として世界デビュー時から近年に至るまでセリーヌ・ディオンを支え続けるデヴィッド。彼の手によるシングルのヒット規模では“Because You Loved Me”や“All By Myself”を収めた本作が至上で、日本のドラマ用に書き下ろされたクライズラー&カンパニーとの“To Love You More”もデヴィッドの名仕事です!
〈1曲だけプロデュース〉が続いたこの時期のデヴィッドですが、特上の成功となったのはダイアン・ウォーレンのペンによる本作所収の“Un-Break My Heart”。あまりのベタベタぶりに当初トニは歌うのを嫌がったそうですが、結果的には全米1位もグラミーも獲得。以降の作品でもデヴィッドを起用しています。