INTERVIEW

プリンスやグラスパーが大抜擢した理由とは? R&B大型新人キング、ドリーミーなコーラスと新しい感性が生まれた背景を語る

プリンスやグラスパーが大抜擢した理由とは? R&B大型新人キング、ドリーミーなコーラスと新しい感性が生まれた背景を語る

2016年に入って、大きな注目を集めている女性ヴォーカル・ユニットがキングだ。ケンドリック・ラマーが『Section. 80』(2011年)で楽曲をサンプリングし、ロバート・グラスパー・エクスペリメントは『Black Radio』(2012年)で彼女たちをフィーチャー。さらに、生前のプリンスが絶賛してオープニング・アクトに起用したりと、早くから逸材ぶりをアピールしていた3人組は、今年2月に決定打というべきファースト・アルバム『We Are King』を発表し、ここ日本でも注目されるように。最近もロバート・グラスパー総指揮によるマイルス・デイヴィスの再解釈アルバム『Everything Is Beautiful』や、コリーヌ・ベイリー・レイ新作『The Heart Speaks In Whispers』といった話題作に客演しているほか、8月には〈サマーソニック〉出演も決まっている。

キングの代名詞と言えるドリーミーなコーラスを担当するのは、アンバー・ストローザーアニータ・バイアス。さらに、プロダクションの要を担うパリス・ストローザーは、2台のシンセでメロディーとベース・ラインを奏でつつ、生演奏と並走するビートもみずから手掛けている。Billboard-LIVE TOKYOで先月開催された初の来日公演では、たった3人で生み出される個性的なサウンドが、アルバムと遜色のないクォリティーで演奏されていたのが印象的だった。グラスパーやビラルなど、ライヴ・ミュージックの可能性を追求しているアーティストが信頼を寄せる理由もそこにあるのだろう。そんなキングも、出自やキャリアなどまだ謎が多い存在である。特異な音楽性のバックグラウンドについて、じっくり話を訊くことができた。

KING We Are King KING/Pヴァイン(2016)

 

――キングを結成する以前は、それぞれどんな活動をされていたのですか?

アンバー・ストローザー「私は運がいいことに、DJカリルと一緒に仕事をしていたの。彼が私をスタジオでの生活に導いてくれたのよ」

アニータ・バイアス「私は小学校で働きながらデモを作ったりしていたわ。それからこの2人と出会って、より真剣に作曲に取り組むようになった」

パリス・ストローザー「キングの前は、バークリー音楽大学のコンテンポラリー・ライティング・アンド・プロダクション科で学んだり、〈モントルー・ジャズ・フェス〉の教育プログラムや、セロニアス・モンク・インスティテュートにもいたことがあるわ」

――バークリーやモンク・インスティテュートで、パリスがよく一緒に演奏していたミュージシャン/同級生にはどんな人たちがいたんですか?

パリスエスペランサ・スポルディングは素敵な友人よ。あとはエンプレス・オブルシアスもそうね。バークリーにはロバート・グラスパーみたいなプロのミュージシャンもよく訪れていて、ボビー・マクファーリンジョージ・デュークパトリース・ラッシェン――そういった先人たちのコミュニティーに入ることができたのも大きかった。バークリーに通っていたことで、素晴らしい人たちと一緒に演奏することができたの」

※ブルックリンを拠点にするインディー・ロック・バンド

エンプレス・オブの2015年作『Me』収録曲“Standard”(レヴューはこちら
ルシアスの2016年作『Good Grief』収録曲“Born Again Teen”

 

――その後、キングを結成したきっかけは〈3人で初めて一緒に演奏した時に、素晴らしいフィーリングを感じたから〉だったという話を、別のインタヴューで読みました。

パリス「“Supernatural”“The Story”、それに“Hey”。この3つが、人前で演奏するようになる前に、私たちがただの友達として遊んでいた頃から演奏していた初期のナンバーね。あとはソウルやR&Bのカヴァーをやっていたわ」

――例えば、どのあたりをカヴァーしていたんですか?

パリス「ビラルにスティーヴィー・ワンダー、他にはダニー・ハサウェイマーヴィン・ゲイを何曲か。“What's Going On”とか」

アニータ「いわゆるソウル・ミュージックね」

パリス「バンドや楽器の編成もその時から一緒だったわ」

――でも、普通にクラシック・ソウルやR&Bをカヴァーしているだけでは、キングのような音楽性には辿り着かないと思うんですよ。

アンバー「そうね。私たちはあらゆるジャンルの音楽を愛しているの。深さとテクスチャーを音楽のなかに探し求めているつもり」

――キングの音楽性について、ロール・モデルにしたアーティストを教えてもらえますか?

