BJ THE CHICAGO KID
LAで大きく育ったシカゴからの風――遅れてきたルーキーが放つ渾身のアルバムは、予想以上の深みと広がりを見せつける!!

トリッキーなリズムをラップ調の歌唱で跨ぐ“Man Down”はクリス・ブラウンやオーガスト・アルシナのようでもあり、かと思えばPJモートンらを従えたラストの“Turnin' Me Up”は昔のディアンジェロやドウェレを連想させるネオ・ソウル作法。共通するのは爽やかな歌唱の纏った粋でソウルフルな身のこなしだ。アルバム全編をその調子でカラフルに聴かせるのはBJ・ザ・シカゴ・キッド。待っている人はずっと待っていたメジャーでのフル・アルバム『In My Mind』がようやく届けられたのだ。

84年に生まれた彼の出身は、その名が示す通りのシカゴである。本名はブライアン・ジェイムズ・スレッジで、クワイアのディレクターを務める両親の元で幼い頃から歌や楽器演奏に取り組んできたそうで、兄のアーロン・スレッジもシンガー/ソングライターとして活躍しているから大した音楽一家ということだ。ゴスペルを吸収する一方で、マーヴィン・ゲイやベイビーフェイスやルーサー・ヴァンドロス、ディアンジェロなどのクラシックなR&B作品には親の影響もあって親しんできたようで、時代を超えたセンスはそうしたバックグラウンドも手伝ってのものだろう。
18歳の時に同じシカゴの大物デイヴ・ホリスターのアルバムに参加したBJは、プロの活動を夢みて19歳でLAに移住。バック・コーラスやソングライティングなどの裏方仕事を経験し、その過程ではスティーヴィー・ワンダーやマリオ、クリスティーナ・アギレラ、ミュージック・ソウルチャイルドらの作品にも参加している。並行して自身のアーティスト活動も地道にスタートし、ウォーレンGの“True Star”に抜擢された2009年にはケンドリック・ラマーのEPに参加。以降もフレディ・ギブスやジェイ・ロックといった西海岸の新進ラッパーを中心に、レイラ・ハサウェイやキンドレッド・ザ・ファミリー・ソウルらと共演しつつ、2012年には初作『Pineapple Now & Laters』を発表。ソウルやゴスペルを核としたオーセンティックな歌唱センスとヒップホップ勢との交流がもたらした時代の空気感を折衷した音楽性が高く評価され、翌年にはレックス・ライダウトがA&Rを務めるモータウンとの契約を獲得したのだった。
それからけっこうな間が空いたものの、ジル・スコットの“Beautiful Love”を共作した昨年は、ドクター・ドレーに起用されたほか、ダニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメント、ジョーイ・バッドアス、キャシー・ヴェジーズらの話題作に露出を急増。今年に入ってからは盟友アンダーソン・パックともコラボして、ようやく今回のアルバムに辿り着いたわけだ。
冒頭で述べた振り幅のみならず、R・ケリーへのオマージュ的な感触でオールド・ソウル作法も見せるなど、その時代感覚はやはり新世代のものだ。ネクスト・ディアンジェロ的な小さい期待をするのではなく、ここからさらに大きくなる存在感に注目していきたい。 *出嶌孝次
KING
クイーンでもプリンセスでもプリンスでもない。名立たる大物たちの賞賛を背に受け、3人のキングがクリエイティヴな世界を統治する!

3曲入りのEP『The Story』を発表した2011年の時点ではほとんど無名だった。が、ルーツのクエストラヴが話題にし、プリンスがライヴの前座に起用したことで注目を集めたこの女性トリオは、ロバート・グラスパー・エクスペリメント『Black Radio』における“Move Love”への客演や、EP収録の“Hey”がケンドリック・ラマーのデビュー作にて引用されていたという事実が改めて知られるところとなり、一気に株を上げている。エリック・ロバーソン『The Box』でもそよ風のようなハーモニーを披露していた彼女たちは、大雑把に括ればジ・インターネットに通じるアンビエントなネオ・ソウル系ユニットであり、エレクトロニカ、ダウンテンポといった文脈でも語ることができるが、その個性は前例が見当たらない。
双子であるパリスとアンバーのストローザー姉妹と友人のアニータ・バイアスから成る3人組。ストローザー姉妹はフォーリン・エクスチェンジ“All The Kisses”への参加も記憶に新しいところで、特にバークリー音楽院で学びジャズの素養を持つパリスは、鍵盤を弾いたジル・スコット“So Gone(What My Mind Says)”や3人で参加したビラル“Right At The Core”でもペンを交えていた。そのパリスが奏でるビートにアンバーとアニータを中心としたクリスタルなヴォーカル&ハーモニーを浸していくようなスタイルは女性トリオといってもSWVのようなグループとは別種のもので、強いて言えば、姉妹(兄弟)からなる西海岸の自作自演R&Bユニットという点でトニ・トニ・トニに近い。ラファエル・サディークとも印象がかぶるパリスの裏方仕事も含めてそう思う。

