ケンドリック・ラマーは第58回グラミー賞で5冠に輝き、復活を遂げたディアンジェロは今年3月の再来日で横浜公演をソールドアウトさせた。両者の最新作でロバート・グラスパーを筆頭とする新世代ジャズ勢が大きな働きを見せ、ジャンルの壁を越えた〈連帯〉が音楽シーンの勢力図を塗り替えている昨今。彼ら主役たちの活躍に続けとニューカマーも名乗りを上げ、ブラック・ミュージック全体が21世紀以降のピークと呼べそうな盛り上がりを見せている。そのなかで注目すべきは、旬の才能たちが今年の春~夏にかけて続々と日本にやってくること。7月に〈フジロック〉出演とBillboard Liveの単独公演も予定しているロバート・グラスパー・エクスペリメントを筆頭に、ジ・インターネット、カマシ・ワシントン、ハイエイタス・カイヨーテなど、前回の公演で大反響を巻き起こしたアクトはもちろん、ブレイク間近の新顔も見逃せない。
そのなかから、今回は4月のブランドン・コールマンと5月のキングを中心に、この春の注目公演を一挙紹介。コンピレーション・シリーズ〈Free Soul〉やディスクガイド本「Suburbia Suite」などを通じてアーバン・ミュージックを長年紹介してきた編集者/選曲家/DJ/プロデューサーの橋本徹(SUBURBIA)氏と、〈Jazz The New Chapter〉シリーズで監修を務める音楽評論家の柳樂光隆氏を迎えて、来日フィーヴァーの観どころを語ってもらった。

ブランドン・コールマン
日時/会場
4月9日(土) Billboard Live TOKYO(詳細はこちら)
4月11日(月) Billboard Live OSAKA(詳細はこちら)
2015年のカマシ・ワシントン来日公演で存在感を放った鍵盤奏者がブランドン・コールマン。スタンリー・クラークやロイ・ハーグローヴ、ケニー・ギャレットなどジャズ界の大物たちと共演する傍ら、カマシ・ワシントン『The Epic』(2015年)やフライング・ロータス『You're Dead』(2014年)、サンダーキャット『The Golden Age Of Apocalypse』(2011年)などブレインフィーダー界隈の重要作にも参加。2011年にCD-R/配信のみで自主リリースされたあと、2015年に日本盤化した初ソロ・アルバム『Self Taught』でも多彩な才能をアピールしてみせたLAシーンの秘密兵器が、今回は自身のバンドを率いて登場する。
橋本徹「僕がジャズやビート・ミュージックに根差した、2010年代に続くLAシーンの流れを意識するようになったきっかけは、カルロス・ニーニョとビルド・アン・アークだったんだけど、ブランドン・コールマンは彼とミゲル・アットウッド・ファーガソンのJ・ディラ・トリビュート作『Suite For Ma Dukes』(2009年)に参加していて、その名を意識したんだよね」
柳樂光隆「僕も一緒です。カルロス・ニーニョ/ビルド・アン・アーク周辺やブレインフィーダー界隈から生まれ落ちた、LAの正統派というイメージ。『Suite For Ma Dukes』より遡ると、ビリー・ヒギンズ※がラマート・パークに設立したLAのコミュニティーで、カマシ・ワシントンなどと一緒に演奏していたのが彼のルーツなんですよね。過去にはベイビーフェイスとも一緒に仕事していて、そういうスタジオ/ツアー仕事でメロウな感覚を培ってきた人だと思います」
※オーネット・コールマンやジョン・コルトレーンとも共演したLA出身のジャズ・ドラマー。2001年に肝不全で死去
橋本「カマシのライヴでは、重厚感のあるスピリチュアルな演奏のなかで、彼のヤンチャなノリが良い味になっていた。ジ・インターネットにおけるジャミール・ブルーナー(サンダーキャットの実弟)もそうだけど、こういう砕けた人がバンドに参加することで逆にバランスが取りやすいのかもしれない。『The Epic』に収録された演奏とは少し違ったよね。あのアルバムでは、ステージ上でのキャラクターからは想像しづらい、荘厳な雰囲気がキーボードからも感じられたから」
