言葉の強度と音の濃度を探求しながら、時代のムードと自身のモードをアジャストしてきたLIBRO。より自由に拓かれたスピリットをサウンドに託して放つ最高傑作がここに到着!

自分の中での新しさへ

 デビュー・シングル“軌跡”(97年)~知る人ぞ知るクラシック『胎動』(98年)を世に出してから実に20年余り。ラップに集まる期待をよそに、音作りのほうへより軸足を移して以降、表立ったリリースも途絶えていた2000年代のLIBROには、マイクを置いたかに見えた時期もあった。その当時を振り返って彼は言う。

 「音楽への気持ちは途切れることなくあったんですけど、新しいもの新しいものって追っかけていくと、そういうものがどんどんなくなっていく。若い頃はホント、〈世の中的に新しいこと〉だけが新しいと思ってたので、(ラップのアイデアも)尽きちゃったんですよ、何か。だから自分がラップしたり歌ったりするのを辞めてた時期があって。それでも周りにやれ、やれって言われてたのがけっこう大変で、この煮え切らない感じでやるのは周りにも失礼だし、いったん辞めたって言ってるほうが周りにも言われないかなと思って、普通に逃亡しかけてました」。

 そんなLIBROにふたたびマイクを握らせたのは、それでもやはり何より彼をラッパーとして認める周囲の存在であり、他ならぬ彼自身が取り戻した意欲だった。2014年の『COMPLETED TUNING』を境に、堰を切ったようにさまざまな形でリリースを重ねる一方、トラックメイカーとしても活動を広げる彼に、かつてのモヤモヤはない。そして、〈新しさ〉は〈己の中の創造力〉にこそ見い出すものと悟ったいま、彼の作品は素直に自分が鳴らしたい音楽、いままで自分が鳴らしたことのない音楽への興味に向かっている。その姿は近作のタイトルさながら、まさに〈拓く人〉。いまではラップの世界でもすっかり主流となったメロディアスなスタイルと、叙情性溢れる歌詞の表現力を、それこそ20年以上前から見せてきたLIBROの姿もまた、その言葉に決して違わないし、また時代から早すぎたとも言える。今回リリースするニュー・アルバム『SOUND SPIRIT』(=言霊ならぬ〈音霊〉の意)は、そうした彼がさらに一歩歌へと踏み込んだ、パフォーマーとしての〈拓き〉を見る一枚だ。

 

自分のオリジナルな部分

LIBRO SOUND SPIRIT AMPED MUSIC(2018)

 当初は頭になかったという本作での試みは、近年彼が水面下で進める歌モノへの取り組み、とりわけDJ BAKUとの交流にも背中を押されたもののよう。

 「誰かに提供したいなと思って、歌モノの曲もけっこう作ってて、BAKU君にも〈いい歌い手がいたら、何か一緒にやれたらいいですね〉なんて言って、軽くシンガー探したり、デモとか作ってたりもしてたんですよ。でもイメージ通りにするっていうのが難しくて、BAKU君にも〈LIBRO君が乗せてるこの感じがいちばんいいから難しいよね〉って言われて。それが時間かかりそうだったんで、自分がやんなきゃなっていうのもあったし、逆に今後そういうのにも繋がりやすいかなっていうのもあった。歌寄りのスタイルが自分のいちばんオリジナルな部分だと思いつつ、いままで出し切れてなかった部分もあったから、これまで歌とラップを3:7でやってたのを逆転させて、7:3ぐらいの感じで勇気をもってやってみようかなと(笑)」。

 いい意味でラッパーにもシンガーにもなりきらないLIBROの節回しの耳触りの良さはDJ BAKUが彼にも告げた通り。その一方、生音をいつも以上に交えつつも、サンプリングをベースとした音作りは不変だ。温もり溢れる持ち前のソウルフルなトラックメイクは、曲ごとに情感を描き出し、アルバムの幕開け“Adjust”から揺るぎない。先方のアルバムでの共演のいわばお返しに今度はLIBRO側からオファーしたEVISBEATSと、これまた最新作へのトラック提供が縁となったサイプレス上野、そして先述の『COMPLETED TUNING』収録曲“マイクロフォンコントローラー”以来交流の続いているMEGA-Gが、それぞれ客演でアルバムに彩りを加えている。

 「EVIS君は前にやらせてもらったんで必ず入ってもらうって決めてて。普段は連絡取りにくいんだけど、ミックス・チェックのレスポンスはめっちゃ早くて、〈この周波数あたりはこうで〉って超具体的に指示が来てすごく感動したし、端々にすごく職人っぽかった。上野君はラップを一聴して顔が浮かぶっていうか(笑)、絶対暗い気分にならないから今回のアルバムにいいなと思ったし、MEGA-Gは“マイクロフォンコントローラー”で最高の仕事してくれて、その後も一緒に曲をやってるんで。みんな期待通りにやってくれましたね」。

 

必要な人に言葉が入っていけばいい

 〈現実 心の地図行ったり来たり/綱渡りするコマの軸〉と歌う“Adjust”、〈散りばめられた輝き もう一度集めて/僕らの夢 思いを束ね時代をめぐる〉という一行に彼のメロディーと曲が弾け、聴く者を揺さぶる“Again And Again”、あるいは〈また踏み出してこう/繰り返しでも振り出しじゃない〉の一節に実感がこもる“とめない歩み”――「やっぱりいまがいちばんだし、いまのことをどかしては何にも言えない」とLIBROが話す通り、「自分の本流のところからズレずに、ちょっと表現方法を変えていった」というリリックの端々には、回り道を経てここに至った現在の彼が重なって見える。しかし、その歌の世界は決して彼の道程にのみ回収されるものではなく、聴く人それぞれ――例えば、彼言うところの〈何かと戦ってる人〉――と響き合うものに違いない。「極端に言えば、最初は音として聴いてもらっていいぐらいの感じで、言葉は後々その時その時の気分でジワジワ意味がわかるなって思ってくれたらいい」とLIBROが話すのもそういうことだろう。収録曲“空 -kuu-”のリリックを借りて言えば、彼の音楽は〈人と人の間 優しく流れて/あるべきところに帰ってく〉ものなのだ。

 「似た者同士じゃないけど、そういう人はけっこういるんじゃないかと思ってて、その塩梅がうまくピント合えばなって感じ。〈どんだけ落ち込んでても、自分がまたがんばるっていうのはわかってんじゃん?〉っていう、そのへんのテーマはずっと一緒なんで、流れるようにメロディーが入っていって、必要な人に言葉が入っていくような感じになれればいい。〈全然無理してないのがメッセージ〉っていうか、〈みんなが忘れてるだけのこと〉とか、〈思い出せるよね〉ってこと、〈実は最初からわかってること〉っていうものだったら、みんなが応援できるじゃないですか。それで日常が充実するっていうか、噛みしめられたらなって思う」。

 みずから「過去最高」と笑顔で話すアルバムを完成させ、あとは「己の中の過去最高を更新していくだけ」と語るLIBROはいま、とても晴れやか。ふたたび溢れ出るその気持ちが、彼の音楽をますます解放していく。

 

LIBROが制作やラップで参加した作品を一部紹介。

 

LIBROの参加した近作を紹介。