〈奇跡の7分間〉に向かって2クールを完走した音楽アニメ「キャロル&チューズデイ」。劇中を彩った珠玉の楽曲と美麗な映像の数々を、ここで改めて振り返ってみよう
「カウボーイビバップ」「サムライチャンプルー」の渡辺信一郎が総監督を務め、近未来の火星を舞台に音楽活動を行う二人の少女の軌跡を描いたアニメ作品「キャロル&チューズデイ」。主役の歌唱担当シンガーを決めるために全世界オーディションを実施、劇中歌はすべて外国語詞で制作、ベニー・シングス、Cornelius、フライング・ロータスら国内外のビッグネームが楽曲を提供し、ささやかながら味わい深いサントラにはモッキーを起用と、日本のアニメ人気が高まっている海外市場をも見据えたであろう、ワールドワイドな展開が大きな話題を呼びました。
もちろん、そういった枠組みの豪華さだけではなく、物語のうえでも音楽そのものの素晴らしさをしっかりと描いているのが、すべてのミュージック・ラヴァーに本作の視聴をオススメしたい理由のひとつ。地球の施設で生まれ育ち、移民として火星に渡ってきたキャロル、そして火星の大統領候補を母に持ち、家庭内での孤独に苛まれて家出したチューズデイ。それぞれ境遇は違えども、お互いミュージシャンになることを夢みていた17歳の二人が、偶然の出会いからコンビを組み、AIがカルチャーを形作る時代の流れに逆らうように、自分たちらしい音楽を生演奏で届けるその姿からは、音楽に対するまっすぐな想いが伝わってきます。
そして彼女たちの等身大の歌はやがて、火星の歴史に刻まれることとなった〈奇跡の7分間〉を起こすことに。劇中では二人の成長物語と並行して、エンターテイメント業界の光と影、政治的な陰謀、移民問題といった現実ともリンクするような出来事が描かれますが、本作は、そんな世界において音楽ができること、音楽が持っている力と可能性について提示してくれます。それはやや理想論かもしれませんが、このアニメ自体、世界中のアーティストの協力を得て作り上げられたものであることを考えると、まったくの絵空事とは言えないはず。「キャロル&チューズデイ」の音楽と映像が紡ぐ奇跡を、あなたもぜひ体感してください。 *流星さとる
ワールドワイドな作家陣が参加した挿入歌アルバムの第2弾も登場! 楽曲を寄せたアーティストからのコメントも!
スタイリッシュな音楽使いに定評のある渡辺信一郎監督が、17歳の女の子によるアコースティック・デュオ、キャロル&チューズデイを中心に〈音楽〉そのものを題材として制作したTVアニメ「キャロル&チューズデイ」。その挿入歌コンピの第2弾『CAROLE & TUESDAY VOCAL COLLECTION Vol.2』がいよいよ登場。第1弾と同じく錚々たる面々が劇中のミュージシャンに楽曲を寄せている。
まずキャロル(歌唱:ナイ・ブリックス)とチューズデイ(歌唱:セレイナ・アン)の好敵手であるアンジェラ(歌唱:Alisa)の歌う楽曲としては、アリソン・ワンダーランドやスティーヴ・アオキ、モグアイらが送ったEDMポップ“Breathe Again”“LIGHTS GO OUT”が。いずれもキュート&昂揚感たっぷりにスターへの階段を駆け上がる彼女の姿を感じ取れる楽曲だが、その一方で、D.A.N.やヴァクシーンズのジャスティン・ヤングらはアトモスフェリックに沈む“Endless”、神聖な雰囲気を湛えたミディアム“The Tower”で当人の脆い一面も垣間見せる。強さと弱さを繊細に表現するAlisaの歌唱も素晴らしい。