柳樂「『The Epic』は作りがカッチリしてますもんね。実は即興的な部分だけじゃなくて、作曲やアレンジの部分が優れているアルバムだと思いますし」
橋本「そうそう、名盤たる風格がすごいじゃない。その一方で、ライヴ・パフォーマンスや本人のアルバム『Self Taught』では、もっと遊び心が感じられる」
柳樂「とことんアーバンな音を、衒いもなく鳴らしてますよね」
橋本「デイム・ファンクあたりが標榜しているようなアーリー80sのファンク/ブギ―だったり、70年代後半のジャズ・ファンクやフュージョンの流れにある音だよね。ある意味、サンダーキャットのスタイルにも近い」
柳樂「ブランドン・コールマンとサンダーキャットといえば、ディー・ディー・ブリッジウォーターが歌っているスタンリー・クラークのアルバムを思い出すんですよ」
橋本「『Children Of Forever』(73年)でしょ? 『Jazz Supreme』(橋本が監修した2008年刊行のディスクガイド&コンピCD)でも紹介しているけど、あのアルバムは最高だよね」
柳樂「不思議なバランス感覚を持った一枚ですよね。スピリチュアル・ジャズっぽいけどフュージョンらしさもあるし、フュージョンにしてはニュー・ソウル的なメロウネスもある。そういう独特な感じが、ブランドンやサンダーキャットの音楽にも感じられる気がして」
橋本「コズミックなんだけど、同時代のブラジリアンやAORみたいにメロディアスなエッセンスもあるんだよね。あと、ハービー・ハンコックの『Sunlight』(78年)に“I Thought It Was You”ってヴォコーダーを使った曲があるでしょ。『FREE SOUL GRAFFITI』(98年)にも入れたことのある名曲だけど、ブランドンはあのへんのスタイルを進化させている印象があるかな」
柳樂「そうですよね。ビル・ローレンス(スナーキー・パピー)もそうだし、『Sunlight』をお気に入りに選ぶ若いジャズ・ミュージシャンは最近多いですよ。そういえば、昨年ブランドンに取材したときに、ヴォコーダーやシンセのマニアだと言ってました。あとは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような80sカルチャーや、ジョン・ウィリアムズみたいな映画音楽がとにかく大好きなんですよね。ゴージャスで夢のある感じというか」
橋本「70年代後半~80年代前半にかけて生まれた音楽や文化が、ルーツの一つになっている世代なんだろうね」
柳樂「『Self Taught』の話をすると、4曲目(“Gotta Be Me”)が〈ベニー・シングスが書いたモータウン・ポップス〉って感じでたまらないんですよ」
橋本「3曲目(“Moon Butter”)は、かなりフリー・ソウルっぽかったな(笑)。エレピやフェンダー・ローズ、クラヴィネットにシンセ・ベースやヴォコーダーも駆使して、ファンキーなんだけどAOR的なフィーリングがある。そういうのでまず思い浮かぶのはスティーヴィー(・ワンダー)だけど、彼らにとって大きいのはジョージ・デュークなんだろうな」
柳樂「確実にそうでしょうね。ジョージ・デュークはもともとフランク・ザッパのところにいた人だから、メロウな部分とエクスペリメンタルな部分を両立させていて、そういうところも最近のLAシーンと繋がっていますよね。そういえば、フライング・ロータスも『You're Dead!』(2014年)を発表したときに、ジョージ・デュークの『The Aura Will Prevail』(75年)を影響源として挙げていました」
橋本「そのアルバムと同じ年にリリースされた『I Love The Blues, She Heard My Cry』に収録されている“Someday”は、特にフリー・ソウルのファンが好きな曲のなかでもブランドンやサンダーキャットっぽいかもね。エレクトリックでちょっとヘンな鍵盤が中心なんだけど、メロディアスで浮遊感がある」
