米エンターテイメント界の伝説と時代を代表するポップスター、奇跡の共演がこの大舞台でふたたび実現! 心ときめくコール・ポーターの名曲群と二人のゴージャスな歌声が煌びやかな化学反応を起こす!

最後のステージ

 トニー・ベネットが95歳の誕生日を迎えた今年の8月3日、彼とレディー・ガガによる特別コンサート〈One Last Time: An Evening With Tony Bennett And Lady Gaga〉がNYのラジオシティ・ミュージック・ホールで開催された。同公演は3日と5日の2日間に渡って行われ、一般発売開始から1日でチケットが完売する超プレミア・コンサートとなった。トニーとガガが完成した『Cheek To Cheek』(2014年)に続くデュエット・アルバム第2弾『Love For Sale』に向けての盛り上がりという側面もあっただろうが、すでに認知症の進行を公表した御大にとってこれが地元NYでの最後のステージになるという事情も知られていたからだろう。その公演後には敏腕マネージャーのダニー・ベネット(トニーの長男)が他州でのジョイント・ツアーの中止とライヴ・パフォーマンスからの引退を明かし、結果的には5日の公演がレジェンドにとっての最後のステージとなった。

 それにしても改めて思うのは、トニーとガガの稀有な相性の良さだろう。いまや〈デュエット・アルバム第2弾が完成した〉と書いても何ら奇異に思えないという事実は、この両者のコンビネーションによる前作がいかに成功したかを物語っている。そもそもエキセントリックなポップスターとして表舞台に登場したレディー・ガガがここまで成功したのは、旧来的なエンターテイメント業界のマナーにおいても通用する資質を併せ持っていたからだが、前デュエット作『Cheek To Cheek』の制作時点ではまだまだ奇抜なイメージのほうが先行していたガガのポテンシャルを見い出したトニーの柔軟さも流石だと改めて感じられる。

 1926年8月3日にNYで生まれたトニー・ベネットは、50年にコロムビアからデビューして以来、浮き沈みを経験しながら一線で活躍し続けているポピュラー/ジャズ歌手にして、米ショウビズ界の最長老と言ってもいいレジェンドである。息子ダニーの采配による「MTV Unplugged」出演でリスナー層を広げた90年代には音楽シーンの前線に返り咲き、大御所ながらも幅広い世代に親しまれる存在に。80歳を記念した豪華なデュエット企画盤『Duets: An American Classic』(2006年)がヒットして以降は各界のスターとの手合わせにも積極的に取り組んで新たな黄金期を迎え、ガガとの邂逅“The Lady Is A Tramp”も収めた85歳での『Duets II』(2011年)は全米チャート初登場1位を記録している。90歳を迎えた2016年には、ガガも参加した記念コンサート〈Tony Bennett Celebrates 90〉を開催……そうした歩みのなかでも大きなハイライトとなったのが2014年のデュエット初作『Cheek To Cheek』だったわけだ。