「僕自身はまったく何も変わってないです。以前から一貫して自分が作りたいと思った物を作っているつもりだし、これからも多分そうだと思います。もちろん表面的な音としては幅が出てくるとは思いますが、根源的な気持ちとしてはその一点です。ただ、周りの環境は大きく変わりました。始めた頃は死ぬか/音楽をとるかで、音楽をとって始めたくらいなので本当に一人だったけど、いまではいろんな人が仕事のお話をくれたり、全然違う音楽を聴いてた人が僕の曲にハマってくれたり、そういう変化は何だか不思議ですね」。

 本人はそう語るものの、今年に入ってからのbanvoxはそれまでの印象に輪をかけて、いよいよヤバい。振り返れば、Maltine発の『Intense Electro Disco』(2011年)、そしてティム・ヒーリーに認められて海外リリースも実現した『Instinct Dazzling Starlight』(2012年)は、〈国産エレクトロEDMの新星〉という彼のイメージを急速に構築した話題作だった。が、それが一面的なものだったことは、年頭からの配信シングルで見せた変容の鮮やかさにも明白だ。とりわけ、Layarsの煌びやかな歌唱とハウシーに並走する“Love Strong”、そして明滅するフューチャー・ベースの奔流にKLPの美声が浮かぶ“Watch Me Dance”の恐るべき美しさは、多くの受け手が抱いていたであろう〈banvox像〉をとてつもなく心地良い裏切りと共に更新したに違いない。この進化は、(構想は以前からあったものの)リミックスやプロデュース仕事、イヴェント出演などに費やす時間が急増した昨年の経験から導かれたものだという。

  「すでに持っていたスキルがリミックス仕事などでさらに洗練され、そのうえ10月には音楽のお仕事でアムステルダムやベルリンに連れて行っていただき、いろいろな物に触れて、2013年は本当に良い〈充電期間〉でした。この期間があったからこそ“Love Strong”と“Watch Me Dance”という最高の作品が完成したと思っていて、いままででいちばん力の入った2曲だと思っています。だからこそ、より多くの人に聴いてもらいたい気持ちがいちばん強いです」。

そんな約3年間の軌跡は、このたび登場する初のCD作品『Watch Me Dance』からも如実に立ち上がってくる。これまで発表された楽曲から選りすぐられた11の名曲を聴けば、エッジーなディストーション・ディスコからドラムステップにまで歩を進める初期のクリエイションも、「僕はとにかく自分の曲にこだわりが強く自分の曲が大好きなので、他の人が加わるのに抵抗がすごいありました」という段階からのチャレンジが実を結んだ先述のコラボレーション群も、自由な気風と〈声〉へのこだわり(ちなみに、当初“Love Strong”は男性ヴォーカルを想定して作っていたのだとか!)で一貫されていることがわかるし、彼自身の視野の広がりに伴ってアレンジや機能性がグングン拡張されていることもわかる。その最新型となる唯一の新曲“Real Deal”も、例えばウェイヴ・レーサーを引き合いに出したくなるような幻惑ムードの名曲だ。

banvox Watch Me Dance KSR(2014)

  「『Instinct Dazzling Starlight』までの作品は、クラブにあまり行かない人が家で聴く音楽ではなかったと思います。せっかく作るからには、より多くの人に聴いてほしい/プレイされてほしいと思っていたので、家でもクラブでもプレイできる曲を意識して作りました。“Watch Me Dance”はこの前、初めて大阪の名村造船所跡地でプレイしたのですが、〈イヤホンや普通のスピーカーでは聴こえないけど、大きい所で聴くと凄い〉と言う僕の狙い通りに音が鳴っていて、本当に嬉しかったです。“Real Deal”も同じようなシチュエーションを意識して作りました」。

 遅かれ早かれより多くの耳を惹き付けるであろうbanvox。その最初期の名曲集として、この『Watch Me Dance』が存分に楽しまれんことを。

 

▼banvoxの参加した一部作品

左から、フォーリン・ベガーズの2012年作『The Uprising』(Mau5trap/KSR)、Negiccoの2013年作『Melody Palette』(T-Palette)、東京女子流とMaltineのコラボ集『Maltine Girls Wave』(avex trax)

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