柳樂「でもライヴになると、ジミヘンがキーボードを弾いているような感じになるんですよね。〈キーボードでキーボードを弾かない〉というアイデアも、いまのジャズ・ミュージシャンっぽい。実際に、本人も普段はギターばっかり弾いてるそうで、インタヴューでもジミヘンとアルバート・キングの話をしていました」
橋本「それ、想像できるなぁ(笑)。いずれにせよ、バンド・リーダーとしては今回が初めての来日だよね。『Self Taught』のポップな世界観が前面に出たら、誰が観ても絶対楽しいライヴになるだろうね」
柳樂「あとはブレインフィーダーから『Resistance』というタイトルの新作を年内に出す予定で、そこに収録される曲も一足先にプレイするかもしれないですね。7月にはカマシも〈フジロック〉で再来日しますが、その前にブランドンのライヴを観ておくことで、カマシのアンサンブルも一層楽しめるようになるかもしれない」
橋本「ブレインフィーダーの作品は、いつもコンセプチュアルでしっかり作り込まれているから、『Self Taught』以上に決定的な内容になるんじゃないかな」

ジャック・ムーヴス
日時/会場
4月8日(金) Billboard Live TOKYO(詳細はこちら)
4月10日(日) Billboard Live OSAKA(詳細はこちら)
ブランドン・コールマンの来日公演と時を同じくして、新世代ソウル・デュオのジャック・ムーヴスもデビュー・アルバム『The Jack Moves』を引っ提げて初来日。彼らにも要注目だ。
橋本「ジャック・ムーヴスはスウィート・ソウルの現代版という感じで、本当に良く出来てるよね。シングルの“Make Love”は、初めて聴いたときに、ラジオで流れてきたらみんな好きになりそうな曲だなって思った。最近の新人アーティストのなかでは、かなりキャッチーじゃないかな。普遍的に訴えかけてくるタイプの音楽だし、スウィートなサウンドのなかにメランコリーな要素も感じられるのもいい」

キング
日時/会場
5月2日(月) Billboard Live TOKYO(詳細はこちら)
5月4日(水・祝) Billboard Live OSAKA(詳細はこちら)
プリンスがライヴの前座に起用し、エリカ・バドゥも〈まるで2029年にいるような音楽〉と手放しで賞賛。ロバート・グラスパー・エクスペリメントが『Black Radio』(2012年)収録曲“Move Love”でフィーチャーし、ケンドリック・ラマーがミックステープ『Section. 80』(2011年)で楽曲をサンプリングするなど錚々たる面々に登用されてきた、パリス&アンバーのストローザー姉妹とアニータ・バイアスによる3人組女性ヴォーカル・ユニットがキングだ。今年3月に日本盤がリリースされたファースト・アルバム『We Are King』でR&Bシーンに新風を巻き起こした、2016年を代表する大型新人が待望の初来日を果たす。
柳樂「橋本さんがキングを初めて意識したのはいつ頃でした?」
橋本「ケンドリック・ラマーのミックステープと、ジャイルズ(・ピーターソン)の『Brownswood Bubblers Seven』(2011年)に収録されているのを聴いたのが、ほぼ同時期だったのかな。グラスパーの『Black Radio』に参加したのを知ったときは〈すげぇー!〉って思ったよ。まだアルバムも出してないのに、大抜擢どころの騒ぎじゃないよね?」
柳樂「当時はまだそれほど騒がれてなかったし、『Black Radio』のゲストは大物ばかりですもんね。この間、僕の友人がボストンで彼女たちのライヴを観てきたんですけど、とにかくすごいと言ってましたよ。『Black Radio』に参加したのも、ライヴの地力があるからなんでしょうね」
橋本「あのコミュニティーの信頼感はすごいよね。エリカ・バドゥやビラル、レイラ・ハサウェイが名を連ねるなかで、キングもすでにミュージシャンズ・ミュージシャンとしての評価を確立しているんだろうな」
柳樂「ひと昔前でいうと、エリカ・バドゥのバックを務めたエンダンビみたいですよね。主役よりも歌が上手そうな実力派というか」
