肩肘張らず、ユーモアたっぷりにラップで遊ぶのが2016年のTOKYOスタイル?
オマケじゃ終わらない4人組のグッドなヴァイブレーションでイケばいいじゃない!
ユルいつもりはなかった
多摩美術大学の同級生4人で2010年に活動を開始したTOKYO HEALTH CLUB(以下、THC)。メンバーのTSUBAME(DJ/トラックメイカー)が主宰するレーベル=OMAKE CLUBから配信したフリー楽曲を皮切りに、これまでに2枚のアルバムをリリース。昨年はSEX山口による初の公式ミックスCDへの楽曲収録や、J-WAVEのキャンペーンCM曲への抜擢、サンリオピューロランドと〈TAICOCLUB〉が共催したイヴェントやDOMMUNEへも出演を果たすなど、俄然周囲が騒がしくなってきた。
結成のそもそものきっかけは、SIKK-O(MC)が酒の席でのノリで、TSUBAMEの作ったビートにラップを乗せたことだという。そこに、当初はベースでライヴに参加していたJYAJIEがMCとして加わり、さらにフィーチャリングで参加していたDULLBOY(MC)をグループに引き込む形で、現在の3MC1DJという体制になった。大学在学中はDEXPISTOLSが率いたROC TRAXに所属し、エレクトロDJユニットのMYSSとしてアルバムを残すなど、「4つ打ち文脈(の音楽)しかやってこなかった」と話すTSUBAMEと、YouTubeで観たMCバトルで初めてラップに興味を持ったSIKK-O、メンバー随一のヒップホップ好きで海外の作品を含め幅広く愛聴するJYAJIE、スチャダラパーの『偶然のアルバム』を足掛かりにUSのラップまで聴き進めたというDULLBOY。ヒップホップに対する興味や理解もバラバラな4人が織りなす音楽はどこか懐かしく、楽しい。そこには、JYAJIEいわく「90年代から2000年代くらいまでがベース」という彼らのヒップホップ観が映っている。
「時代的には(いまのヒップホップに)ついていけてない(笑)。むしろ昔に戻ってる感じかもしんないけど、逆にそれがいいとも思いつつやってます」(SIKK-O)。
「育ってきた時代が90年代だから、その時代のものが肌に合っていて自然と心地良い、っていう感覚はメンバーに共通していると思う」(JYAJIE)。
今年4月より新しく籍を置くManhattanから、約2年ぶりに発表するニュー・アルバム『VIBRATION』は、そうしたTHCの持ち味をクォリティー高く突き詰めた一作。音響面の向上を含め、より恵まれた環境で制作は進められた。
「自主制作で出している時は自己完結できる代わりにローファイで、自分たちで遊べればいいっていう感覚だったかもしれないですね。今作はハイファイに進化して、それをより多くの人に聴いてもらえるように完成度を高めていきました」(TSUBAME)。
「これまでも自分たちでユルいことをしてるつもりはまったくなかったんですけど、それでも周囲からは〈ユルい〉って言われたんで。俺たちが熱い魂を込めたら、人々にとってやっとちょうどいいぐらいの温度になるのかもしれない(笑)」(SIKK-O)。
「〈わかりやすさ〉は最初から(グループとして)重要視していたけれど、今回音質のクォリティーが上がったことでさらに伝わりやすくなっていると思います。今作では特に、ライヴで楽しくできる曲、ライヴでおもしろく遊べる武器を作りたいなっていう意識もありました」(DULLBOY)。
全編通してギャグなんです
よりシンプルにそぎ落としたトラックに、タイトさを増したラップ・リレーで応える内容は、「脳から汁が出るんじゃないかぐらい」(SIKK-O)の意欲で向かった制作の成果。急き立てるビートに小気味良くマイクを回していく“VIBRATION - INTRO”から、メロウなトラックに繋いで個々のキャラを際立たせる“VIBRATION 弱”へと続く幕開けは、それを対照的な曲調で示している。「メンバー間でも妥協せずに、互いに突っ込むとこは突っ込んで詰めていった」(JYAJIE)という曲作りにあってなお彼らが軽やかさを失わないのは、その底に常に〈笑い〉があるからかもしれない。グループの歩みやあり方が透けて見えるラインも印象的な“天竺”や“ミュージック”、休日の三者三様を軽快なオケに乗せた“休日はHOLIDAY”などに挟まって、自分たちをファッショナブルに演出し、オチでさらりとひっくり返す“オシャレ”は、その笑いの要素が垣間見える一曲。そんなTHCにヒップホップ・シーンでいち早く反応し、みずからの曲(本作にも収録の“ズラカル”)に彼らを迎えたのがMACKA-CHINだったのも頷ける。
「あまのじゃくで〈(ひとつひとつ)これやったらおもしろいんじゃない?〉みたいなところがあるし、基本全編通してギャグなんですよ。それも深夜ラジオ的な」(JYAJIE)。
「確かに、聴いてる人は何がおもしろいのかわかんないだろうけど、僕らはおもしろがってやってますね」(DULLBOY)。
「自分たちが〈なりきってる〉感覚もちょっとありますね。例えば、いわゆるカッコいい曲とか男女の曲を、あえて笑い抜きで〈なりきって〉やるのをおもしろがるみたいな」(SIKK-O)。
「クラスの片隅でクスクス笑いながらなんかやってる感じというか……〈こういうのみんな好きでしょ?〉って探りを入れているような部分もありますね。それをみんなが素直にいいって感じてくれるとまたおもしろくなる」(TSUBAME)。
「ポジティヴでもネガティヴでもない微妙な塩梅って他の人たちはあんまり出せなかったりするのかなと思うし、意味と離れたイメージだけの言葉をおもしろがるみたいなところも曲に落とし込むことができた」とは、さらに本作を語るDULLBOYの弁。それがどう深みを増していくか楽しみだ。