夫の死という悲劇に前後して生まれた前作『The Sea』は、オーガニックな意匠を纏いつつも陰りや悲哀を漂わせた内容だった。それから6年、デビュー時から彼女を支えるプロデューサーのスティーヴ・ブラウンと再婚し、スタジオを新たに設立して没頭したというこの3作目は、華やかで美しい生命力に満ちている。それはアートワークやこれまでになくビートの効いた楽曲群というわかりやすい変化だけでなく、彼女らしいフォーキー・ソウルにも力強さとして表れた。キングとの共作“Been To The Moon”のコズミックな浮遊感ある楽曲をたちまちアーシーに彩るような歌声や、ヴァレリー・シンプソンが書いたカーティス・メイフィールド風のスロウ“Do You Ever Think Of Me?”での豊かな表情にはエナジーが漲る。ジェイムズ・ギャドソンやピノ・パラディーノ、マーカス・ミラー、エスペランサといった名手も本作の骨太な音像をサポート。〈ハートがささやく〉と題した通りの親密な温もりは、心が温まるどころか熱くなる。