さらに、かつて絶大な人気を誇った歌姫のフローラ(歌唱:ジェシカ・カルポフ)のソウルフルなヴォーカルに惹き込まれる“Give You The World”やbanvox製のフューチャー・ベースがアーティガンの華々しいDJスタイルを体現する“Take Me Now”などが各キャラクターを際立たせるなか、ひときわ強い個性を放っているのが、マーカー・スターリングがヴォーカルを担うデズモンドの2曲だ。ジェンダーレスな魅力を湛える伝説的なアーティストが歌うのは、作詞をLEO今井、作/編曲を梅林太郎(milk)、ミックスをzAkを担当した“Miserere mei, Deus”とyahyelが手掛けた“All I See”で、前者は柔らかな響きをたなびかせる静謐なピアノの弾き語り、後者は内なるエモーションを厳かに解き放つスモーキーなエレクトロニック・ソウル。いずれもデズモンドの持つ神秘性を如実に映し出している。
そして、主役のキャロル&チューズデイ。アンデイ・プラッツ(ママズ・ガン/ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス)、エヴァン・ボガート&ジャスティン・グレイによるプロデューサー・コンビ、cero、アイリック・ボー(キングス・オブ・コンビニエンス)、アトランタを拠点とするクリエイターのセンセイ・ブエノ、アイザック・グレイシー、ティム・ライス・オクスリー(キーン)……と、多くの作家陣が彼女たちのナチュラルな佇まいとフレッシュな歌声を活かした楽曲を提供。とびきりサニーなギター・ポップ“Beautiful Breakdown”から、〈祈り〉を音楽として鳴らしたスロウ“Lay It All On Me”まで、ヴァリエーション豊かなナンバーが二人のさまざまな表情を引き出している。
そうした全19曲を締め括るのは、舞台となる火星の政情の大きなうねりのなかで〈音楽の在り方〉を改めて示すゴスペルの如きアンセム“Mother”。VOICES FROM MARS名義である同曲は、物語の冒頭から言及されていた〈奇跡の7分間〉を表現した一曲で、歌い手として〈第1クール〉を含めた火星の主要シンガーたちが集結。その壮麗なマイク回しと、大いなる安らぎに包み込むような慈愛に満ちた歌世界には、物語を知らずとも心が震えること必至だろう。通して聴いた後には淡い幸福感が残る、〈アルバム〉として堪能してほしい一枚だ。 *土田真弓
cero
優河とのコンビ曲、いつかはブートレグも!?
「ceroとしては初めてのアニメーション作品への楽曲提供でしたが、のびのびとやらせていただき、とても楽しかったです」――そう語るのは、同バンドのフロントマンである髙城晶平。彼らが担当したのは、アコギとキーボードのデュオであるキャロル&チューズデイがバンド・スタイルで出演した〈SXSW〉のステージで演奏する“Day By Day”だ。清涼感のあるハミングと、日々を慈しむように丁寧な歌唱を聴かせる二人の歌声がオーガニックなグルーヴと溶け合って、心地良い風に吹かれているような感覚を運んでくる。さりげなく挿入された口笛も、そのリラクシンなムードに拍車をかける小粋な一曲だ。
「主人公2人のアコギと鍵盤を軸にアレンジを考えていきました。英語詞ということで、友人である音楽家の優河さんにご協力いただいたのですが、彼女が吹き込んでくれた仮歌がまた素晴らしかったので、いつかブートレグみたいな感じであれが世に出たらいいなあ!」。
何と、それは素通りできない発言。cero feat. 優河ヴァージョンの“Day By Day”も、ぜひどこかのタイミングで披露されることを期待したいものだ。 *土田真弓
ceroの2018年作『POLY LIFE MULTI SOUL』(KAKUBARHYTHM)
D.A.N.