アンバーバート・バカラック坂本龍一デューク・エリントンもそうだし、それにテクスチャーと言えばやっぱりプリンスが好きね。ミネアポリス・サウンドはテクスチャーが素晴らしいと思うわ。あとは任天堂みたいなゲーム音楽の影響も大きくて。プレイ中ずっと鳴り続けているのに、興味を持続させるような作りになっているのがクールだと思う。すごく刺激的で興味深いわ」

――坂本龍一さんのアルバムで、好きなものを一枚選ぶなら?

アンバー「『スムーチー』ね。これが初めて聴いたサカモトのアルバムなんだけど、いろんなジャンルやテイストが入り混じっているところが好き。ストリングスとピアノが美しい曲から、いきなりポップなモードになったり、とても楽しくてダイナミックな作品だと思う」

――キングが『スムーチー』を挙げるのはすごくしっくりきます。

パリス「曲のタイプがまったく違うから、まるで旅をしているように感じるのに、不思議と統一感があるのよね」

坂本龍一の96年作『スムーチー』収録曲“Bring Them Home”

 

――あと、皆さんはミネアポリスという出自を大切にしている印象です。自分たちが考えるミネアポリス・サウンドの定義を教えてください。

パリス「アーティストの名前を挙げていったほうがわかりやすいと思う。ジャネット・ジャクソンジャム&ルイスミント・コンディションザ・タイムサウンズ・オブ・ブラックネス。それにもちろんプリンス」

アンバーアレキサンダー・オニールもそうね」

パリス「つまり、プリンスやジャム&ルイスにプロデュースされたすべての音楽のこと」

ジャネット・ジャクソンの93年作『Janet』収録曲“That's The Way Love Goes”

 

――そういうサウンドが、ミネアポリスから出てきたのはどうしてだと思います?

パリス「まずはプリンスの存在が大きいと思う。それに、〈ミネアポリスは寒いから1年の半分は家にこもって音楽を練習するしかない〉というジョークもあるのよ」

アンバー「あと、ミネアポリスのサウンドってとても温かいし、テクスチャーにも特徴があるわよね」

パリス「そういう温かさも、私たちが作ろうとしている〈夢の世界のような音楽〉にとって大切なの」

――キングの音楽におけるテクスチャーで、特に印象的なのがコーラスとハーモニーだと思うんですよね。生の声がレイヤーされているのか、何かエフェクトが掛かっているのか判断がつかない瞬間があって、それが気持ち良くて美しい。あのコーラスはどうやって生まれているのでしょう?

パリス「ヴォーカルや楽器、エフェクトは〈リリックのサウンドトラック〉になるように作っていて、ハーモニーやテクノロジーはリリックを最大限に表現するためにどうするかを考えながら作っているわ」

――それぞれの声や楽器に細かくエフェクトを掛けたりしていると思うんですけど、すべての音が溶け合っているのがすごいですよね。

アンバー「声の違いを引き立てるというよりは、3人の声でオーディエンスを包み込むような表現がしたくて。私たちはとても仲の良い友人であり姉妹であって、それがどこまで関係しているのかはわからないけど、お互いのやっていることを耳で追いかけ合っているの」

――そういう包み込むようなサウンドを作るために、歌い方や声の出し方を研究したりはしましたか?

アンバー「私たちは、もともと似通ったテイストを持っているの。それが一番の強みでもあって、音楽的なアイデンティティーの部分で通じ合えているのよね。だから、自分のやり方を無理に変える必要もないし、一人で歌うよりアニータと一緒に歌っているほうが自信を持てる。むしろ、2人で助け合って1つになっていると言えるのかもしれない」

――3人の相性と一体感が大きいんですね。曲作りのプロセスはどんな感じですか?

パリス「ジャム・セッションみたいな感じで、3人がそれぞれアイデアを持ち寄って作っていく感じね。ドラムから作る時もあるし、メロディーから取り掛かる時もある。コードやサウンドを先に決める時もあるけど、常に3人で一緒にクリエイトしているのは変わらないわ」

――具体的な例を一つ挙げてみてもらえますか?

パリス「“Red Eye”では、アンバーが弾いたギターがメイン・メロディーになって、私がその後ろにコードを付けたあと、3人揃ったところで曲に取り掛かっていった感じね。『The Story』(2011年)という最初のEPをリリースしたあとに作った最初の曲で、そこから2014年までアレンジがそのままだったんだけど、アルバムに収録するにあたって、ドラムや他の楽器を足したり、リリックにも手を加えている。曲のアウトロの部分が最初に出来上がって、そこから遡っていくようにして作った曲なんだけど、時間を掛けてじっくり発展させることができた。そういう意味では、とても有意義な経験になったわね」

――いつも同じ場所でセッションしながら、アレンジを変えていくんですか?

