エグい現実のダークサイドを露悪的に描いてきた危険な男が、刺激的なビートの担い手とジョイントして架空のサウンドトラックを完成。欲望に動かされるまま、現在進行形ではみ出した人生の行方は……

はみ出してしまった人生のオムニバス

 「シャンパン飲んで女とヤリまくってダイヤ光らせていい車乗ってとか、そういうのも歌いたいですけど、自分のヒップホップってそこじゃねえ……みたいな。それをヒップホップとして自分はどうやって手に入れてくかって考えると、常に根底にある人間のエグさが前面に出てしまう俺の思考が自分のスタイルになってった」(DOGMA)。

 不穏な空気を纏うラップ・スタイルと、モラルや良識を踏み越えながら時には不都合な世情までも映しだす路上の歌詞——MSCの下でキャリアを開始したDOGMAは、SATELLITEやSTONEDZといったユニット、さらにはソロと活動の形こそ変われども、ラッパーとして本人が言うところの〈エグさ〉を常なる要素としてきた。初のソロEP『gRASS HOUSE』から4年余り、デジタルEP『DEAD LINE』に続いてふたたび鎖GROUPから放つ新作フル・アルバムでも、その出発点は揺るがず。漢 a.k.a. GAMIやD.O、BES、鬼、RYKEYらへのトラック提供や自作のリリースに加え、近年はエンジニアとしても数々のレコーディングに貢献するLORD 8ERZとのジョイント作となった『DROPOUT SIDING』がそれだ。本作にも収録されている漢 a.k.a. GAMIの曲の改変“ワルノリデキマッテルリミックス”が、2人を共作アルバムへと導くきっかけとなった。

DOGMA,LORD 8ERZ DROPOUT SIDING 鎖GROUP(2019)

 「漢くんのアルバムが出て少し経った頃、“ワルノリデキマッテル”のリミックスをDOGMAにオファーしようって考えてて、ふらっとスタジオ行ったらDOGMAがいたんで(笑)、その場でビート聴かせたらササッとリリック書いてトータルで4~5時間ぐらいでミックス出せる状態まで行って。続けて“獣道”のビートも聴かせて〈こういう感じでできる?〉って注文したらすぐできちゃうくらいラップの精度が高いもんだから俺もおもしろくなっちゃって、あと何曲か作ってEP出そうか?みたいな話をしてたら、遊びに来てたCz Tigerと集まる機会があって“R.E.D”がササッと録れて。そういう自然な流れで出来た曲を始まりにアルバムの雰囲気とストーリーが生まれて、本格的な制作に入った感じっすね」(LORD 8ERZ)。

 ヴィジュアル面を含め、事あるごとにさまざまな形で映画をサンプリングしてきたDOGMAのこだわりは、今回〈架空の映画のサウンドトラック〉というアルバム全体のコンセプトに。「はみ出してしまった人生のオムニバス」をイメージしたというその〈サントラ〉のタイトルは『DROPOUT SIDING』。〈SIDING〉という造語に〈現在進行形ではみ出し者〉という意味を込め、ジャケのデザインでも「人間をコントロールするのは欲望で、その中でもがいてる様子を表現した」(DOGMA)という。

 「〈闇〉とか〈ドープ〉とか〈リアル〉とか、いつもと同じテーマを同じやり方で作ってもおもしろくないんで、常に聴く人を裏切っていきたいって気持ちがあって、自分の方向がブレない新たなテーマが欲しかった。〈あくまでもこの物語の主役はあなた〉みたいな——それが存在しない映画のサントラってコンセプトでしたね」(DOGMA)。

 

答えはこういう感じ

 〈通り魔感覚切り裂くフルフェイス/傷口からいたぶる弱点〉のラインが耳に飛び込んでくる漢 & D.Oとの“FAILED ESCAPE / DROPOUT SIDING”。〈戻る方の道もねえよ/行き止まりはいつも通り〉と欲にまみれた街で生き残りをかける“獣道”。そして“狡猾の眼”に“ワルノリデキマッテルリミックス”と、冷徹な視線と表情を緩めぬDOGMAの真骨頂ともいうべきラップでアルバムの序盤を飾る一方、Cz TIGER、PETZ、JNKMN、T2K、GOODMOODGOKUと、客演勢との楽曲群を交えた中盤以降は、ラップのフロウやテンション、ビートのカラーにもより広がりが感じられる。

