みんなが待っていた夏色の全裸、夏色のヘヴン

夏にはマジックがある

 「どっちかと言うと、昔は夏が嫌いだったかもしんないですね、暑くて(笑)。でも、“SUMMER VACATION”(2011年)がすげえデカかったと思うんですよね。小ちゃいコミュニティーの話かもしんないですけど、あれで完全に〈ZEN-LA-ROCK=夏!〉みたいになっちゃって。あと、なぜか夏の曲だとリリックがむちゃくちゃ書けるんですよ。他の曲とかもう全然書けないのに、夏の曲だけ毎年こう、スラスラスラスラスラ~みたいな。けっこう書いたけど、まだ書ける。夏はそういうマジックがあるんで、嫌いじゃないです(笑)」。

ZEN-LA-ROCK HEAVEN Glue(2017)

 かのラメルジーの命名で〈コンビネイト・フューチャー〉のAKAネームを授かり、2007年にファースト・アルバムを発表してからコンスタントに自作を発表しつつ、多岐に渡る客演や楽曲提供からTVCMのナレーション、CAPブランド・NEMESの運営までを手掛けてきたZEN-LA-ROCK。昨秋にはスターダストに所属するボーイズ・ラップ・ユニット=MAGiC BOYZに電撃加入→この3月に卒業するなど、異能のラッパーとしてポップな存在感を発揮してきた。今回タワレコのヒップホップ・レーベル=GLUEからリリースされた『HEAVEN』は通算4枚目のアルバム。ここしばらくは自身の主宰するALL NUDE INC.から毎年のようにEPやシングルを出してきたものの、フル・アルバムは2012年の3作目『LA PHARAOH MAGIC』以来、実に5年ぶりの作品となった。

 「全部言ってしまうと、作れなかったんですよ。もうシングルぐらいが精一杯で、10曲ぐらいのものを作れるアイデアがとにかくなかった。作るだけなら作れたとは思うんすけど、そうじゃないじゃないですか? 自分の中のハードルを越える風景のものを作ろうって思っても、その画がまず描けなかったです。もちろんその間のシングルではやりたいことをやってたし、何かリード曲を作ってビデオ付けて、カップリングを最近知り合ったおもしろいラッパーと作って……っていうのは慣れてきたからできるんですけど、そこからアルバムっていうパッケージまで行けないっていう。でも、DIYで一人でやってると、ホント体力的にもそれ以上は難しいっていうか。ただ、去年末ぐらいからヤル気になったというか、〈何かイケそうだな〉みたいな雰囲気がぼんやり出てきて。良いムードになってきて〈いまじゃねえかな?〉みたいな時に、今回のGLUEとの縁ができて。で、その頃はMAGiC BOYZを3月に卒業するのも決まってたから……じゃあ、もうちょっとしたら夏だな、みたいな(笑)。夏の曲も多いし、マジボのファンの記憶にもあるうちにちょっと一発落としとくか、みたいな」。

 

天国が好きなんですね

 そうこうして完成に漕ぎ着けた『HEAVEN』ではあるが、客演もプロデュース陣も無理なくZEN-LA自身のコネクション主体で固められたラインナップは、結果的には非常に豪華なもので、なおかつ現行シーンのムードにもストレートにマッチしたものになっている。オープニングを飾るリード曲“SEVENTH HEAVEN”を聴くだけでもそのモダンなアーバン情緒は伝わると思う。G.RINAのプロデュースによる同曲は彼女と鎮座DOPENESSをゲストに交えているが、この2人の組み合わせから、年頭に出たG.RINAの傑作アルバム『LIVE & LEARN』収録の“想像未来”を思い出す人も多いだろう。

 「そうですね。あの曲が凄い良くって、〈そこに入れてもらっていいですか?〉っていうところもありました。もともと最初の段階ではリード曲がとにかくなかったんですよ、このアルバムの。じゃあ〈リード曲とは何ぞや?〉ってところで、〈RINAさんがいいね〉ってアイデアが出てきた時から、鎮さん、RINAさん、ZEN-LAってのは、そのリード曲っぽくなるんじゃないかなと思って。これは最後のギリギリ、6月になってから出来上がった曲で、血の滲む思いをしたけどその甲斐はあったかな~と思います。鎮さんとか大迷惑をかけたと思いますけどね。こっちのデモが遅すぎたり、途中で変わっちゃったり(笑)。アルバム・タイトルも“SEVENTH HEAVEN”が出来てから『HEAVEN』に決まったし、後から気付いたら次の曲が“DOUBLE ROCK HEAVEN”だったってのも……そんなに天国が好きなんですね、みたいな(笑)」。

