多彩な顔の持ち主が〈そのままの私〉を表現した初のフル・アルバム!

2019年の私そのまま

 おかもとえみは、多彩な顔を持つシンガー・ソングライターだ。いまやフレンズのヴォーカリストとしての顔がいちばん有名だろうが、その他にも、特撮をこよなく愛するメンバーが集まった科楽特奏隊でシンセサイザー/ヴォーカルを担当。また、シンガーとしてはDJ HASEBEやFRONTIER BACKYARD、さかいゆうらの楽曲に客演、ベーシストとしても南波志帆や原田珠々華らのライヴ・サポートを務め、ソングライターとしての楽曲提供も行うなど、多方面で才能を発揮している。

おかもとえみ gappy HiTPOP(2019)

 そんな彼女の素顔を垣間見ることのできる作品が、約4年ぶりのソロ作となる今回のニュー・アルバム『gappy』。「すごく若いわけでもないし、成熟した大人にも到達していない年齢」という29歳の彼女が、内から自然と湧き出る気持ちや、同世代の女性が抱える思いや悩みを表現した作品となっている。

 「フレンズではメンバーのみんなといる時の自分……快活で元気がもらえるような女の子という人物像をイメージして曲を作ることが多いので、そのぶんソロでは自分の個の部分が出ました。もともとギャルだったので、誰かといる時は〈パーティーでアゲ~!〉みたいな感じでいることが多いんですけど(笑)、一人になると、帰り道にはフィッシュマンズを聴いて自分だけの世界に浸ったりするところがあるんです。そういう内面に近いソロでの自分と、フレンズや科楽特奏隊での自分にはギャップがあると思うし、今回のアルバムはサウンドでも歌詞でも隙間や行間を楽しめるような表現ができたので、〈隙間が多い〉という意味の『gappy』をタイトルにしました」。

 前作にあたるミニ・アルバム『ストライク!』(2015年)は自身で打ち込みやアレンジまで行っていたが、今回は楽曲ごとにトラックメイカー/アレンジャーを起用。その前作から生まれたクラブ・ヒット“HIT NUMBER”のリミックスで縁を結んだEVISBEATSとMICHEL☆PUNCHを筆頭に、PARKGOLF、illmore、TSUBAMEら彼女がこれまで歌の客演で関わってきたアーティストが参加。mabanua、Kan Sano、Opus Inn、Shin Sakiura、赤い靴といった初顔合わせの面々も並んでいる。

 「もともとベーシストだからか、私はリズムのおもしろいトラックが好きで、今回はクラブや家で聴きながらノレたり、リズムにちょっとクセがある人とご一緒したいなと思って。赤い靴の神谷(洵平)さんは、とあるアーティストのサポートで現場が一緒になったときに〈この人のドラムはすごく魅力が溢れてるなあ〉と思ったし、パーゴル(PARKGOLF)ちゃんも私では絶対に思い浮かばないようなリズムを作るし。そういう個性のある方にお願いしました」。

 mabanua製の「自分がグッとくる隙間の感覚がいちばん出てる」というネオ・ソウル・フィーリング溢れるトラックに熱っぽい歌声が絡む“待つ人”で幕を開け、illmore作品への客演曲“思い出す”を赤い靴がリアレンジした密室ファンク“remind”で締め括られる本作。自身の実体験を落とし込んだという、相手のどっちつかずな反応が切ない恋愛ソング“POOL”は2016年に配信済みの曲、PARKGOLFがマイルドなダンスホール~アフロ・ポップ要素を採り入れた“himitsu”も配信曲“ひみつ”をリアレンジしたものなので、楽曲自体は以前から存在していたものも多いが、アルバムには全体を通して濃密な夜の空気が息づいており、不思議とメロウな統一感のある仕上がりに。先述のEVISBEATSとMICHEL☆PUNCHによる緩やかなバックビートが心地良い“(you're)my crush”など、ビターな恋愛を題材にした楽曲が多く並ぶこともその要因だろうが、何よりおかもと自身の気怠く感傷を解き放つような歌声が、作品に円熟したムードをもたらしている。

 「今回は息遣いを多くして、マイクに近い状態で歌った曲が多くて。別に大人っぽさを意識したわけじゃないですけど、一人で聴くのにちょうどいい、気張り過ぎない雰囲気の歌が歌えました。あと、声帯が腫れて調子の良くない時期にレコーディングしたので、曲によっては高音がかすれてしまってるんですけど、逆にそれが今の自分っぽくていいなと思って。声帯にも隙間ができてたから『gappy』な状態だったんですけど(笑)、それもまた2019年の私そのままという感じになりました」。

 