パリス「普段はそうね。それに電話やFaceTime、メールで意見をやり取りすることもある。とにかく、私たちは毎日いつも会話しているの。みんなで電話越しに毎日アイデアを交換したりして、そこからまた3人で集まってセッションして作っている」

――ライヴだと、パリスがキーボードでメロディーを弾きつつ、もう片方の手でベース・ラインも演奏して、さらにドラム・マシーンでビートを鳴らしたりもしているじゃないですか。あのベース・ラインやキーボードのフレーズ、プログラミングされたビートも3人で考えて作っているんですか?

アンバー「あれは全部パリスよ!」

――パリスはもともと、バークリーでピアノを学んでいたんですよね。いまのようなキーボードを2台同時に使うスタイルになったきっかけは?

パリス「ピアノ&ヴォーカルというシンプルな編成も好きなんだけど、キーボードでサウンドを構築することによって、それぞれの曲で〈夢の国〉を表現したいの。曲のなかで表現したいフィーリングにはいろんな要素が入っているけど、それらは映画やビデオ・ゲームからインスパイアされていることが多い。だから、キーボードを使うことでより自分たちらしい表現ができるのよ」

――シンセ・ベースを同時に弾くようになったのはいつ頃ですか?

パリス「キングの前にはやったことがないと思う。そうね、2012年くらいかな」

――ビートを打ち込むようになったのは?

パリス「ビートメイクは大学時代からやっていたけど、まあ酷いものよ(苦笑)。キングを結成してから、曲作りも打ち込みもイチからやり直したといったところね」

――パリスはアナログ・キーボードが大好きで、いろんな種類を使っているそうですね。

パリス「昔からずっと好きだったんだけど、実際に演奏したりスタジオで使ったりするようになったのはキングを始めてからの話ね。最初にEPを作った時は、ノードとソフトウェアだけだった。でもいまでは、当時の20倍近い機材が揃っているスタジオを使っているの」

――グラスパーの『Black Radio』に参加した経緯を教えてください。

パリス「バークリーの頃からロバートのライヴを観に行ってたし、単純にアーティストとして好きだったの。それで、たまたま彼が『Black Radio』のレコーディングでLAに滞在していた時に、共通の友達が紹介してくれたのよ。それがきっかけで彼のプロジェクトに参加するようになった」

――あのアルバムに収録された、キングの参加曲“Move Love”はどのようにして出来上がったんですか?

パリス「最初にロバートが軽く演奏したフレーズをもとに、私たちが曲を書いて、キーボードをさらに加えたの。だから最初は、キーボードとヴォーカルだけの曲だったんだけど、そこから彼が曲を持ち帰って、バンドで演奏できるようにしていったの。最初のコード・チェンジの部分を作ってくれたのはロバートで、そこに私たちが他の部分を加えていった」

キングが参加したマイルス・デイヴィス&ロバート・グラスパー『Everything Is Beautiful』収録曲“Song For Selim”

 

――どのくらいの期間で作られた曲だったんですか?

パリス「だいたい1~2時間くらいだったかしら」

――メチャクチャ早い(笑)。ビラルの“Right At The Core”という曲にも参加していましたよね。

パリス「素晴らしい経験だったわ。ビラルが私たちのEPを聴いて、連絡してくれたの。プロデュースと作曲を一緒にやったんだけど、彼のことはもともと好きだったし、とても楽しかった」

――ビラルはその場の思いつきやハプニングを大事にするアーティストだと、BIGYUKIが言ってました。

★該当の発言も出てくるBIGYUKIのインタヴュー記事はこちら

パリス「BIGYUKIも大好き、大切な友達よ。確かに、ビラルは偶然性をレコーディングに上手く活用していたわね。キング以外でプロデュースをするのは初めてだったから、彼がリードしてくれたの。スタジオに入ってからは、いろいろな楽器を演奏して、彼がどんなサウンドを求めているのか探りながら作業を進めていったわ」

キングが参加したビラルの2013年作『A Love Surreal』収録曲“Right At The Core”

 

――キングの音楽には、現在の拠点にしているLAのムードもすごく感じられます。

アニータ「そうね。東海岸から西海岸に移ってから、カリフォルニアの土地やそこに住む人々の持つ美しさが音楽にも影響を与えていると思う。西海岸の暖かさがサウンドにも加わっているんじゃないかな」

――コリーヌ・ベイリー・レイの新作にも参加していましたけど、あのアルバムもLAでレコーディングされたことで、以前の彼女と全然違うサウンドになっていましたよね。

パリス「LAには、NYにはないリラックスした環境があるの。そういう土地柄がクリエイティヴィティーを後押しして、アーティストをインスパイアするんだと思うわ」

キングが参加したコリーヌ・ベイリー・レイのニュー・アルバム『The Heart Speaks In Whispers』収録曲“Green Aphrodisiac”

 

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