橋本「5月にリリースされるマイルス・デイヴィスのリミックス作『Everything's Beautiful』にもキングは参加しているみたいだもんね。(同作を手掛けた)グラスパーは、そういう才能を引き上げるのが本当に上手いよね。ほかにもジョージア・アン・マルドロウにローラ・マヴーラ、フォンテのような人たちも起用しているし」
柳樂「そこへ当然のようにエリカ・バドゥも参加しているんですよね。新しい才能をフックアップし続けるエリカ・バドゥの精神的支柱ぶりも大したものですよ。最近だとハイエイタス・カイヨーテもそうだし」
橋本「エリカ・バドゥやケンドリック・ラマーみたいな人が絶賛しているのが、現場だと一番説得力を持つんだろうね。エリカはリスナーとしても素晴らしいし、今日に続く流れを先導してきたパイオニアで、しかも現役感がすごい。この間のミックステープ(2015年の『But You Caint Use My Phone』)も最高だったし」
柳樂「単なるスターじゃないですよね。あの人が褒めてるミュージシャンはとにかく全員巧い」
橋本「それにしても、キングには新しい感性の登場を実感させられたよ。90年代にジャム&ルイスが手掛けたジャネット(・ジャクソン)の『Janet』(93年)を彷彿とさせるし、声質もシャーデーやアリーヤみたい。70年代で言うなら、デニース・ウィリアムズやシリータ、ミニー・リパートンにシェリー・ブラウンあたりに通じる清らかなメロウネスも秘めている」
柳樂「(橋本が今年3月にコンパイルした)『Ultimate Free Soul 90s』でTLCやアン・ヴォーグ、SWVとかを聴き直しながら、キングの気持ちよさは90年代の女性R&Bグループが持っていたものと同じだと思いましたね」
橋本「スムースでエレガントなんだけど、揺らぎの美学がちゃんと反映されているのは現代的だよね。アンビエントR&B/オルタナティヴR&B以降の新しい感性を象徴している。ベン・ワットなどネオ・アコースティックと後に呼ばれる音楽が80年代初頭に登場したとき、イギリスのプレスは〈ニュー・センシティヴィティー〉と呼んだんだよね。それと同じように、キングの『We Are King』はR&Bの新時代が始まったことを告げる〈ニュー・センシティヴィティー〉なアルバムじゃないかな。ハイエイタス・カイヨーテやジ・インターネット、ライやクアドロンが登場したあとのシーンにも完璧にハマっているし、満を持してのアルバム・デビューだと思う」
柳樂「すごくわかります」
橋本「アルバム中でも象徴的なのが、3曲目の“Red Eye”。これがまた(マイケル・ジャクソンの)“I Can't Help It”オマージュなんだよね。かつてスティーヴィーがマイケルに書いた“I Can't Help It”という曲の存在感を、〈2010s Urban〉※らしいフィーリングで更新している」
※2010年代の音楽シーンにおけるフリー・ソウル的な遺伝子を持った楽曲を集めた、橋本が手掛けるコンピ・シリーズ
柳楽「“I Can't Help It”といえば、グレッチェン・パーラトやエスペランサ・スポルディングもカヴァーしていたり、現代ジャズにおいても重要な一曲ですよね」
橋本「それはもちろんだし、一番象徴的なのは(橋本の手掛けたコンピ)『Free Soul ~ 2010s Urban-Mellow』にも収めたクアドロンの“Neverland”。曲名通りマイケルへのオマージュ・ソングなんだけど、この曲と“Red Eye”は対になる。どちらも“I Can't Help It”を下敷きにしているからあたりまえかもしれないけど、2010年代半ばのR&Bにおけるプロトタイプがどこにあるのかを典型的に示す楽曲だと思うな。ジャネール・モネイがエスペランサとの共演で発表した“Dorothy Dandridge Eyes”にも、まったく同じことが言えるけど」
柳樂「わかります。最近はクインシー・ジョーンズが再浮上していますよね」
