プリンスに寵愛されたヴォーカリスト、ついにデビュー!
ナッシュヴィル出身のキャンディス・スプリングス。セッション・シンガーの父からソウルやジャズを教わり、家に転がり込んできたピアノを弾き始め、ノラ・ジョーンズの2002年作『Come Away With Me』を聴いてシンガー・ソングライターを志したのが10代前半。その後、18歳になったキャンディスに契約を持ちかけて後にデビューさせる後見人のカール・スターケンとエヴァン・ロジャース(リアーナを発掘したヴェテラン制作チーム)が最初に耳にしたのもノラが歌っていた《The Nearness Of You》のカヴァーだった。
「エラ・フィッツジェラルドやロバータ・フラック、ダイアナ・クラール、シャーデーも好きだけど、若くてピアノの弾き語りをする人ならノラ。アリシア・キーズも似たような人だけど、私の心に語りかけてくれたのはジャジーなノラの方だった」
デビュー・アルバム『Soul Eyes』はブルー・ノート発。そして、その収録曲として、プロデューサーのラリー・クラインを通して知り合ったジェシー・ハリスからも曲を貰った。そうした事実を並べると〈ノラ・ジョーンズの再来〉と謳いたくもなるが、彼女はもっとソウルフル。実際に、ドン・ウォズに認められてブルー・ノート入りした彼女が最初に出したEPは現行アーバン色が強く、今回のアルバムとはやや路線が違っていた。
「いまのようなジャズ路線では売れないのではないかという恐れがあったの。でも私は子供の頃からノラの曲を歌ってきた。それでアルバムは、プロデュースしすぎず、すべて生演奏でジャズっぽく作ってみたの」
そんな彼女の気持ちを後押ししたのが、サム・スミス《Stay With Me》を歌う姿を某サイトで発見し、SNSで連絡してきたプリンスだった。殿下からは黒い革のジャケットをプレゼントされ、ミネアポリスの街を一緒にドライヴするほどの仲だったという。
「ペイズリー・パークでの『Purple Rain』30周年記念コンサートに誘われた時にヒップホップっぽい曲を歌ったんだけど、ピアノも少し弾いてみたら、『君が本当にやりたいのはそっち(後者)の方向じゃないか?』って言われて。その後、アルバムに収録した《Rain Falling》のデモを送ったら、〈《How Come U Don't Call Me Anymore》に匹敵する曲だよ〉と言われたわ」
ウォーやシェルビー・リンの名曲カヴァーを披露し、ジャズ古典を取り上げた表題曲などではテレンス・ブランチャードを招いた『Soul Eyes』。本作以外ではレーベル仲間のロバート・グラスパーとも交流・共演しているキャンディスだが、もし『Black Radio 2』の続編があるなら、彼女は真っ先にゲスト指名されるだろう。それほどの実力と華を備えた人なのである。