アブストラクトなキャリアを重ねた先、言葉と音を合わせて実現した星空の下の新たな対話――たまらなく胸に迫る名曲集の誕生です!

 この2人それぞれが格別の思い入れを持って愛され続けている存在だということは言うまでもないし、そうでなくてもここ最近のコラボレーションには胸の高鳴りを禁じ得なかったという人も多いだろう。共に90年代に登場して現在も活動を続ける、ラッパー/ビートメイカーのLIBROと、絶世のヴォーカリスト・嶋野百恵。特にLIBROはAMPED MUSICを主宰する傍ら昨年BLACK SWAN入りも果たし、それを転機にPONYMSCといったレーベルメイトはもちろん、今年に入ってからは泉まくら餓鬼レンジャーとも積極的に手合わせしてきた。そんな好調は本人の言葉への意欲にも直結したようで、今年4月の最新ソロ作『拓く人』は全曲でマイクを握るという渾身の内容だったのも記憶に新しい。前作『COMPLETED TUNING』での本人ラップは2曲のみだったことを思えば(さらにその前の『night canoe』はインスト・アルバムだった)、現在の本人のモードも窺えるだろう。

 そして、そのソロ2作で印象的な姿を見せていたのが、98年に“対話”に招いて以来の縁となる嶋野だったのだ。2000年代半ばにかけて名曲をいくつも残しつつ、ここしばらくはマイペースな音楽活動を選んでいる彼女だけに、もったいなくもレコーディング自体が非常に珍しいものになっている。つまり今回登場した『オトアワセ』は、両名がじっくり重ねてきた共演の延長線上で生まれた貴重な結晶というわけだ。

LIBRO,嶋野百恵 オトアワセ AMPED(2015)

 すべてのトラックをLIBROが奏でたアルバムは、ブライトな響きのインスト“これなんて曲”を導入に、彼のラップ曲と嶋野の歌唱曲がまさしく〈対話〉するかのように交互に配されている。LIBROの語りは『拓く人』のムードを受け継いで全体的に明るい印象で、独特の人懐っこい節回しで聴かせるフックの味わいも健在だ。リリカルな“時の鐘”ではスクラッチでDJ BAKUが参加しているのも効果的。

 一方の嶋野はソウルフルなループに呼吸を一体化させ、抽象的なスキャットも泳がせながら艶っぽい声そのものの魅力を妖しく立体化してみせる。ジャジー&メロウな“太陽の心”や、ヤング・ソウル感の漲る“記憶の調律”などに備わったある種の品格を〈90年代マナー〉と形容することもできるだろうが、まやかしなしの心地良いヴァイブは安直な記号化や懐古とはまるで無縁だ。結びはふたたびインストの“探求”で、クールなリズムは2人が次へと向かう足音のよう。その先に彼と、そして彼女のアルバムがあることも期待している。