橋本「さっき挙げた例にもう1曲加えるなら、『Free Soul ~ 2010s Urban-Sweet』に収録した、テラス・マーティンとクインシーが一緒にやっている“I Can't Help It”かな。クインシーによる最高の仕事は『Off The Wall』(マイケル・ジャクソンの79年作)で、そこにスティーヴィーが加わった“I Can't Help It”が、デ・ラ・ソウルが“Breakadawn”でサンプルにして以来、どんどん重要になってきているということなんだよね」
柳樂「(テラス・マーティンがプロデュースで参加した)ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』にも顕著だけど、西海岸の音楽において、クインシー的なメロウネスの存在感が大きくなっている印象です」
橋本「そうだよね。“If I Ever Lose This Heaven”や“Summer In The City”のような曲も最近よくカヴァーやサンプリングされているし」
柳樂「ネオ・ソウルのルーツにあたるニュー・ソウルやファンクと比べて、もうちょっとセクシャルな線ですよね。リオン・ウェアじゃないけど、もうちょっとセクシーでメロウな感じ」
橋本「まさにそれ! ネオ・ソウルやニュー・クラシック・ソウルと呼ばれる音楽と、キングのように「揺らぎのあるスムースでエレガントな女性ヴォーカルのソウルとの違いはそこなんだよね。マーヴィン(・ゲイ)で言えば、“What's Going On”から“I Want You”に行く感じ」
柳樂「そうそう、その〈中間〉な感じですよね。ソウルすぎず、R&Bすぎないのがすごく気持ち良いんですよ。例えば“Supernatural”に、アレサ(・フランクリン)の“Day Dreaming”に近いものを感じるというか――さらに言えば、アリワ(マッド・プロフェッサーが主宰したレーベル)がリリースしていた、ジョセリン・ブラウンによる“Day Dreaming”のラヴァーズ・ロック・カヴァーのスウィートな感じですよね」
橋本「そういうラヴァーズ・ロック感もだし、さっき話したデニース・ウィリアムズやシリータ、あるいはシャーデーとかに通じる感性もそこだよね。クールな色香があってウェットになりすぎない。ジ・インターネットやクアドロンにも通じる両性具有的なフィーリングというかさ」
柳樂「そうですね。ゴスペルっぽい感じがしなくて、もっとサラッとした感じ」
橋本「昔ながらの黒さとは違うよね。あとはケンドリック・ラマーがサンプリングした“Hey”もそうだけど、〈揺らぎの美学〉みたいなものを感じるでしょ。“Love Song”も歌声に掛かったエフェクトが気持ち良くてさ、そういうところにも現代性を感じるんだよな」
柳樂「しかもキングの3人は、曲作りやプロダクションのみならず、ライヴも自分たちだけでパフォーマンスしているんですよね」
橋本「そのへんも旧来のR&Bと違うところじゃないかな。ジャズの世界における、グレッチェン・パーラトやベッカ・スティーヴンスのような現場感があるというか」
柳樂「それに、楽曲自体もセッションから作り上げているような感じがしますもんね。一番やりたいことはライヴ・ミュージックなんだろうな」
橋本「もう一つ注目すべきはハーモニーだよね。『Lovers Rock』(シャーデーの2000年作)やデニース・ウィリアムスの“Free”、あるいはマーヴィンが自分とデュエットしているときのような感じを、彼女たちは3人で再現している」
柳樂「ジャズやブラック・ミュージックというと、ここ数年はリズムがトピックになることが多かったけど、最近はハーモニーやコーラス、もしくはユニゾンを効果的に用いたものにおもしろいものが多い気がしていて。この間来日していたイベイーもそうだし、ジェイコブ・コリアーが機材を操りながら一人で多重コーラスを操っていたのも驚きました」
橋本「いまはそのへんの音楽がすごくフレッシュに聴こえてくるよね。コリーヌ・ベイリー・レイがキングと作った新曲(“Green Aphrodisiac”)も最高だったな。ある意味、新しい感性としてとても象徴的」
柳樂「グラスパーもリズムは(他のメンバーに)任せて、おもしろいハーモニーやコード・ワークを追求している人じゃないですか。そういう意味でも、共感しているところがあるのかもしれない」