 その“DOUBLE ROCK HEAVEN”はYOU THE ROCK★にBTBとBobby Bellwoodを交えたファンキーなユーロ・ディスコ風のフロア・バンガー(KASHIFのギターも効いている)で、「実は何年か前に作ってたけど、出すタイミングがなくて宙ぶらりんになっていたものです。その間にディスコってより身近になったと思うんで、結果的にここで出せて良かったなと思ってますね」という濃厚な一曲だ。YOU THE ROCK★の参加がZEN-LAのキャリア最初期の縁だとすれば、最新のコネクションを活かしたのがMAGiC BOYZ客演の“MAGiC SUMMER”ということになるだろう。ここでは元メンバーとして年齢差を感じさせない(ことはない)タイトな絡みを披露してくれている。

 「それこそさっき言ってた夏の曲で、今年の夏曲はもうマジボにしようって思ってました。Sam is Ohm(MO'TENDERS)にこのオケをもらってたんですけど、聴いた瞬間にこのネタ使いで、〈ああ、これもうマジボだわ〉と思って、〈キタキタキタ〉みたいな感じですぐ書けました。マジボは加入する時はいろいろ心配だったけど、やってみたら自分が一番ノリノリでやってたくらいで(笑)。ファンの人たちも最初は〈何なの、このオッサン〉ぐらいで、ヘイトというか戸惑ってましたけどね。〈この人デカい!〉とか(笑)。まあ、現場で顔を合わすうちにワイワイしたムードになれて、むちゃくちゃ新鮮な経験でしたね」。

 MONDO GROSSOとのコラボでも名を広めたKick a Show(MO'TENDERS)とのインティメイトなハウス“別にイイんぢゃない”、BRON-Kのメロウな語り口が光るドリーミーなミッド“ロマンティック租界”、ロボ宙と共にHEAVENの先人に捧げた“PLANET 808”(COMPUMAのスクラッチが……)という新曲群はそれぞれに独特の季節感を纏った出来映えとなっている。

 

自分の必勝パターン

 マジボからマジアレまでを行き交う新曲を中心にしつつ、そこに並ぶ既発曲も、砂原良徳のマスタリングも手伝ってか、全体の心地良いムードを違和感なく形成するものだろう。TOKYO HEALTH CLUBとのトロピカル・ハウス“黄昏LOVIN'”など折々のトレンドを導入したトラックもありつつ、ニュー・ジャックやヒップ・ハウス、ブギー・ファンク、もっといえば〈ディスコ〉や〈アーバン〉といったワードで拡散したここ数年の風潮は、ZEN-LA-ROCKが(あえてダサ格好良さを狙っていた部分もあるだろうが)昔から必殺技にしていたスタイルだという事実にも改めて気付かされるのではないか。

 「ああ、それもひょっとしたらアルバム制作に対するモチヴェーションだったのかも。やっぱ、ブルーノ・マーズがめちゃくちゃデカかったっすね。あれは目ん玉飛び出るくらいビックリしちゃって。何て言うんですかね、ずっとナシだと思われてたところの、けっこう王道なところをバーンッと持ってきて、もちろん全然プロダクションも本人のスキルも違うんすけど、〈うわ~〉って。しかも超最先端みたいな。じゃあ、これでいいのかな?って思った部分もあったっていうか。久々にその波がホントに来たのを感じてて、これも絶対に過ぎる波だけど、今年の夏なら〈じゃあ、ここでどうだ!〉みたいな(笑)。仰っていただいたように、おこがましいですけど、そういうのをかなり最初のうちにやってた何人かの一人だと思うし、今回は狙ったわけでもなく自分のやってきた必勝パターンを、昔より仲間も増えて実力も多少はアップしてる現在の自分がアップデートして。まあ、いつもの調子っちゃいつもの調子なんですけど(笑)、自分のハードルも超えれたというか」。

 自然に積み上げてきたキャリアを武器に、やってきた波に余裕で乗ってみせるZEN-LA-ROCK。初のアルバムから10年、97年の〈低音不敗〉で最初にラップしてから20年という節目に相応しいアルバムだと言えるだろう。

 「ヤベッ! 来年にしてもらっといていいですか(笑)。まあ、20年か何年かわかんないですけど、〈こんなもんかな~〉みたいなアルバムですよ。〈詰まってるよん〉みたいな。詰まってるけどドロドロさせたつもりもないし、できるだけカラッと軽い油で揚げました、当店は油にも気を遣って最近は毎日変えてます、ぐらいの(笑)。曲順も凄い気にしたつもりなんで、こういう暑い時に聴くと3~4割増しくらいには聴こえるんじゃないかな~。やっぱ旬というのはあると思いますので、夏前に出せて良かったです。秋とか冬に聴いても良いと思いますけど(笑)」。

 

『HEAVEN』参加アーティストの作品を一部紹介。

 

ZEN-LA-ROCKの作品を一部紹介。

 

ZEN-LA-ROCKが客演した作品を一部紹介。