©cherry chill will.

7年半ぶり、ヒップホップの名の下にまたしても至高のソロ・アルバムが完成。強靭なビートと圧倒的なラップの濃厚な交流は新しい熱を生み出していて……

 THA BLUE HERBの2019年作『THA BLUE HERB』を作り終えた時点で、今回のニュー・アルバム『IN THE NAME OF HIPHOP II』の構想に入っていたと語るtha BOSS。その間にはYOU THE ROCK★『WILL NEVER DIE』のプロデュースを手掛け、dj hondaとのタッグ作『KINGS CROSS』も発表したが、それらの制作期間も本作のプロジェクトは同時進行していたそうだ。〈コラボを楽しむこと〉がソロ作を作るときの一貫した姿勢だと話すように、確かに本作にはコラボ相手との友好的なムード、リラックスした雰囲気が漂っている。

tha BOSS 『IN THE NAME OF HIPHOP II』 THA BLUE HERB RECORDINGS(2023)

 

いつもの距離感が出た

――前作『IN THE NAME OF HIPHOP』(2015年)は初作ということもあってか、コラボに対する緊張感や気合いが滲んでいたように思います。今回は和らいだ雰囲気が感じられました。

「言われてみればそうかもしれない。2作目だしね。ただ、みんな実力者だから制作中にはヒリヒリ感もあるけど、それが作品の全般に出てしまうのはプロじゃない。あと、dj hondaさんとの制作の反動もあるかもしれない。hondaさんとは完全に1対1だったし、大先輩だし、俺のほうの緊張感が凄かったからね」

――ゲストMC陣の選定はどのように?

「YOU THE ROCK★は『WILL NEVER DIE』を作っている時点で、〈次はこういう曲をやりたいんだ〉って話をしていた。ZORNは、“Life Story”の続きで、自分のアルバムにも参加してもらいたかった」

――ZORNとの“LETTER 4 BETTER”のテーマは、塀を挟んだ友情ですか。

「俺は塀の中にいる仲間への気持ちを書くから、ZORNには塀の中からの気持ちを書いてくれって。一般社会で生きていても何かに囚われることは大いにあるわけだから、ストラグルについて書こうと。俺はストラグルしている人に向けて書いて、ZORNはストラグルしている立場から世界が広がっていく過程を書いてくれた」

――SHINGO★西成との“SOMEDAY”は、SHINGOの地元・西成で撮影されたMVが公開されました。

「SHINGOは大阪に行ったら必ず遊ぶ仲。あと、やはり唯一無二のラッパーだから。東京勢だけでゲストを固めるんじゃなくて、ああいう関西のズルムケたスタイルと俺のスタイルを混ぜて曲を作ってみたいなと昔から思ってた」

――三重県四日市を拠点にするJEVAの参加は意外でした。

「そうかもしれないね。ビートメイカーのYotaroもそうだけど、〈こんなに格好良い人がいるんだぜ〉みたいな気持ちがあって。JEVAは名古屋に行くと俺らの前にライヴをやってくれたり、そういう繋がりからだね。実際JEVAは曲もめっちゃオリジナルだし、とてもユニークなスタイルを持ってる」

――ゲスト陣で最注目は、“STARTING OVER”に参加したMummy-Dです。

「Dくんとはそれこそ20年以上、俺のキャリアのすべての時間をかけて、少しずつ距離を縮めてきていたんだ。まず事態が大きく動いたのが〈Sunset Live 2016〉でRHYMESTERとTHA BLUE HERBが一緒になった時。その後、2020年の秋くらいにカメラマンのcherry chill will.が間に入って一席設けてくれて飲んだんだ。で、飲み終わる頃にはもう〈やろうよ〉って話が付いてた」

――THA BLUE HERBの“TRAINING DAYS”(2019年)で、RHYMESTER“耳ヲ貸スベキ”のMummy-Dのフレーズ〈北の地下深く技磨くライマー〉を声ネタとして入れていました。今回の共演はその伏線回収という意味もありますか?

「距離を縮める過程として、“TRAINING DAYS”は決定的だったと思う。伏線回収という意味では、むしろ、今回Dくんがそれをリリックに入れてきて〈そう来たか!〉って感じだった」

――Mummy-Dのヴァースが〈北の地下深く技磨くライマー〉から始まるんですよね。

「みんな自分のいる状況は何気に判断できるじゃん。Dくんだって、自分が昔からいろいろあった相手のアルバムに呼ばれて、どういうことを期待されていて、どこを突けばお客さんを楽しませられるのかわかってる。その感度がある種、韻を踏むこととはまた違うラッパーのスキルだし、その意味でDくんはこれ以上ない入り方をしてくれたね。テンションが上がったし、何よりいい曲になって良かった」

――その“STARTING OVER”の歌詞テーマは?

「その渋谷での飲み会に向かうときの気持ちを曲にしようと伝えたんだ。〈俺、今日すごくワクワクしてきたんだよ、ここに〉って。Dくんも〈俺もだよ〉ってめっちゃ盛り上がって飲んでて。それで俺が先にヴァースを書いて送ったんです」

――ゲストを迎えた曲のいくつかでは、相手との会話を曲中に挿入しているのも印象的でした。

「二人の空気感を入れたかったし、YOUちゃん、SHINGO、Dくんに関しては同年代だから、自然といつもの距離感が出たんだと思う。曲を作ってるうちに自然と会話を入れたんだよね。逆に言えばZORNやJEVAとの感じも、年が離れてるがゆえの緊張感もある、いつもの俺たちの距離感なんだ」