フェラ・クティのトリビュート盤に参加するアフロセントリックな姿勢を示しながらも、パリスはXTCやジョニ・ミッチェル、フランク・ザッパ、アンバーは坂本龍一やコクトー・ツインズを愛聴。アニータはその歌にも表れているようにブレンダ・ラッセルやパトリース・ラッシェンを好むようだが、これまでにリリースしたシングルやEPに収録していた3曲のリアレンジ版を含む待望のフル・アルバム『We Are King』はまさしくそうした音楽の折衷で、ドリーミーなサウンドでトロピカルなジャケの如き楽園に誘う。パリスが紡ぐ精緻で洒落たトラックが敬愛するスティーヴィー・ワンダーやスティーリー・ダンを思わせる一方で、ミニマルな音使いは、モハメド・アリを讃えた“The Greatest”のMVが8ビットのTVゲーム風だったように、姉妹が誕生した80年代中期頃のエレクトロニック・サウンドからの影響が大。2014年の〈Essence Festival〉でライヴを観た時には、パリスがTR-808と思しきドラム・マシーンや各種シンセを操りながら、ザップの“Computer Love”も披露していた。
そして、“In The Meantime”に代表されるオリエンタルで人懐っこいメロディーやビート感覚は、日本的にキャッチーな例を挙げれば佐藤博『Awakening』から一十三十一『CITY DIVE』へと繋がるエレクトロ・シティー・ポップ的なそれとも通じており、欧米人にとっては神秘的に思えるそうした部分がエリカ・バドゥの言う〈2029年にいるような音楽〉といった絶賛を生んでいるのだろう。また、“Carry On”などでのウィスパリング系のヴォーカル&ハーモニーはジャネット・ジャクソンの“Come Back To Me”や“Let's Wait Awhile”にも近く、メロウネスに包まれた“Red Eye”もマイケル・ジャクソン“I Can't Help It”をジャネットがアンビエントな解釈で歌ったように聴こえなくもない。ジャム&ルイスが賛辞を贈り、プリンスが彼女たちを前座に起用したのも頷けるところだ。ちなみにストローザー姉妹はミネアポリス出身で、おじは同地のブルース偉人であるパーシー・ストローザー。が、偶然の再会などもあってアニータの出身地であるLAで活動することになったという。
アルバムは管弦などの一部を除き自作自演で、すべての作業を自分たちのホーム・スタジオで完了。レーベルも含めて、徹底してインディペンデント精神を貫く彼女たちは一国の長であり、それゆえに〈キング〉を名乗る。来るコリーヌ・ベイリー・レイの新作に参加し、敬愛するマイルス・デイヴィスの自伝的映画に関連したリミックス集にも楽曲を提供した才能豊かなトリオは、新しい何かを探し求めるようなリリックよろしく、さらに前進し続けていくことだろう。 *林 剛
ワンネスと多様性が入り交じる、2016年のネオ・ソウルと周辺

制作陣もややかぶる『In My Mind』と合わせて聴きたいのはもちろんこの傑作。ドクター・ドレーの抜擢によって脚光を浴び、最近アフターマス入りも発表されたアンダーソン・パックのセカンド・アルバムだ。“The Waters”にはBJをフィーチャー。薄くも濃くもない絶妙な耳触りが多くの耳を惹く理由か。

ウォーリン・キャンベル周辺と縁深いということで、BJとも繋がってくるのがこのエリック・ロバーソン。こちらの最新作にはキングを迎えた“Just Imagine”(プロデュースはパリス)を収めたほか、ジョン“ジュブ”スミスやドウェレの参加もアリ。日本ではあまり評価されてないけど、やってることはド真ん中です。

キングのメンバーも招いた前作『The Light Of The Sun』で復権したフィリーの女帝。トラディショナルな部分も強調したこの最新作ではシメの“Beautiful Love”にてBJを抜擢していた。旧知のアンドレ・ハリスを片腕に、ドンテ・ウィンスロウやテラス・マーティン、ジャイラス・モジーらの起用も光る。

独特の美意識を出し入れしつつ10年かけて我流を王道と認めさせてきた天才の、現時点での最高傑作。今作ではキングならぬ“Queen”で女性を賛美し、ソウルフルな“Baby Come Back”ではBJとジャイラス・モジーを制作に起用している。トラディショナルな本質をモダンな感覚で表現するのがネオ・ソウル。
BJの『In My Mind』で腕を揮ったギタリストのジャイラス・モジーは、こちらのBJによるネオ・スムース・ソウル作にも貢献。他にもジョン“ジュブ”スミスやロブ・ベーコン、ドウェレらが演奏し、ストークリーのヴォーカル曲も収録されているので、ソウル好きにこそ引っ掛かるジャズ盤と言えそう。

メインストリーム色の強い歌い手は意識高い系リスナーの視界に入りにくいのだろうが、本来そういう分類が謎だ。ジョン“ジュブ”スミスを参謀に据え、ジャイラス・モジーらも助力した柔らかな演奏と美麗な歌声が素晴らしい。往時のネオ・ソウル文脈を吸収したモダンな王道のR&B。

才気デリック系でいうとこのロマンティック野郎も忘れられない。本作はマシーンドラムがプロデュースにあたった濃密オルタナティヴ異能作。そういえば彼の“B4 The Night Is Thru”がジャイルズにピックされた『Brownswood Bubblers Seven』には、クリス・ターナーやキングの“Hey”も並んでいた。

THE FOREIGN EXCHANGE Tales From The Land Of Milk And Honey Foreign Exchange(2015)
元リトル・ブラザーのフォンテがニコレイと組んだ、〈東のサー・ラー〉的な折衷ソウル・ユニット。70年代的な美意識を基盤に早くから80年代サウンドを導入してきた連中だけに、ブギーもマシーン・ファンクもスムースな自然体でマイルドに聴かせてくれる。