橋本「確かに。その登場の仕方も含めて、『Black Radio』以降の〈ニュー・センシティヴィティー〉から生まれたR&Bの形だよね」
柳樂「こういうコーラス・グループってしばらくいなかったじゃないですか。特にデスティニーズ・チャイルド以降は、ダンスの要素が強くなっていったから」
橋本「3人並んでるジャケだけでもSWVの時代を思い出すよね(笑)。また上手い具合に、螺旋階段が一周したということじゃないかな」

チャカ・カーン
日時/会場
5月14日(土)、19日(木)、20日(金) Billboard Live TOKYO(詳細はこちら)
5月16日(月)、17日(火) Billboard Live OSAKA(詳細はこちら)
5月21日(土)、22日(日) 〈GREENROOM FESTIVAL '16〉(詳細はこちら)
5月はキングに続いて、〈ファンクの女王〉チャカ・カーンも来日。Billboard-LIVE公演のほかに、横浜・赤レンガ地区野外特設会場で開催される〈GREENROOM FESTIVAL '16〉にもハイエイタス・カイヨーテらと共に出演する予定で、この大御所によるステージも新世代アクトと共に注目だ。
柳樂「なんと今回の公演で、ドラムスを叩くのがロナルド・ブルーナーJr※なんですよ。一時期はチャカ・カーンの新作をグラスパーがプロデュースするという噂もありましたが、元を辿れば昔からソウルやディスコを採り入れながら、積極的にクロスオーヴァーしてきた人ですしね。この時代に再浮上するのも当然だし、2000年以降のチャカ・カーンは本当に充実しています。個人的にも、今回の来日はぜひ観ておきたい」
※ロイ・ハーグローヴやスタンリー・クラークなどジャズの大物と共演しながら、弟のサンダーキャットやフライング・ ロータス、ケンドリック・ラマーやカマシ・ワシントンの最新作などにも参加する凄腕ドラマー
★東京公演の詳細はこちら
★大阪公演の詳細はこちら
★〈GREENROOM FESTIVAL '16〉の詳細はこちら
今回取り上げたアーティストのほかにも、5月はエスペランサ・スポルディングの単独公演も控えており、6月にスナーキー・パピーがやってきたあとは、〈フジロック〉でグラスパーとカマシ、ジ・インターネットがやってくる。このようなブラック・ミュージックの活況を2人がどのように捉えているのか、最後に訊いてみた。
橋本「中古盤は週に1枚買うかどうかで、とにかく新譜を山ほど買って聴くという状態がここ何年か続いていて。いちリスナーとして非常に楽しんでいるね」
柳樂「冨田ラボさんやピーター・バラカンさんと同じことを言ってますね(笑)。あのピーターさんが〈旧譜を聴いている暇がない〉と言ってましたもん。メジャー・レーベルやビッグ・アーティストがおもしろいというのも重要じゃないですか」
橋本「確かに。選曲も含めて音楽を紹介したりするときは、マニアックなものとメジャーなものを上手く混ぜられるように心掛けているんだけど、最近はそういうことがすごくしやすいんだよね」
柳樂「『Ultimate Free Soul 90s』もそういう作りになってましたね。シャンテ・ムーアと一緒に、TLCみたいなメガヒットした人たちが共存していたり、そこにアシッド・ジャズやネオ・ソウルも収められていて……」
橋本「そうそう。同時代のさまざまなジャンルが隣接して混じり合っている感じも、あの時代にすごく似ているかもしれないね。誰かが裏で手を引いているんじゃないかと思うくらい(笑)、大きな流れみたいなものを感じるな」
柳樂「グラスパーやカマシ・ワシントンがケンドリック・ラマーの作品に参加したり、ディアンジェロの後ろでクリス・デイヴがドラムを叩いたり――というのが象徴的ですけど、広い意味でコミュニティー・ミュージックっぽいというか、人との繋がりや交流から生まれるダイナミズムを強く感じます」
橋本「今回話したブランドン・コールマンやキングも、最初のアルバムを出す前から話題作に参加して、意義深い交流を重ねてきた人たちだもんね。先にそういう文脈があるから、(聴く側も)キーパーソンとしての存在感が感じられるのも大きい」