映像と音楽がバッチリとハマったときの感動を
渡辺信一郎監督が過去作「サムライチャンプルー」においてFORCE OF NATUREやファット・ジョンらを起用したことを考えると、クラブ・ミュージックを独自の解釈で消化したサウンドを奏でるD.A.N.を「キャロル&チューズデイ」に招聘したのも監督の嗜好が垣間見える納得の采配かもしれない。そしてD.A.N.もまた、渡辺作品からフィードバックを得た旨を語っており、相思相愛の理想的なコラボレーションが実現したと言えるだろう。
「渡辺監督の作品は、『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』などが好きでよく観ていました。キャラクターのカッコ良さはもちろんですが、映像と音楽がバッチリとハマったときの感動というのは、渡辺監督の作品を見て学んだ部分が多くあります。『キャロル&チューズデイ』は、渡辺監督の音楽やアーティストに対する深いリスペクトを感じる、唯一無二な作品になっていると思いました」(川上輝、ドラムス:以下同)。
D.A.N.が作/編曲を手掛けたのは、キャロルとチューズデイのライヴァル的な存在であるアンジェラが歌う“Endless”。ブリストル・サウンドを彷彿とさせる、美しくもメランコリックなダウンテンポのナンバーだ。制作にあたってどのようなオーダーがあったのか、サウンドメイクやアレンジで特にこだわったところを問うと「〈自分たちらしく好きにやってほしい〉と言っていただいたので、そこを意識して制作しました。映像がない状態だったので、曲がどのように使われるのかイメージするのは難しかったです」とのこと。楽曲の後半でベース・ミュージック的なエモーショナルなパートに突入するアクロバティックな展開も含めて、D.A.N.自身の作品と地続きで繋がるサウンドが構築されているが、そんなD.A.N.そのもののナンバーを、アンジェラ=Alisaが歌うことで『キャロル&チューズデイ』の世界に手繰り寄せているところが興味深い。
“Endless”は『キャロル&チューズデイ』において、アンジェラの重大な局面で披露されるわけだが……このアンジェラというキャラクターについてD.A.N.は「作品を通じて孤独を感じました。その孤独が魅力なのかもしれません」とコメント。どこまでもD.A.N.らしく、かつシンガー/アーティストとしてのアンジェラの在りようを見事に体現した稀代の楽曲をご堪能あれ。 *澤田大輔
D.A.N.の2018年作『Sonatine』(SSWB/BAYON PRODUCTION)
ANDY PLATTS
音楽家として夢を実現させる物語に興奮! 主役の二人の声が光輝くようシンプルな楽曲に
ヒロインであるキャロルとチューズデイのデビュー曲“Army Of Two”を手掛けたのは、ソウル・ポップ・バンドのママズ・ガンやAORユニットのヤング・ガン・シルヴァー・フォックスで活躍するアンディ・プラッツ。気鋭のミュージシャンが多く寄与する「キャロル&チューズデイ」への参加に至ったことについて、彼はこう語る。
「日本には特に素晴らしいTVアニメや劇場アニメを生み出してきた豊富な歴史があることを考えると、『キャロル&チューズデイ』に音楽の側面から関わることができ光栄に思います。SF的な要素や設定を織り交ぜつつ、ミュージシャンとして夢を実現させる物語であると気付いたときには、とても興奮しました」。
アンディのペンによる“Army Of Two”は爽やかな風が吹き込むようなフォーキーなナンバー。この曲の制作においては、渡辺信一郎監督のお気に入りナンバーがリファレンスとなったのだとか。
「“Army Of Two”というタイトルがすぐに思い付き、1日で歌は書き上げました。私がヤング・ガン・シルヴァー・フォックスのためにショーン・リーと一緒に書いた“Midnight In Richmond”が好きだとプロデューサーが言っていたため、大きな方向性としてですが、その曲を音楽的な指針としました。 全体的にキャロルとチューズデイの声が曲全体で光輝くように、シンプルで整理された状態にしておきたいと思いました」。
また同曲は、キャロルとチューズデイが街頭で歌うヴァージョン“Army Of Two Street Scene”も存在するのだが、物語に沿ったこのヴァージョンのサウンドを構築するために大いに腐心したという。
「〈ストリート・シーン・ヴァージョン〉では、正解に辿り着くために二度の試みを必要としました。 最終的には、見物人の大声と拍手で彩られた、ラフで生のストリート・レコーディングのヴァイブスを作り上げることにしました。音楽コンテンツとシーンの文脈と小さな効果音の追加とのバランスをとるのは困難でしたが、最終的には正解に到達することができた、と自分では思っています!」。
そんな“Army Of Two”を書き下ろすにあたっていちばんのインスピレーションとなったのは、何よりもキャロル&チューズデイのキャラクターとしての魅力のようだ。
「対照的な二人の主人公は音楽コンビとしてフィットしていました。 彼女たちが異なる人生(裕福さ/貧しさなど)を経ているという事実は、キャラクターに本物の深みを与え、多くのことを引き出すことができます。チューズデイの柔軟性とキャロルの強さは完璧なコンビネーションであり、互いに持っていない何かを与え合うことができる。それはキャロルとチューズデイの音楽性にも直接影響を与えていたということが、“Army Of Two”を作曲していた私にとっては重要でした」。 *澤田大輔
左から、ママズ・ガンの2018年作『Golden Days』(Candelion)、ヤング・ガン・シルヴァー・フォックスの2018年作『AM Waves』(Legere/Pヴァイン)