リスナーに近い存在

 他にも、Shin Sakiuraを迎えて「踊れて歌えるR&B調」をめざした“チックタックメモリー”、「TSUBAMEさんが作る曲にはフィッシュマンズっぽい浮遊感を感じていたので、そういう雰囲気をブラッシュアップしてくれたらと思って」トラックを頼んだという“TWO LOVE”など、収録曲の曲調は多種多様。なかでも堀込泰行が楽曲を提供(作詞はおかもと本人)、Kan Sanoがトラックを手掛けた流線形のプラスチック・ソウル“僕らtruth”は、彼女自身にとってもスペシャルな一曲になったようだ。

 「今回はソロなので誰かに曲を書いてもらうつもりはなかったんですけど、私は堀込さんが『馬の骨』で発表された“Red light, Blue light, Yellow light”という曲が大好きで、その曲と私がソロでやりたい少し気怠さのある感じがマッチしたらすごく良いものができるんじゃないかと思って、実現しない夢として〈堀込さんになら書いてほしい〉と言ってたんです。そしたら曲を書いてくださることになって、いまでも夢を見ている感じで(笑)。こんな素敵なメロディーならもっといろんな人に届いてほしい、子どもからおばあちゃんまで歌えるポピュラー・ソングにしたいと思って、歌詞はわざと年齢感のわからない言葉を使って具体性をなくしたんです。私はふだん童謡が好きでよく聴くんですけど、“僕らtruth”もそんな曲になればいいなと思って」。

 そのように、普遍的なポップスとしての強度をも獲得せんとした『gappy』は、これから多くの人の心の隙間を埋めていくことだろう。そして、これだけの傑作をものにしてなお、彼女の夢と理想は膨らみ続ける。

 「いまはまた新しくやりたいことがどんどん浮かんでいます。今回はトラックメイカーの皆さんと主にデータのやり取りで作りましたけど、今度は一緒にスタジオに入って生音を使ったトラックを作り上げてみたいです。あとは芝居もやってみたいし……これは言ったら叶うかなと思って言ってみました(笑)。それとソロでは共感する人を増やしていきたくて。私はリスナーに近い存在としていたくて、友達と話してて〈だよね、わかるー!〉ってなるような部分を共有したいし、そういう人が何万人と増えていけば嬉しいです」。

おかもとえみの2015年のミニ・アルバム『ストライク!』(VYBE)

 

『gappy』参加アーティストの作品。

 

おかもとえみが歌唱や演奏、楽曲提供などで参加した近作を一部紹介。

 

フレンズの新作も登場したよ!

フレンズ HEARTS GIRL ソニー(2019)

 おかもとえみがヴォーカルを担当するフレンズは、彼女とひろせひろせ(キーボード/MC)が意気投合したのを契機に長島涼平(ベース)、関口塁(ドラムス)、三浦太郎(ギター/ヴォーカル)が集まり、2015年に結成された〈神泉系〉ポップ・バンド。2018年のメジャー・デビューから認知を広げ、今回5曲入りのミニ・アルバム『HEARTS GIRL』が登場です。J-Pop的な親しみやすさを主軸に各人がカラフルなポップセンスを持ち寄った秋冬コレクションの趣で、おかもと詞曲のポジティヴな“take a chance”を筆頭にイイ曲が揃ってますよ! *出嶌孝次

秋から冬にかけてのサウンドトラックを紹介!

illmore ivy Chilly Source/Manhattan/LEXINGTON(2018)

おかもとの“subway”を手掛けたのは、チルでリスニング・フレンドリーなヒップホップの潮流を紡ぎ上げてきたChilly Sourceのトラックメイカー。この初作ではTHREE1989のSHOHEYやkiki vivi lilyも穏やかなムードを演出する。おかもと参加の“思い出す”もここに収録。

 

リスニング志向の洒落たヒップホップということでは、〈CITY RAP〉の流れに早くから寄与してきたOMAKE CLUBのも外せない。『gappy』に“TWO LOVE”を提供した彼のソロ作では、kiki vivi lilyやTENDRE、mabanua、AAAMYYYらと並び、おかもともRachelとコラボ。

 

おかもとの“himitsu”や西恵利香の“本音”などの仕事が続いているビートメイカーだが、その起点となったのは一十三十一やMACHINAらシンガーを迎えてポップなアプローチに挑んだ本作の成功でしょう。おかもとの客演した甘酸っぱい名曲“ダンスの合図”もここに収録。

 

EVISBEATS HOLIDAY AMIDA STUDIO(2018)

“HIT NUMBER(EVISBEATSとPUNCH REMIX)”での絡みを前段階に、おかもとの“(you're)my crush”を手掛けるに至った才人。自作での素朴なメロウネスは都市型というより神秘的な自然志向の濃さもあるが、最近はKuroやGhost like girlfriendなどの仕事も増加中だ。

 

PAELLASのMATTONと組んだOmitで活動してきたプロデューサー/ギタリストがインディー・アーバン感も纏って仕上げた好盤。本作以降にSIRUPを手掛け、おかもとや向井太一、西恵利香、kuro、showmore、Chilly Sourceのpinokoなど各所から引っ張りだこになっている!