柳樂「しかも、理想的すぎるタイミングで日本にやって来るわけですからね。(ライヴに通うので)毎月大忙しですよ(笑)」
橋本「ジャズとヒップホップ、ソウル・ミュージックの蜜月が訪れているよね。個人的には、6月に来日するBJザ・シカゴ・キッドもすごく楽しみ。今年に入って一番リピートしているのは、マーヴィン・ゲイやディアンジェロの現代版という感じの“Turnin' Me Up”とアンダーソン・パック“The Waters”の2曲で、どちらもBJザ・シカゴ・キッド絡みなんだけど、〈これが2010年代のソウル・ミュージックです!〉と言って差し出したいくらい大好きなんだよね」
★BJザ・シカゴ・キッド東京公演の詳細はこちら
★大阪公演の詳細はこちら
ブランドン・コールマン
【東京公演】
日時/会場:2016年4月9日(土) Billboard Live TOKYO
開場/開演:
1stステージ:17:00/18:00
2ndステージ:20:00/21:00
料金:サービスエリア/7,000円 カジュアルエリア/5,500円
★公演詳細はこちら
【大阪公演】
日時/会場:4月11日(月) Billboard Live OSAKA
開場/開演:
1stステージ:17:30/18:30
2ndステージ:20:30/21:30
料金:サービスエリア/6,900円 カジュアルエリア/5,900円
★公演詳細はこちら
キング
【東京公演】
日時/会場:2016年5月2日(月) Billboard Live TOKYO
開場/開演:
1stステージ:17:30/19:00
2ndステージ:20:45/21:30
料金:サービスエリア/7,500円 カジュアルエリア/6,000円
★公演詳細はこちら
【大阪公演】
日時/会場:5月4日(水・祝) Billboard Live OSAKA
開場/開演:
1stステージ:15:30/16:30
2ndステージ:18:30/19:30
料金:サービスエリア/7,500円 カジュアルエリア/6,500円
★公演詳細はこちら
ロバート・グラスパー・エクスペリメント
【大阪公演】
日時/会場:7月20日(水)、21日(木) Billboard Live OSAKA
開場/開演:
1stステージ:17:30/18:30
2ndステージ:20:30/21:30
料金:サービスエリア/9,800円 カジュアルエリア/8,800円
★公演詳細はこちら
【東京公演】
日時/会場:2016年7月25日(月)~27日(水) Billboard Live TOKYO
開場/開演:
1stステージ:17:30/19:00
2ndステージ:20:45/21:30
料金:サービスエリア/9,800円 カジュアルエリア/8,300円
★公演詳細はこちら
※〈フジロックフェスティバル '16〉にも出演
詳細はこちら
PROFILE
橋本徹(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』『Good Mellows』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは290枚を越える。USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。
http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/
柳樂光隆
79年、島根・出雲生まれ。ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。「Jazz The New Chapter」監修者。CDジャーナル、JAZZJapan、intoxicate、ミュージック・マガジンなどに寄稿。カマシ・ワシントン『The Epic』、ブランドン・コールマン『Self Taught』、エスペランサ・スポルディング『Emily's D+Evolution』、テラス・マーティン『Velvet Portraits』ほか、ライナーノーツも多数執筆。