 「身の回りの出来事を曲やスキットに入れるのはもちろんなんだけど、黒い部分ばかりだと飽きるんで、フィーチャリング曲は同じ〈闇〉でもドロドロしたくなくて、〈俺も遊んでる時の雰囲気はこうだよ!〉って共感も大事にしたかった。そういう人間的な部分も含めて、全部〈サントラ〉っていうカテゴリーの中で一つの味になればいいかなと思ってましたね」(DOGMA)。

 なかでもDOGMAとMonyHorseがそれぞれ描写する一日をLIBROのサビがポジティヴに包む“Today”は、DOGMA言うところのいい〈裏切り〉がある曲と言えよう。

 「DOGMAが最初に書いてきたヴァースはポジティヴどころか怖すぎて(笑)書き直しすことになるんだけど、それを聴いてLIBRO君が書いたフックは、もともとの悪魔的なヴァースがなければ生まれなかったもので。MonyはMonyでDOGMAをなだめるようなリリックを書いてきて、2人のポジティヴなリリックを聴いて書き直してきたDOGMAのヴァースもめちゃくちゃカッコ良くて。最初はこの曲どうなっちゃうんだ?って不安しかなかったけど(笑)、結果的にすごく自然な流れで、ある意味自分も裏切られて出来た曲だと思います」(LORD 8ERZ)。

 「自分の一日はこういう時もある、悪いことばかり重なっていいことなんか一瞬……なんてよくある話。落ちてる時、悩んでる奴に今日一日こうしていこうぜみたいな感じで、ポンと友達の肩を叩くような曲を書いてもらっていいかな?みたいなことをMonyに言ったのが始まり。それで俺は地元のことを書いたんですけど、なんか対極の世界観にいる俺とMonyがこういうテーマで曲を書くとこういうハマり方するんだなっていう新たな発見がおもしろかった」(DOGMA)。

 「曲の雰囲気を打ち合わせてトラック作って、録ってみてちょっと違えなってなったら作り直すっていうのの繰り返しでお互いしっくり来るまで作り上げていった」というLORD 8ERZの言葉に、DOGMAも「サントラとして画が見えるように、映像が浮かぶように練り込んだ曲が多いですね」と応じるアルバムの制作にあって、3つあるスキットも例外ではない。コーエン兄弟のあのネタだったり、山本政志のあの映画のあのネタだったり、そこにもDOGMAなりの映画への偏愛ぶりが隠れている。

 「スキットの要所要所、映画からサンプリングして自分の出来事にはめたり、自分が好きな映画の口調にして遊んだり、いろんなネタを放り込んでるんで、一つでも多く気付いてもらえたら、そのぶん楽しんでもらえるんじゃないかな」(DOGMA)。

 『DROPOUT SIDING』として完成を見た今回のアルバムについて、2人は重ねてこう語る。

 「一筋縄じゃいかないっていうか、ひとつひとつ引っ掛かる曲の多い〈サントラ〉が出来た。俺にはMSCのラップがすべてで、0-100でそれしかないっていう固定観念があったんですよね。自分の才能を広げたいって思っても、歌えないのに歌うのも違うし、オートチューンとかもってのほかだし……そんな、いままでうまくいかなかったところの答えは今回のアルバムで出せたと思いますね。自分の新しいフロウもこれならハマるかもとか、こういうビートの打ち方だったら空間が生まれてハマるかもとか、そういう新たな発見が多かった。好き勝手するヒップホップの中で出した自分の答えはこういう感じ。こんなはみ出し者でもこういうラップできるんだぜ!って」(DOGMA)。

 「基本的にいままではサラッと自然な流れで出来るのがいい曲になる感覚だったんだけど、今回はそういう曲と作り込んだ曲がちょうど半々くらい入ってるので、内容の濃い、聴き応えのある仕上がりになったと思います」(LORD 8ERZ)。

DOGMAの参加した作品を一部紹介。

 

『DROPOUT SIDING』参加アーティストの関連作を一部紹介。

 

LORD 8ERZの関連作を一部紹介。