 

昨年あたりから話題になりはじめた神戸出身デュオの最新EP。AORのカセットレーベル風の装丁や永井博を起用したジャケである種のイメージを巧みに操りつつ、そこに止まらぬプロダクションは幻想的で幅広い。MALIYAやKEIJU、IO、向井太一など関連作も次々に登場中。

 

kiki vivi lily vivid EPISTROPH(2019)

唾奇×Sweet Williamの“Good Enough”で名を上げ、illmoreやTSUBAMEの作品やミックスCDでおかもとえみとのニアミスも多い印象のある彼女。WONKファミリーや冨田恵一らがバックアップしたこのフル・アルバムでは平熱の甘酸っぱさを誘うソフトな歌い口が心地良い。

 

Kuro JUST SAYING HI Pヴァイン(2019)

TAMTAMのヴォーカリストによる、アンビエント情緒も快いソロ作。グループでもたびたび同時代のR&Bを引き合いに出されることが多いが、軸にある彼女の歌唱にブレがあるわけではない。先行7インチでのEVISBEATSやShin Sakiura曲のほか、君島大空の制作曲にも注目。

 

昔から志向は変わらないものの、生活のサントラ的な色味を濃くしてきた近作が時代のトーンにハマって人気を拡大しているBASI。唾奇との“愛のままに”を含む本作ではSIRUPとの共演もしっくり空間に馴染む。本作の後にはDJ HASEBE曲にて向井太一とのコラボも実現。

 

Kick a Show THE TWELVE LOVE ランブリング(2018)

ZEN-LA-ROCKやG.RINAのフックアップ、MONDO GROSSOとの共演などで注目を集めた色気溢れるシンガーの初作。相棒のSam is Ohmが手掛けたジャケの色味通りのサウンドはセンシュアルな季節が似合う。以降の作品ではeillやTSUBAMEとのコラボも聴きもの。

 

向井太一 SAVAGE トイズファクトリー(2019)

このたびリリースのニュー・アルバム。スタイリッシュなトレンド追求と同時に我流の表現を確たるものにしてきた印象が強く、原点回帰の意識も薫る今作はいつにない清々しさも伝えてくれる。名匠grooveman Spotのほか、Mori Zentaro、Shin Sakiura、Opus Innらが好援護。

 

LUCKY TAPESのバックでも活躍するシンガー・ソングライターにして、かつてEspeciaに楽曲を提供した縁から脇田もなり曲での作詞やHALLCAとのイヴェント共演も経験しているUKO。このミニ ・アルバムではKai TakahashiやBASIも交えた押し引き自在な歌唱が美しい。

 

CICADA escape para de casa(2018)

今年3月に解散したバンドの、結果的には最終作となったEP。都会の夜やクラブの薫りを融和したポップな音像とスマートな歌世界のカッコ良さはいま聴いてももちろん無二。Sosuke Oikawaはここ最近の西恵利香サウンドを支える一人としても活躍中だ。

 

脇田もなり RIGHT HERE HIGH CONTRAST/ヴィヴィド(2019)

para de casaのイヴェント出演などを通じて西恵利香とも縁のある彼女。過去最高の出来となったこのサード・アルバムでは、一十三十一のペンによるDorian制作の“エスパドリーユでつかまえて”をはじめ、甘さ苦さを心得た気持ちのいい歌いっぷりが今回も全開だ。

 

最近はBASIやWILYWNKAなど、もともとのSoulflexコネクションを活かした関西コラボも目立っている時代の寵児。メジャー・デビュー前から彼をガッチリ支えるChocoholicとMori Zentaro、Shin Sakiuraは西恵利香の『Love Me』にガッチリ参加して手腕を揮っている。

 

土岐麻子 PASSION BLUE A.S.A.B(2019)

『PINK』~『SAFARI』と毎年続いてきたトオミヨウとの〈シティー・ポップ3部作〉を完結するニュー・アルバム。単に享楽的なスタイルと解釈されがちな意匠の数々に、知的な眼差しで芯を通した名曲揃い。G.RINAとの何度目かのコラボ“Ice Cream Talk”も良好だ。

 

G.RINA曲でのコラボをきっかけにしてZEN-LA-ROCKと鎮座DOPENESSが集まったトリオの初作。m-flo的なバランスとメンバーそれぞれに共通する世代感がアーバンな空間をユーモラスに支配したセンスのいい楽曲揃いで、ネタがわかってもわからなくても楽しめる好盤。

 

シャープな歌唱力で現行モードのさまざまな意匠を乗りこなすシンガーの初作。Kai Takahashiの手掛けた“HUSH”は、DATSのMONJOEによるKick a Show客演リミックスでも収録。配信オンリーでは“FUTURE WAVE”をMori Zentaroがリミックスしたヴァージョンもあり。